津波による人的被害をより抑えるためのハザードマップを、さらに強化する

福島県立磐城高等学校 天文地質部

左から菜花佑太君(1年)、河野大樹君(2年)、阿部宮基君(2年)、松﨑湧太君(3年)
左から菜花佑太君(1年)、河野大樹君(2年)、阿部宮基君(2年)、松﨑湧太君(3年)

◆部員数 16人(1年生4人、2年生11人、3年生1人)

◆答えてくれた人 河野大樹君(2年生)

 

■研究内容「津波の被害を抑制するための都市構造の研究~いわき市四倉地区を例に~」

私達は、2011年からいわき市の津波被害の調査を行い、津波による人的被害を最小限にするための方法を検証するために、2012年からハザードマップの作成を行ってきました。調査の中で、津波が滞留して浸水高が周りより高くなるところがあること、実際の避難には時間がかかることがわかったので、今回はこれらも考慮した避難経路を考えました。

今回のハザードマップ作成においては、東北地方太平洋沖震時の規模津波を想定して、これまでの

(1)避難の範囲…浸水する可能性のある範囲

(2)被害の大きさによる避難ゾーンの区分け

 避難地域I : 建物の被害が大きくなりやすい地域

 避難地域II : 建物の被害が比較的大きくなりにくい地域

(3)津波の遡上が早く、避難時に危険となる道路

に加えて、

(4)津波が滞留し、浸水高が高くなりやすい地域

(5)避難経路

について調査しました。

 

被害の状況を見ると、津波の対流しやすい地域がありました。これを調べるために、実際の500分の1の模型を作製し、津波発生装置に設置して水を流し、ハイスピードカメラを用いて津波の挙動を観察しました。

 

すると、一部地域で押し波と引き波が時間の経過とともに一か所に集まり、津波が滞留するような挙動が見られました。このような地域では、避難の際に迂回ルートを選択することが必要であることが示されました。

 

また、昨年行った(3)津波の遡上しやすい道路に障害物があった場合、どの程度津波の遡上が遅くなるかを観測したところ、障害物がある場合の速度は障害物がない場合の約70%程度になりますが、障害物の量は遡上速度には関係がないことがわかりました。

 

さらに、避難経路を確定するために、様々な経路を実際に歩いて避難にかかった時間を測定し、エリアごとに最適な避難経路を決定しました。

 

新しいハザードマップでは、津波が滞留する地域を避け、地域ごとに最適な避難経路を矢印に沿って示し、所要時間も示しました。

 

 

■研究を始めた理由・経緯は?

 

私達の学校のあるいわき市は、東日本大震災の時に津波の被害を受けました。私達の先輩が、2011年5月から被災した沿岸部の町約60kmを実際に歩いて、津波の痕跡の観察や住民への聞き取り調査などでデータを集め、建物への被害(物的被害)を抑制できるような都市構造の研究を始めました。2013年度からは、物的な被害を軽減できたとしても、人命を完全に守ることは難しいと考え、人や車の実際の動きを考えて、迅速かつ安全に避難できるようなハザードマップの作成を始めました。

 

■今回の研究にかかった時間はどのくらい?

 

今回のテーマについては、1日あたり3時間で4か月。このハザードマップの研究自体は、東日本大震災後の2011年から始まっていて、開始から1年間ほどは、まる一日使って野外調査を何度もおこなってきました。

 

■今回の研究で苦労したことは?

 

避難経路の検証をするために野外調査をしたこと。実際に避難する時と同じように、いろいろな道を歩いたり早歩きしたりするのはたいへんでした。

 

■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?

 

昨年度よりも研究が進んで、新たなハザードマップを完成させることができました。また、発表では、「フルード数」という専門用語が出てくるので、見に来てくださる人のために追加資料を作成して、わかりやすく説明できるようにしました。実験で用いた装置を立体的にとらえてもらうために、ミニチュア版を作製して持っていき、展示しました。

 

■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究は?

 

・「津波来襲時の映像解析による2011年東北地方太平洋沖地震津波の流速」(林里美ほか2012)

 →津波の流速を求めるために使いました

・「メルビン・ケイの水理超入門」(Melvyn Kay著、萩原国宏訳 インデックス社2014)

 →流速の計算の参考にしました。

 

■今回の研究は今後も続けていきますか?

 

ハザードマップにはいろいろな情報が入っていますが、見づらくなっているので、カラーバリアフリーなども考慮して見やすくしたいです。また、作ったハザードマップを地域の方々に伝えて、活用していただきたいと思います。

 

■ふだんの活動では何をしていますか?

 

天文地質部には「鳴き砂班」、「天文班」、「津波班」の3班があります。それぞれが、鳴き砂の定義づけやメカニズムの研究、太陽観測や電波望遠鏡の自作、ハザードマップの作成をしています。

 

■総文祭に参加した感想を教えてください。

 

全国大会のレベルの高さを改めて思い知りました。その地区の特性を生かしたテーマの研究も多く、出場できてよかったと思います。

 

 

高校部活での津波研究から東北大学工学部へ
福島県立磐城高校OG 新家杏奈さん(東北大学工学部建築・社会環境工学科)

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