「缶サット甲子園」優勝&「水ロケット」アジア大会出場の2冠達成! 飛ばすだけでなく、缶サットの自律走行にも挑戦

【物理】佐賀県立唐津東高等学校 科学部

◆書いてくれた人 白石明日香さん(2年)、林田陸くん(2年)

◆部員数 18人(うち1年生6人・2年生10人・3年生2人)

 

■研究内容「惑星探査ローバー型缶サット~自律制御への挑戦~」

惑星探査型ローバーは人間が踏み入れないような場所まで調査できます。このような無人探査機の技術は被災時などにも役立つと考え、探査機を自分たちで作成しようと思い立ちました。
私たちは4年前からローバー型缶サット(空き缶サイズの模擬人工衛星)の開発をしています。今年は特に、GPSと連動させた自律制御機構により目的地まで自動走行させることを目標としました。


自律制御を行うには、(1)障害物回避 (2)マイコンによるモーター制御 (3)GPSデータの取得 (4)自律制御プログラムの作成の4点が必要でした。


障害物を回避させるために、ローバーの前端に超音波距離センサーを搭載しました。このセンサーは超音波のはね返りにかかる時間を計算することにより、距離を測ります。


障害物回避の様子

さらにモータードライバーを搭載し、mbedというマイクロコンピューターと組み合わせることによって、モーターの駆動を制御することができました。またモーターの正転逆転回路を内蔵しているので、ローバーの前後左右の走行が可能になりました。

 

しかしmbedは電流を流す(high)と電流を流さない(low)の2つの状態しか設定できないので、スピード調整ができませんでした。


そこで私たちはPWM制御という、highとlowを素早く切り替えて平均として中間程度の電流を流すという制御方法を使いました。これによって、微妙な速度の調整ができるようになりました。

 

次にGPSデータの活用について研究しました。GPSモジュールは、図に示すように現在地の座標を記録します。

 

これと目的地の座標、そしてローバーの進行方向の3つのデータを組み合わせることによって、ローバーを目的地に到達させることができます。


まずローバーの向いている方位を電子コンパスで取得します。次にローバーからみた目的地の方位θは、θ=atan2(yDis÷xDis)×180/π となります(ただしxDisは目的地とローバーの経度の差、yDisは緯度の差)。この2つの方位の差をゼロに近づけることで、ローバーを目的地に向けることができます。

先ほどの角度の差によって、ローバーの走行を条件分けします。角度の差が5度未満のときは、ローバーを前進させます。差が5度以上45度未満のとき、走行しながら角度の差が5度未満になるまで片側の車輪の速度を上げます。差がさらに45度よりも大きい場合は、停止して、角度の差が5度未満になるまで回転させます。

また、目的地の座標情報とローバーのGPS情報により目的地への距離を算出し、目的地の半径5m以内に到達するまでは角度を調整しつつ走行させて、5m以内に入ればブザーを鳴らすようにしました。このようなプログラムを作成するために、まず角度と距離の計算プログラムを作成しました。次に、場合分けのプログラムを作成し、最後にモーター制御プログラムと組み合わせました。

これらの改善を施したローバーの性能を試すためにテスト走行を行いました。こちらがその時の動画です。このように、テスト走行は満足のいく結果となりました。

今年度の成果として、ローバーのGPSの誘導が可能となりました。しかし、まだローバーの速度が遅く、さらに足回りの強度の補強ができていません。今後の研究でこのような点も改善し、より高性能な惑星探査型ローバーを目指したいと思います。

 

■研究を始めた理由・経緯は?

・火星探査機「キュリオシティ」のような缶サットを製作してみたいと思ったからです。(林田くん)
・先輩からの継続研究で行っています。(白石さん)

■今回の研究にかかった時間はどのくらい?

2013年8月から開始、平日で1日あたり約3時間です。

■今回の研究で苦労したことは?

ローバーを自律制御させること。GPSと連動させること。
 
■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?

・缶サットが自分で判断し、目的地まで走行する「自律制御」です。発表では、画像や図などを使って、難しい事をできるだけ簡単な言葉を用いて説明するようにしました。(林田くん)
・ローバーを自律制御、自律走行させているところをぜひ見てください!(白石さん)

■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究は?

・「mbedワークショップ」(セニオネットワーク株式会社) (入門~Can Sat編)
 https://mbed.doorkeeper.jp/events/10439
・『mbed/ARM活用事例』エレキジャック編集部/編(CQ出版社)
・『ボクの電子工作ノート』鈴木哲哉(ラトルズ)
・『XBeeで作るワイヤレスセンサーネットワーク』(オライリージャパン)

■次はどのようなことを目指していきますか?

・今年から大会のレギュレーションが変わったので、新しいレギュレーションにしたがって、以前のローバー型缶サットのような研究をしたいです。(林田くん)
・今までは、缶サット甲子園で成績を残すことを目標に活動していましたが、今後はそれに加えて、小学生に缶サットを教えることをやっていきたいと思っています。(白石さん)


■ふだんの活動では何をしていますか?


・缶サット、モデルロケット、水ロケットなど様々なロケットや模擬人工衛星の研究
・缶サット甲子園に向けての研究
・科学ボランティアという小学生を対象とした科学実験ボランティア活動の準備
 
■総文祭に参加して


・他校の発表を見て、物理的な角度から自分達で式を立て、最終的に正しいことをきちんと話していたところがすごかった。またそこまでもっていくための工夫もすごいと思いました。(林田くん)
・全国の高校生が集まった場での発表だったし、大勢の前での発表は初めてだったので、とても緊張しました。でも発表が終わった後、少しですが、他校の人と交流ができたのでよかったです。(白石さん)

 


※唐津東高校の科学部チームは、総文祭の後に出場した「缶サット甲子園全国大会」で優勝しました。また、JAXA主催の水ロケット大会でも優勝し、11月末にインドネシア・バリ島で開催される「第22回アジア太平洋地域宇宙機関会議「水ロケット大会」に日本代表として出場します。
 

※佐賀新聞「唐津東高科学部2冠 ロケット科学で目覚ましい成果」
http://www.saga-s.co.jp/news/saga/10105/223273

 

※唐津東高校は、昨年度のいばらき総文祭でも研究発表を行っています。くわしくはこちら↓

◆高くまっすぐ飛行する、高性能で安全なロケットをめざして

「高性能で安全なロケット」


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