宮崎でオーロラが観測された! のは本当か?

低緯度地域でのオーロラ観測の可能性を探る


【地学】宮崎県立五ヶ瀬中等教育学校 数理工学同好会

左から 杉田遼河くん(4年)、橋本智憲くん
左から 杉田遼河くん(4年)、橋本智憲くん

◆部員数 24人(うち1年生6人・2年生7人・3年生11人)
◆書いてくれた人 橋本智憲くん(5年(高2))

 

■研究内容

「Is it really aurora?~宮崎で観測された光の謎を解く~」


本来、高緯度でしか見られないはずのオーロラが、1986年3月に宮崎県で観測(撮影)されたとの情報を知り、それが本当にオーロラなのか、どのような発生の仕方なら宮崎県でオーロラが見られるのか、ということについて研究することにしました。

 

オーロラ撮影時の記録
オーロラ撮影時の記録

昨年の研究では、当時の新聞の情報のみで検証を行い、計算に用いた値も地磁気緯度ではなく地理緯度だったために、オーロラだと断定することができないと考えました。そこで今年は、まず手紙や聞き取りなどの事前調査で、当時の正確な状況を把握することにしました。そのうえで、3つの研究を行いました。

 

●研究1 オーロラでない可能性
まず、オーロラ以外の発光現象だったという可能性について考察しました。考えられるのは、
・カメラの不具合
・ハロー現象
・夜光雲
・光柱現象
の4つです。しかし、後ろの3つについては、先ほどの調査から当時の状況では発生しえないと考えました。カメラの不具合の可能性も、カメラの販売店を営む撮影者が当時最先端のカメラを用いて撮影していたことから、ほぼないと考えました。よって研究1では、オーロラ以外の発光現象だったと断言、または可能性があるとする結果は得られませんでした。

 

●研究2 低緯度オーロラの可能性を探る

次に、当時のオーロラの目撃証言がないことから、目視不可能なオーロラでもカメラによる撮影が可能なのかについて実験を行いました。


学校にあるオーロラ発生装置を用い、弱電圧での目視不可能なオーロラを発生させ、撮影当時と同じく露光時間30秒以上で撮影したところ、写真にオーロラが写ったため、目視不可能なオーロラでも撮影可能であることがわかりました。


そこで、当時撮影されたものがオーロラだと仮定し、撮影された日にもっともオーロラが南下した時刻について調査したところ、最も南下したのは、ユニバーサルタイムでの午前1時だったことがわかりました。これは日本時間の午前10時であり、当時の撮影状況にそぐわないことがわかりました。よって、当時観測されたのは通常の低緯度オーロラではなかったことがわかりました。

そこで、新たな発生メカニズムで説明できないかについて、3人の先生に協力していただきながら研究しました。


1つ目の仮説は、荷電粒子というオーロラの発光のもととなる粒子が、通常では存在しない場所に漏れることによる飛び地説です。しかし、この説は仮説としては存在するものの検証がなされていないため、これ以上調べることができませんでした。

 

2つ目は、太陽活動が活発になることによって、通常一つの円のような形をとるオーロラが二重の円になる、ダブル構造説です。これが発生した場合、低緯度でもオーロラが見られます。しかし、撮影当時のオーロラの様子について、アメリカ側から撮った衛星写真を見たところ、日本の低緯度でオーロラが観測できるような状態ではなかったことがわかりました。よって、この仮説も否定されました。

 

3つめは、電磁イオンサイクロトロン(EMIC)波動による孤立オーロラ説です。通常、オーロラは帯状に発生するのですが、まれに孤立して発生することがあります。

というのも、通常は荷電粒子はプラズマシートという場所に帯状に存在するのですが、太陽活動が活発になりプラズマシートが不安定になると、高エネルギーの荷電粒子がEMIC波動として地球に降り注ぐことになるのです。これが孤立オーロラとなります。

撮影当時のEMIC波動の観測データを調べたところ、日本付近ではロシア上空で強く観測されていたことがわかったため、その場所で孤立オーロラが発生したと仮定して、宮崎で撮影できるかを検証してみました。
すると、EMIC波動観測地点と宮崎県との位置関係及びオーロラの観測高度から、もしも宮崎で撮影された光が孤立オーロラだとすると、その発生位置が地上4000kmとなり、通常オーロラが発生する地上200kmをはるかに上回ってしまいました。以上より、このメカニズムでも説明することはできませんでした。

 

よって研究2の結果、条件としてオーロラである可能性は残っているものの、理論を説明することはできませんでした。

 

●研究3 宮崎で通常のオーロラが観測できるのはいつか
最後に、地磁気の北極が1200年周期で移動することから、地磁気の北極が宮崎に接近したときにオーロラが観測できるかもしれないと考え、モデルを作成しました。


まず、次に地磁気の北極が宮崎に最接近するのはいつか計算したところ、800年後であることがわかりました。その時の地磁気北極の地理緯度を求めたうえで、地球磁場の強さの推移を場合分けしていくつかのモデル計算を行いました。結果は下のとおりです。

研究3の結論としては、800年後、地球磁場の強さが現在の16%以下となっていれば、宮崎はオーロラ帯に入ることがわかりました。他にも惑星間磁場や太陽風によっては、宮崎でもオーロラが見られる可能性があることもわかりました。

今回は、オーロラ以外の発光現象については、夜間に目視が可能で、かつ一般的な撮影方法で撮影が可能なものについてのみ調べましたが、今後は「目視不可能な発光現象」が存在するか、研究していきたいと思います。また、遠方でかつ微弱なオーロラが写り込む可能性を検証するために、様々なパターンで実験を行い、カメラでとらえられる限界について調査していきたいと思っています。

■研究を始めた理由・経緯は?

私たち、数理工学オーロラ班は、5年間オーロラの研究を継続しています。26年前、史上まれにみる磁気嵐が起きた同時期に、長崎よりもさらに低緯度に位置する宮崎県都城市でオーロラのような発光現象が観測されたという情報を入手し、その調査研究を行ってきました。

■今回の研究にかかった時間はどのくらい?

平成22年度からスウェーデンの高校との共同研究を開始し、現在は週に最低1回は集り、活動を行っています。

■今回の研究で苦労したことは?

今回、当時の情報や資料、さらに新しい情報をもとに検証したところ、オーロラであると断定するには不十分だったため、再度ゼロベースで研究したことです。

■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?

いろいろな条件がそろえば、800年後宮崎にもオーロラが見られるということを計算で出したことです。

■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究は?

先輩方の先行研究では、「太陽活動の大きさ」「オーロラの色」「オーロラの形」について調べました。
参考にした本は 
・『オーロラ~太陽からのメッセージ~』上出洋介(山と渓谷社)
・『オーロラのひみつ(私の研究9) 』上出洋介(偕成社)
・『オーロラ宇宙の渚をさぐる』上出洋介(角川選書)


・「World Data Center for Geomagnetism,Kyoto」  
 京都大学大学院理学研究科附属地磁気世界資料解析センター

 http://wdc.kugi.kyoto-u.ac.jp/index-j.html
・「過去の気象データ検索」気象庁

 http://www.data.jma.go.jp/obd/stats/data/mdrr/index.html
・「オーロラと低緯度オーロラの解説」   塩川和夫(名古屋大学太陽地球環境研究所)

 http://stdb2.stelab.nagoya-u.ac.jp/member/shiokawa/aurora_kaisetu.htm

・「(6)オーロラと磁気嵐の原因を探る」森洋介(元宮城教育大学、元放送大学)
 http://www8.ocn.ne.jp/~yohsuke/mag_storm_6.htm


・「日本における低緯度オーロラの記録について」中沢陽(1999)天文月報p94-101
 “Simultan-eous appearance of isolated auroral arcs and Pc geomagnetic pulsations at subauro-ral latitudes.” K.Sakaguchi・other.(2007-2008)
(Journal of geophysical reseach ,Vol.113,A05201,doi:10.1029/2007JA012888,2008)

■次はどのようなことを目指していきますか?

今回の研究では、オーロラもしくは他の現象によるものであると断定することはできませんでした。よってこれからは、「宇宙天気」という視点も加えながら研究を続けていきたいです。

■ふだんの活動では何をしていますか?

週に1回の講座を中心に行っています。その他にも、地元の小中学生に本校のオーロラ装置を使ってオーロラを実際に発生させるなど公開講座も開いています。

■総文祭に参加して

本当に良い経験をさせていただいたと感じています。様々な素晴らしい研究を実際に見させていただき、これを学校だけでなく、宮崎県の他の高校の生徒にも広めていかなければならないと感じました。今回の高総文祭で、今日本の高校生が研究していることは、これからの日本に役立つものだということを実感しました。

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