ショウジョウバエを使ってがん研究実験モデル作成に挑む!


【生物】山梨県立韮崎高等学校 生物研究部 

左から、平田くん(1年)、平澤茉衣さん(3年)、坂本くん(2年)
左から、平田くん(1年)、平澤茉衣さん(3年)、坂本くん(2年)

◆部員数 4人(うち1年1人・2年1人・3年2人)
◆書いてくれた人 平澤茉衣さん(3年)


■研究内容「鉄摂取により生物の酸化ストレスは増加する」

私はがん研究マップというものを見て、過剰な鉄の摂取ががんの発病につながるということに興味を抱きました。


ラットに過剰の鉄を与えることで、体内に活性酸素種という酸化反応性の高い(DNAやタンパク質などの化学物質を傷つけやすい)物質が増加し、酸化ストレス状態になることで、がんが誘発された、という研究があります。私は、生物研究部で飼育しているキイロショウジョウバエでも、ラットと同じく酸化ストレス状態が見られるのではないかと思い、研究することにしました。


[実験I ハエは鉄を食べるのか]

まず、ハエが鉄を摂取することを調べました。鉄を含む培地でハエを育てたところ、消化器系の周りが黒くなったので、ハエは鉄を取り込んでいることがわかりました。さらに、ハエの腹部をすりつぶして鉄を分離する実験を行い、経過日数による鉄の蓄積量も調べ、ハエが体内に鉄を蓄積する(排出もされている)ことを確かめました。

[実験II 鉄はストレス・寿命に影響するか]

さらに、鉄の吸収が寿命の短縮につながることを調べるために、普通の培地と鉄培地で育てたハエが最後の1匹が死ぬまで、1日おきに生存個体の数を数えました。その結果は以下の通りで、オスとメスともに、鉄培地で飼育したハエの寿命が短縮していることを確認しました。

次に、鉄を体内に取り込んだハエの寿命短縮は酸化ストレス状態によるものなのかを調べるために、ハエの体内の活性酸素種の量を調べることにしました。しかし、活性酸素種は非常に不安定な物質で、測定することが困難です。

そこで、活性酸素種を除去する分子である、酵素SODの量を測定しました。体内に活性酸素種が多く存在するほど酵素SODも多く作られるので、間接的に活性酸素種の量も知ることができます。酸化すると変色するヘマトキシリンという物質をハエの腹部サンプルと混ぜて放置し、ヘマトキシリンの酸化阻害率をSODの活性としました。


結果は、5日目にはSOD活性が4倍にも増えました。ハエが鉄を摂取したことで、酸化ストレスレベルが上昇したと考えられます。

 

[実験III 生体防御因子「cnc-C 」は活性化するのか]

活性酸素種が増えると、細胞は酸化状態になり、生体防御因子(cnc-C)の活性化と酸化タンパク質の増加が見られると言われています。実際にオスではcnc-Cの活性化を見ることができました。しかしメスでは見られませんでした。その原因として、メスは生理的に酸化ストレスレベルが高くなるため、鉄による影響が出にくかったと考えられます。


[実験IV 蛋白質は本当に酸化されるのか]

さらに、酸化タンパク質の増加を調べるために、タンパク質を特殊な膜にくっつけ、酸化タンパク質のみを青く発色させる実験を行いました。結果、鉄を摂取したハエの方に酸化タンパク質が多く見られました。しかし、大きいタンパク質は酸化されておらず、すべてのタンパク質が酸化されているわけではありませんでした。

研究のまとめは以下の通りです。今後は酸化されるタンパク質の種類、鉄摂取によるcnc-Cの具体的な変化、ハエを使ったがん研究の実験モデルの作成に取り組みたいと思います。

■研究を始めた理由・経緯は?

もともと私が発癌に興味があったこともありますが、「がん研究マップ」で見つけた、ラットの「過剰鉄発癌モデル」というものに興味を惹かれたからです。

■今回の研究にかかった時間はどのくらい?

2013年の9月頃から始めて、平日は毎日3~4時間、2015年以前は土日両日はほとんど一日実験していました。2015年になってからは週末は6時間程度、実験に取り組みました。

■今回の研究で苦労したことは?

ハエの飼育です。慣れてしまえば楽しいのですが、慣れるまでの間は、培地作りや掃除の度に漂う強烈な臭いと大量のハエの死体に囲まれる日々は悪夢のようでした。

■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?

この研究は生まれた疑問を次の実験で解決していく流れなので、全部見ていただきたいなあと思います。注目してほしいのは、鉄の摂取量とSOD活性に正の相関性が見られることです。

■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究は?

・Iron Absorption in Drosophila melanogaster.  (Nutrients 2013,5,1662-1647)
 Konatantions Mandilaras ほか 
 School of Biological and Chemical Sciences, University of London.
・Aluminum induced neurodegeneration and its  toxicity aries from increased iron accumulation and reactive oxygen spicies (ROS) production.
 Zhihao Wu ほか    (Neurobiology of Aging  2012, 199.c1-199c.12)
 State Key Laboratory of Biomembrane and Biotechnology, Tsinghua University
・「ショウジョウバエを用いた変異原性試験の教材化」高森久樹 ほか
『東京学芸大学紀要』自然科学系 Vol.64 p.153 -176

<サイト>
東邦大学 薬学部 生化学教室
「鉄過剰による発がん機構の解明」 名古屋大学大学院医学系研究科 豊國伸哉
BIO-RAD社 RD-CDプロテインアッセイ
「Keap1-Nrf2システムによる酸化ストレス・親電子性物質防御機構」

 筑波大学基礎医学系 分子発生生物学研究室
「紫外・華氏分光光度計による飲料中の鉄の濃度計算」

 弘前大学理工学研究科 山田一人ほか
「ショウジョウバエを用いた個体レベルでの環境汚染の生物影響評価」

 岡山大学薬学部 根岸友恵
 
■次はどのようなことを目指していきますか?

大学に行っても続けたいとは思います。今後は、主に、鉄に変異原性があるか、flr[1]/TM2変異体とmwh変異体を掛け合わせたF1を使った実験、cnc-Cに応答する抗酸化蛋白質の測定、核分画をして細胞核内に実際に存在するcnc-C量の測定を行いたいと思います。

■ふだんの活動では何をしていますか?

ハエの飼育、サイエンスショー等です。

■総文祭に参加して

口頭発表は一度しかできないため、かなり緊張してしまい、あまりうまくできませんでしたが、質問・意見を紙に書いてくれる方もいて、少しでも興味を持ってくれる人がいて、嬉しかったです。また、質問や意見をいただくほど、まだ証明しきれていないところや、やってみたいことができ、もっと研究を続けたいと思いました。自分の研究をいろんな観点から考えられ、とても勉強になりました。


※平澤さんの研究は、「第5回高校生バイオサミットin鶴岡」で科学技術振興機構賞を受賞しました。
http://www.bio-summit.org/award2015/winner2015.html
バイオサミットの説明はこちら→http://www.bio-summit.org/

※みらいぶは、2014いばらき総文祭に参加した平澤さんにインタビューをしています。

◆山梨県立韮崎高等学校  生物研究部
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