輝く食品ほど鮮度が高い?! ――ルミノール反応で鮮度を判定


【化学】福岡大学附属大濠高校 化学部

左から市島磨生くん(3年)、渡邉慶悟くん(2年)
左から市島磨生くん(3年)、渡邉慶悟くん(2年)

発表内容「ルミノール反応を用いた食物の鮮度測定」

みなさんは、冷蔵庫の中にいつ買ったかすらわからない肉が残っているのを見つけたことはありませんか?しかし臭いをかぎたくなくても、残念ながら鮮度は目で見ただけではよくわかりません。


例えば、このレバーの写真を見てください。どちらが新しいでしょうか。実は右の方が新しいのですが、見た目ではわかりにくかったと思います。そこで、私たちはルミノール反応の光の強さを用いて、目に見える形で食物の鮮度を測ることができないか実験を重ねました。

私たちはルミノールの美しい化学発光に興味を惹かれ、2年前からルミノール反応を使った研究を行っています。その研究の過程で、食物中の酵素が触媒となってルミノール反応が起こること、そしてその酵素の活性が弱くなる、つまり酵素が少なくなると発光が弱くなることがわかりました。そこで、ルミノール反応の光の強さを、食品の鮮度の指標として利用することはできないか、と考えたのです。


ルミノールは塩基性水溶液中で、過酸化水素などの酸化剤により酸化されると、3-アミノフタル酸イオンの不安定な励起(れいき)状態が形成されます。これが励起状態から安定した基底状態に移る過程で、差分のエネルギーを青色光として放出します。


この反応には触媒が必要です。主な酸化剤として過酸化水素、主な触媒に鉄錯体やヘモグロビン、カタラーゼなどの物質があります。反応の光の強さは、触媒の濃度によって変わります。

 

実験に用いた試薬です。


A液はルミノールを水酸化ナトリウム水溶液に溶かしたもの、B液は酸化剤の過酸化水素水で、A液とB液を混ぜたものがいわゆるルミノール試薬です。ここに触媒となるC液を加えると発光します。触媒として、カタラーゼを蒸留水に溶かしたものを用いました。鶏の肝臓を触媒に用いる実験については、後ほど詳しく説明します。


こちらが実験の様子です。


A液とB液をマイクロピペッターでそれぞれ1mLずつ取ってプラスチックセルに取り、そこにさらに触媒液を加えて発光の様子をカメラで撮影します。


発光の様子を数値化するために、星の光の強さの変化を求めるために使われるソフトを用いて、発光部分と背景部分の明るさとの差から光の強さを算出しました。


まず実験1です。この実験では、発光反応を正確に調べるために最適な光の強さと発光時間が得られる最適なルミノール濃度を求めました。A液のルミノール濃度を0.125倍から4倍まで6段階に調製し、それぞれの液を用いて実験を行いました。


この実験から、光の強さは濃度が0.5~1倍の時最大で、発光時間は濃度が高いほど長いことがわかりました。


次に、カタラーゼの濃度=酵素活性の強弱と光の強さの関係について調べました。ここでは、C液を表のように1倍から0.2倍まで5段階に薄め、それぞれを用いて実験しました。

 

左のスライドが、各濃度のピーク時の光の強さを抜き出したものです。カタラーゼ濃度に対して光の強さが直線的に増大していることがわかります。


実験結果から、酵素活性が弱まるにしたがって光は弱くなると考えられます。


次に、私達は鶏の肝臓を触媒に用いて実験しました。食品中の酵素は時間経過にしたがって活性が弱くなります。そこで、時間経過によって発光が弱くなるかを調べました。


触媒とする肝臓液を作成するために、市販の鶏のレバーを包丁で細かく刻み、ミンチ状になったものを10gとって蒸留水50mLと混ぜました。これをホモジナイザー(組織、細胞などの試料を均一にすり潰す器具)を用いてさらに細かく均一にすりつぶし、ガーゼで2度ろ過して大きな肉片を取り除きました。


この肝臓液を用いて予備実験を行ったところ、右下の写真のように、泡が大量に発生して、光の強さを測定するのが困難になりました。発生した気体を捕集し、火のついた線香を近づけると、炎を上げて燃えました。


このことから、発生した気泡は過酸化水素の分解によって生じた酸素によるものであると考えられました。


そこで、この肝臓液をそのまま冷蔵庫で保存しておくと、4~5日経った頃から肉片が沈殿して上清液ができ、これを使って実験をすれば、気泡は光の強さが観察できる程度に抑えられるようになりました。

そこで、肝臓液(上清液)を購入後5日経過したものと26日経過したものの2種類を準備し、時間の経過によって光の強さにどのような違いが出るかを調べました。

 

実験の結果がこちらです。青い線が5日経過のもの、赤い線が26日経過したものを表します。5日経過のものは、光の強さの値が26日経過のもの2倍近くになりました。日数が経過するとともに食物中の酵素の活性が弱くなったことで、触媒としての効果が小さくなり、光の強さが落ちたと考えられます。

また、作成直後の肝臓液と上清液を比べると、泡の発生量は肝臓液のほうが多いのは、肝臓液中の細かい肉片が原因であることが考えられます。したがって、泡の発生を抑えるために細かい肉片を取り除くことが有効であると言えます。


さらに、酵素活性の経時変化をより詳しく調べるために、1日おきに肝臓液を作成し、光の強さを調べました。この時は、個体差の影響を減らすために2個体からサンプリングするとともに、肉片を除去するために遠心分離器にかけました。遠心分離機にかけた後の液は、右下の写真のように濁っており、完全に肉片を除去することはできませんでしたが、この液を用いて実験を行ったところ、泡の発生は抑えられ、発光強度を測定することも可能でした。


これが実験の結果です。


上澄み液を用いた時よりも、光は大幅に弱くなりました。これは、肉片を十分に取り除くことができなかったために、細かい肉片によって光がさえぎられたり、分子衝突の妨げになったりしたことが考えられます。


しかし、日数が経過するにつれて、光が弱くなっていくことがわかります。光の強さが経時的に減少していくということは、光の強さを鮮度指標として使える可能性があると言えます。


以上の実験から、この研究の目的を達成することができました。

<考察と展望>


実験1では、ルミノール濃度は0.5倍から1倍の時に最も強く光りました。それより濃度が低いときも、高いときも、光は弱くなりました。


低濃度で光が弱くなったのは、発光分子が少ないためで、高濃度で光が弱くなったのは、ルミノール濃度が高すぎたため、濃度消光(※)を起こしたためだと考えられます。また、発光時間はルミノール濃度に対数比例することがわかりました。


この研究では、おもに光の強さからデータを比較しましたが、発光時間からのアプローチが可能かを検証していきたいです。


※蛍光物質の濃度が高いときに、分子間の相互作用により光が弱くなる現象

鶏の肝臓の実験では、細かい肉片が鮮度測定の妨げになっていると考えられます。遠心分離器にかける時間を長くしたり、他のサンプリング方法を用いたりすることにより、この課題を解決していきたいです。鶏の肝臓を用いた経時計測は、より長い期間で調べることで、正確な経時変化を求める予定です。さらに、鶏の肝臓以外にも、大根など他の食物を用いても実験を行いたいです。

この研究により、光の強さを鮮度指標として使える可能性を見いだすことができたので、今後、保存方法による鮮度変化の違いや、実際の鮮度測定に用いられている鮮度指標との比較を通して、この測定方法の有用性についても考察していきたいと思います。


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