地球時代、今を生きる学問

ライフスタイルを変えよう! -環境テクノロジー最前線)

第3回

新しい視点「バックキャスト」で考える

石田 秀輝(東北大学大学院環境科学研究科教授)


私たちの思考回路は、今日を原点に明日を考えるという「フォアキャスト思考」です。例えば、お風呂に入ることを考えてみてください。お風呂には300リットルの水が必要で、それを40度まで温めるエネルギーが必要です。例えば2030年の日本の世帯数は今より1000万世帯少ない4900万世帯です。これだけの世帯が毎日風呂に入るだけのエネルギーも水も、とても供給できません。

 

ではどうやってお風呂に入りますか? 考えてみてください。シャワーにする、入浴回数を減らす、身体を拭くだけにする、川に水浴びに行く・・・こんな答えを考えた人、これは豊かですか? 楽しいでしょうか?  これでは、『豊かに暮らしながら、人間活動の肥大化を停止縮小する』と云う約束を満足できません。このような思考回路がフォアキャスト思考です。

 

 

フォアキャスト思考からバックキャスト思考への転換


フォアキャスト思考では、環境制約は必ず『我慢』になり、豊かさを生む事はとても困難になります。これをバックキャスト()で考えるとどうなるでしょうか?「毎日お風呂に入ればいい、でも水のいらないお風呂でね」…こんなライフスタイルが見えてきます。

 

僕の場合、こんなライフスタイルをイメージできたら、それに必要なテクノロジーを自然の中に捜しに出掛けます。なぜ、自然なのか?自然は私たちが目指す持続可能な社会を創り上げているからです。自然は最も小さなエネルギーで完璧な循環を創っているのです。そして、泡を見つけました。泡は熱を運ぶことが出来、身体を温めてくれます、泡は弾けるとき超音波を出して汚れを取ってくれます。取れた汚れは、泡の表面張力のおかげで、泡の表面にくっつきます。泡のお風呂では2リットルくらいで入浴できます、結果として、軽い御風呂ができあがり、今日はベッドの横で、明日はベランダで…と、どこへでも持って行け、環境制約のおかげで今よりもっと豊かな暮らしが生まれるのです。

 

※バックキャスト:将来の制約から逆に現在なすべきことを考えること

 

 

ライフスタイルを描けば必要なテクノロジーも見えてくる 


バックキャスト思考でライフスタイルをたくさん描き、それをたくさんの方に見て頂くことで、その社会受容性を測ることができます。多くのライフスタイルの中でも、あるものは多くの人に受け入れられ、あるものは受け入れられない・・・。そこにはどんな意識が働いているのでしょうか?

 

その潜在意識を分析すると、驚く事がわかってきました。潜在意識で最も強いものは『利便性』、多くの人が便利なものを求めています。これは納得できます。ところが、この『利便性』とほとんど同じ強さで『楽しみ』『自然』を求めていることがわかってきたのです。 

 

私たちの周りは『楽しみ』であふれています、ゲーム、インターネット、テレビ、映画…それなのになぜ楽しみを強く求めているのか?それはどんな楽しみなのか?そして、自然とは、ただ緑がたくさんあれば良いのか? こんなことがわかってくれば、より正確なライフスタイルを描く事ができ、それに必要なテクノロジーのかたちも明確になってくるはずです。新しいビジネスのかたちも見えてくるでしょう。今そんな研究が、精力的に始まっているのです。


プロフィール

石田 秀輝(いしだ ひでき)

東北大学大学院環境科学研究科教授

 

1953年生まれ。高校時代は授業に出ずに弓道ばかりやって、停学になることもしばしばの「ワル」だった。地球物理学者の竹内均先生に憧れ、東大に合格するも、交際中だった彼女が受かった山口大学へ進学。株式会社INAXで環境戦略と技術戦略担当役員まで務めたが、企業の戦略と自分の目指すものとの間に矛盾を感じ50歳の時大学教授に転身。趣味はずっとテニスだったが、現在は時間が取れないので料理。沖永良部島にあるネイチャー・テクノロジー満載の「風の家」では、シーカヤックで海に出て魚を獲り、70人分もの料理をつくることも。

わくわくキャッチ!
今こそ学問の話をしよう
河合塾
ポスト3.11 変わる学問
キミのミライ発見
わかる!学問 環境・バイオの最前線
学問前線
学問の達人
14歳と17歳のガイド
社会人基礎力 育成の手引き
社会人基礎力の育成と評価