2016ひろしま総文 自然科学部門

クレーターが語る月の歴史を地上から読み解く

【地学】星稜高校天文部(石川県)

左から 増田将人くん(2年)、村田陽香さん(2年)、永田聡太くん(2年)、湯上浩太くん(2年)
左から 増田将人くん(2年)、村田陽香さん(2年)、永田聡太くん(2年)、湯上浩太くん(2年)

■部員数

32人(うち高校生1年生10人・2年生11人・3年生6人、中学1年生2人・2年生3人)

■答えてくれた人

村田陽香さん(2年)

 

クレーターの年代推定と分析

クレーターができた年代を推定する

私たちは、クレーターの形成年代を比較することで、月面環境の差や月の形成メカニズムを探ることを目的として研究を行いました。

 

クレーターの年代を推定するにはクレーター年代学を用います。クレーター年代学とは、月表面のクレーター内に形成された隕石などの衝突痕の密度からクレーターの形成年代を推定する手法を指します。衝突痕の密度は月の公転や表面の環境などにも左右されるため、これらを調べることで月の誕生などについても調べることができるのではないかと考えました。

 

計測に際しては、JAXAが所有する大型月探査機「かぐや」のデータを使用しました。

 

昨年までの先行研究では、14個のクレーターについて、クレーター内の単位面積当たりの累積衝突痕数(※)を求め、形成年代順を推定しました。

※衝突痕の大きさごとに、直径が大きいものから積算した数

 

14個のうち、累積頻度分布図がきれいなグラフを描いているものを取り出したのが下図です。大きさごとの密度が高い方が年代は古いことから、このグラフではオレンジ色のマーキュリウスというクレーターがもっとも古いと考えられます。

また、0.8km以下の衝突痕についてばらつきがみられるクレーターが見られましたが、これは年代以外の何らかの影響を受けていると考えられます。

私たちは、このばらつきには場所による違いが影響するのではないかと考えました。

 

そこで、はじめに0.8km以上の衝突痕密度に対する0.8km以下の衝突痕密度の割合を0.8km増加率として、各クレーターについて求めました。その結果が下図です。横軸は合計衝突痕密度であり、右に行くほど密度が大きく年代が古いと考えられます。

これにより、形成年代が古いマーキュリウスの増加率は他のものと類似しているにもかかわらず、アリスタルコスだけは増加率が突出して高いことがわかりました。よって、アリスタルコスだけは他と違う特異な影響を受けていると考えられます。

 

月表面の火成活動の痕跡もわかる

上記の先行研究をもとに、アリスタルコスの衝突痕数の特異性とその原因を調べるための調査を行いました。

そのためにまず、アリスタルコスの外周4方向の衝突痕密度を求めました。

また、比較対象としてコペルニクスというクレーターについても同様に4方向の密度を求めました。結果はグラフの通りです。

この調査から、コペルニクスの周辺では0.2km以下の衝突痕のみにばらつきがみられることがわかりました。これと先行研究におけるアリスタルコスの0.2km以下の衝突痕の多さから、2つのクレーターは同じ影響を受けているのではないかと考えました。また、アリスタルコスの周囲ではグラフ全体にばらつきが見られたことから、アリスタルコスはコペルニクスとは別の影響も受けているのではないかと考えました。具体的には、周辺地域を3つの年代に分類できることから、周辺の地表が一新されるような現象が2回起きたのではないかと推定できます。

月の表面で起こり得る、地表が一新される現象としては、火成活動が考えられます。先ほどのグラフから予想される2回の火成活動の範囲は図の通りです。

彗星の通過によって隕石痕ができた?! そのルートを解き明かす

この影響により、そのままではコペルニクスとアリスタルコスに共通する環境要因を特定することが難しいため、環境要因以外の影響を取り除いて比較することを試みました。

 

0.4km以上の各大きさの衝突痕密度を示すグラフから、0.2km以下の衝突痕密度を予測します。これと実際に計測した値の差を求めることで、環境要因の影響を求めました。

 

それぞれについて場所ごとにまとめたのが下のグラフです。

これらをクレーターの位置関係に対応させると図のようになり、点線の範囲を彗星が通り、局地的に隕石痕が大量にできたことが推定できます。

次に、この彗星が存在したと仮定して、どのような進路を通ったのかを他のクレーターの状況から分析します。図のような8か所について、衝突痕密度を調査しました。

そして、環境要因の大きさを分析したところ、図のようにD,F,G地点での影響が他と比べて大きいことがわかりました。

 

この3つの地点は、先ほどの彗星が通って隕石痕が大量にできたと考えられる地点と一致します。

 

ここから改めて位置関係を確認すると、下図のように、彗星の軌道はD、F、Gの近くを通過する(2)であったと推定できます。

しかし、その場合はAも彗星の影響を受けているはずですが、実際には影響を受けているようなデータが出ていません。これについては、彗星落下後の火成活動による影響か、あるいはA自体が彗星の落下地点であったことが理由と考えられます。

 

以上のようにクレーターとその周辺の衝突痕から火成活動や彗星の通過を推定することができました。

 

今後は、火成活動などの地質イベント史を推測できる場所がないか探るほか、A地点の衝突痕が減少した原因も詳しく調査したいと考えています。

 

■研究を始めた理由や経緯は?

 

天文学について研究するにあたり、自分たちの生活の身近に存在する月の誕生した経緯、地球との関係を探ることにしました。私たちの研究には、地球から観測ができ、かつ高校生でも行うことのできる研究方法という条件があったため、比較的観測が可能であると考えられる月面クレーターに着目しました。

 

■今回の研究にかかった時間はどのくらい?

 

平日1日あたり2~3時間で約10か月です。

 

■今回の研究では苦労したことは?

 

クレーター内に存在する衝突痕は、手作業によって計測するため計測に時間がかかり、研究について考察し合うまで時間がかかってしまったことがあげられます。また、統計学を用いて衝突痕の傾向を探るとき、より適切な統計方法を考えるのに手間取ってしまい、自分の知識不足が悔しく苦労した点です。

 

■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?

 

パワーポイントを作る時に、今回は「研究の流れ」を意識して作っています。自分たちがどのような考えでこの考察に至ったのか、どのような疑問からこの統計をとったのかなど、初めて私たちの研究発表を聞く人にも理解できるように作り方を工夫しました。

 

もう1つは、論文中にあるグラフなどの資料についてです。自分たちが手作業で行った調査が綺麗な形で結果のグラフに現れており、自分たちでも感動しました。この研究に興味を持ってくれた人にはこの衝突痕の傾向がはっきりと分かれていることに注目してほしいと思います。

 

■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究

 

主に以下の参考資料やホームページを利用しました。

・「かぐや(SELENE)のデータアーカイブ」

 http://l2db.selene.darts.isas.jaxa.jp/index.html.ja

・「「かぐや」が切り開く月面年代学」諸田智克(日本惑星科学会誌Vol.20,No4、2011) 

・『最新・月の科学』渡辺潤一(日本放送出版協会)

・「Moonlight -月世界からの報告- 地形名一覧表」

 http://www12.plala.or.jp/m-light/

 

■今回の研究は今後も続けていきますか?

 

今後も続けていく予定です。現在、月の表面(地球に向いている面)だけしか衝突痕の計測ができておらず、比較するにはデータが不十分な状況にあります。今後は月の裏面まで調査範囲として、月面全体を計測した上で月の表裏、経度、緯度などの比較をしたいと考えています。

 

また、現段階では衝突痕の計測はすべて手動で行っており、調査は人手と時間が大変多くかかる作業となっています。この労力と時間を短縮するために、自分たちでプログラミングを組み、衝突痕の自動計測が可能なのか検討していく予定です。

 

■ふだんの活動では何をしていますか?

クレーターの計測以外に、宇宙塵観測の研究も行っています。宇宙塵とは宇宙から降り注いでいると呼ばれる小さな塵の総称です。自分たちで開発した宇宙塵収集装置を学校の屋上に設置し、1週間ごとに収集データをとっています。この研究では、宇宙塵の飛来のペースや時期から地球生物の進化の謎に迫ることを最終目標としており、毎日宇宙塵の観察を続けています。

 

また、夏には部員全員で手作りのプラネタリウムを作ります。完成したプラネタリウムは毎年2~3回、公式の大会で発表しています。制作から完成後のプラネタリウム運営まで一連の活動を取り組むことによって、部員同士の結束を強めるという目的があります。

 

■総文祭に参加して

 

今回の総文祭に、まさか私が石川県代表で出場することになるとは全く思っていませんでした。出場が決まった際は、嬉しさと共に私が出てしまって良いのかとも思いました。大会までの部活動の中で、先生から論文に関してのダメだしをもらいながら、研究メンバーで考察について遅くまで議論し合ったのは良い思い出だと思います。大会に集まった生徒は個性が豊かな人が多く、また同じく論文を書いている生徒同士ということで、話すたびに発見や感心することがあり、良い刺激を受けることができました。心残りとしては私の力不足で研究内容をうまく伝えることができなかったことです。

 

もし、もう一度総文祭に出ることができたなら、ぜひ自分たちの研究を広く伝えたいです。ここまで来ることができたのは、研究メンバーだけでなく、他の部員やサポートしてくれた方々のおかげだと思っています。ありがとうございました。

 

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