小さなセミたちの生息地を分ける要因をさぐる


【生物/ポスター部】上田西高等学校 生物同好会(長野県)

◆書いてくれた人 坂井美穂さん(3年) 


■研究内容「ハルゼミとエゾハルゼミの分布」

私の住む長野県小県郡青木村では、5月から6月にかけて、同じハルゼミ属であるハルゼミとエゾハルゼミが現れます。ほぼ同じ時期、そして同じ地域に発生するこの両種のセミはどのように分布し、棲み分けているのか。このような疑問を持ち、2013年より3年間、両種の棲み分けについて標高および植生に焦点を当て調査を行ってきました。

2013年の調査では、ハルゼミとエゾハルゼミの成虫が出現する6月に、以下の標高差のある4コースで調査を実施しました。樹木に残っているセミの脱皮殻、周辺の鳴き声のラインセンサス法(※1)を使って調査しました。


※1.あらかじめ決められたルートに沿って動植物の出現種数等を調査する方法

この調査から、
・ハルゼミはアカマツを好み、標高600〜1000mで生息している。
・エゾハルゼミはミズナラなどの広葉樹林・カラマツ林を好み、標高900〜1070mに生息している。
・両種のセミは標高1000m付近で共存している。
ということがわかりました。

ここから、ハルゼミとエゾハルゼミの生息域の違いは標高によるものなのか、それとも植生によるものなのか、または両方なのかという課題が生じ、翌年からは別の方法で調査を実施することにしました。

2014年、2015年の調査は以下のとおりです。事前調査として、環境省の植生図や航空写真をもとに、100mの標高差および樹種(主にアカマツ林と広葉樹林)により調査地点を決めました。


また、成虫が出現する6月から8月には、ラインセンサス法に代えてコドラート法(※2)(10☓10m)で調査することにしました。調査箇所は、子檀嶺岳(こまゆみだけ、標高1233m)と飯縄山(いいづなやま、標高930m)周辺の山林としました。


※2 方形(四角形)の枠を使って生物の存在を調査する方法

標高600〜1200mの15箇所の調査地点で行った調査の結果を下表のようにまとめました。

この表を、標高および樹種による脱皮殻の分布として整理したものが右の表です。

ここからわかったことは、
・ハルゼミ(●)は標高1100m以下で確認され、幼虫はアカマツ林に限って生息する可能性が高い。脱皮殻の密度は標高600m、800mがもっとも高い。
・エゾハルゼミ(◯)は標高900m以上で確認され、樹種を選ばない傾向がうかがえる。調査可能な標高1200mで生息が確認された。脱皮殻の密度は標高1100mがもっとも高い。
・両種のセミは標高900〜1100mで共存している。
となります。

 

 

[考察]
2015年の調査結果を加え、両種のセミの生息域を分ける主体的な要因は標高差であることがわかりました。


ハルゼミはアカマツを好む傾向がうかがえることから、二次的な要因としては植生が考えられます。また、カラマツ林でハルゼミの脱皮殻が確認されたことは、ハルゼミの幼虫はカラマツ林でも生息している可能性を示しています。このカラマツ林はアカマツ林に囲まれるように位置していることから、ハルゼミはアカマツの樹液を吸っているものの、カラマツの樹に登っていき、それを私が採取したのではないかと考えました。

このように、両種のセミの生息域を分ける主体的な要因は標高差であり、二次的にハルゼミが好むアカマツという植生が関係していることが示されました。


今後は、カラマツ林でハルゼミの幼虫が生息する可能性を確認する方法として、カラマツとアカマツのいずれから栄養分を摂取したか、安定同位体を用いた食物連鎖の同定を試みたいと考えています。

■研究を始めた理由・経緯は?

小学校から中学校にかけてヒグラシの研究、特にヒグラシが好んで鳴く明るさを実験で明らかにしてきました。高校生になって、ヒグラシを定期的に採集することが困難になったので、以前から調査したいと思っていた両種のセミの生息域について、脱皮殻の調査をすることにしました。

■今回の研究にかかった時間はどのくらい?

2013年4月から研究を続けています。

■今回の研究で苦労したことは?

実際に山に行き脱皮殻を採集することは体力的に大変ですが、採集している時は楽しいです。

■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?

・フィールドを大切に調査している点。
・GPSを用いて標高を明確にしたこと。
・単独で調査していること。

■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究は?

『日本産土壌動物  ― 分類のための図解検索』青木淳一 編著 (東海大学出版会)
『葉っぱ・花・樹皮でわかる 樹木図鑑』高橋 秀男 (池田書店)
『日本産セミ科図鑑』林 正美・税所 康正 (誠文堂新光社) 
『新詳高等地図』帝国書院編集部(帝国書院)

■次はどのようなことを目指していきますか?

今後両種のセミの垂直分布域が上昇していけば平均気温の上昇が考えられ、地球温暖化の指標になるかもしれません。標高1200m以上の地点でも調査を行い、分布域の上昇を調べていきたいと思います。

■総文祭に参加して

全国から集まってきた仲間たちの発表を聞くことができ、勉強になり視野が広がりました。準備、運営に携わってくださったスタッフの皆さんに感謝しています。ありがとうございました。3年後に長野県で総文祭が開催されるので、何かお力になれたら嬉しいです。

 

※上田西高校の発表は、ポスター部門の奨励賞を受賞しました。

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