地球時代、今を生きる学問

ライフスタイルを変えよう! -環境テクノロジー最前線

第1回

努力すればするほど劣化する地球環境

石田 秀輝(東北大学大学院環境科学研究科教授)


地球環境問題が、日本だけでなく、これからの人類にとって大きな課題であることに異論はないと思います。では、その地球環境問題を解決するということと、私たちが豊かに暮らすということは両立できるのでしょうか? 環境と経済の両立は可能なのでしょうか? 答えはYES!です。ただ、そのためには、今までの私たちの考え方を大きく変える必要があります、それが出来れば、その先には、わくわくドキドキする素敵な暮らしやそれを支えるあたらしいテクノロジーやビジネスが見えてくるのです。

 

これから皆さんとその答えを探す旅をしてみたいと思います。

 


日本の省エネ化は世界でも群を抜くが・・・ 


日本では大雨、ヨーロッパでは熱波、オーストラリアでは雨が降らず…毎年のように異常気象のニュースが流れ、この原因が地球温暖化かどうかの議論が続いています。では、私たちは地球環境問題解決のための努力をしていないのでしょうか? いいえ、少なくとも先進国では、大変な努力をしています。日本を例に考えてみましょう。日本では、家庭のエネルギー消費の約5割が電気です。そして、電気消費量の約4割をエアコンと冷蔵庫が占めています。ではこれらの機器の省エネ化はどの程度進んだのでしょう? 


この15年間ほどで、エアコンは4割の省エネ化に成功しました。冷蔵庫は何と8割、15年前の2割の電気で動くのです。世界の中でも群を抜く素晴らしいエコ・テクノロジーです。もちろん、エアコンと冷蔵庫だけでなく、その他の電化製品や自動車などを含め、あらゆるものがエコ化していると言っても過言ではありません。加えて、日本ではグリーンウォッシュと言われる、偽のエコ商品もほとんどありません。生活者の意識が極めて高いからです。その生活者の意識調査の結果では、約9割の人が地球環境に関心を持ち7割の人がすでに何らかの行動を起こしています。これも世界トップでしょう。

 

 

エコ・テクノロジーが大量消費が生みだすエコ・ジレンマ


問題はここからです、エコ・テクノロジーは世界一、環境に関する意識も世界一、当然環境問題は解決の方向へ向かっているはずです・・・・本当でしょうか? 残念ながら、家庭のエネルギー消費は、1990年に比べて1.23(2009)、にもなり、まだまだ増加しそうな勢いです。これをエコ・ジレンマと呼びます。どうしてエコ・ジレンマが生まれるのでしょう? この構造がわからなければ、どんなエコ・テクノロジーを開発しなければならないかもわからなくなってしまいます。

 

エコ・テクノロジーは間違いなく市場に投入され、生活者の意識も間違いなく高いのに、環境劣化が加速されるエコ・ジレンマ、実はエコ商材が消費の免罪符になっていることが原因だったのです。人間の心はそれほど強くはありません、耳元でエコ、エコとささやかれると少し大きなテレビに買い替えようかなぁ、エコなんだからもう1台エアコンを買おうか… エコカーを買ったんだから、家族で週末は少しくらい遠乗りをしてもいいじゃないか…。そして、エコ・テクノロジーが貢献するより、はるかに大きな消費が生まれているのです。さらに、その免罪符にエコポイントや週末高速道路1000円で乗り放題というお墨付きまで政府が付けてしまいました。結局、大量生産大量消費を煽り、環境劣化がどんどん進むという悪循環が生まれてしまったのです。

 

 

新しい価値観を持ったテクノロジーやビジネスが今求められている


では打つ手はないのでしょうか? いいえ、これを解決するためには、テクノロジーがライフスタイルに責任を持つという新しいテクノロジー創出のかたちをつくればよいのです。詳しくはまた別の回にお話ししますが、例えば、ソニーのウォークマンが40年以上売れ続け、ソニーと云う企業ブランドは確固たる地位を築きました。それはソニーが音楽を外に持ち出すというライフスタイルを売り、そのあとにウォークマンと云う機械が付いていったからだと思います。


エコは目的ではありません、目的はあくまでも豊かな暮らしをつくること、エコはその原点であるということなのです。テクノロジーがテクノロジーのために進化するのではなく、テクノロジーがライフスタイルに責任を持つ、そんな新しい価値観を持ったテクノロジーやビジネスが今求められているのです。

プロフィール

石田 秀輝(いしだ ひでき)

東北大学大学院環境科学研究科教授

 

1953年生まれ。高校時代は授業に出ずに弓道ばかりやって、停学になることもしばしばの「ワル」だった。地球物理学者の竹内均先生に憧れ、東大に合格するも、交際中だった彼女が受かった山口大学へ進学。株式会社INAXで環境戦略と技術戦略担当役員まで務めたが、企業の戦略と自分の目指すものとの間に矛盾を感じ50歳の時大学教授に転身。趣味はずっとテニスだったが、現在は時間が取れないので料理。沖永良部島にあるネイチャー・テクノロジー満載の「風の家」では、シーカヤックで海に出て魚を獲り、70人分もの料理をつくることも。

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