自分らしく生きて、社会を変える

女子力アップセミナー

第1回

『ハリー・ポッター』シリーズ出版を実現した松岡ハリス佑子さんの「女子力」

[お話する人] 松岡ハリス 佑子さん (同時通訳者、翻訳家)


[インタビュアー] 東京女子大学大学院文学研究科院生 松紀枝、橋本実季

(1)「女にしておくにはもったいない!」ほどの情熱で切り拓いた道

松岡ハリス 佑子さん (同時通訳者、翻訳家)
松岡ハリス 佑子さん (同時通訳者、翻訳家)

 

---今日はお会いできて光栄です。「ハリー・ポッター」には、小学生の頃、まさにかじりついて読みました。お風呂場でも、どこででも本当にずっと読んでいました(笑)。松岡さんが最初にハリー・ポッターを読んだ時の印象はどういうものですか。

 

松岡:最初はね、とにかく面白かった。そして、最後までずっと面白かった(笑)。一気に引き込まれましたね。だからこそ、日本語で読者を引き込みたいと思ったんです。自分が引き込まれているから、乗って訳すことができました。でも、乗っているだけでは、十分な訳はできないですね。演技でもそうだと思うんですけど、自分が興奮していればそれでいいかというと、そうではなくて、やっぱり冷静にいろいろと見ていかないといけないんです。でも、最初は冷静も何も、とにかく面白いと思いましたね。だから、本当に一晩でざっと読んで、それでもう、次の日には版権交渉に入りましたから(笑)。 

 

インタビュアー:東京女子大大学院生の松紀枝さん(左)、橋本実季さん(右)
インタビュアー:東京女子大大学院生の松紀枝さん(左)、橋本実季さん(右)

---その時には、すでに日本の大手出版社からオファーがあったという話を聞いたことがあります。その中から選ばれたというのは、どんなところが認められたのだと思われますか。

 

松岡:たぶん、競争はなかったんだと思うんです。というのは、作者のJ.K.ローリングは、当時まだ無名の作家でしょ。無名の作家が、初めて書いた作品は、リスクが大きすぎるので、日本の出版社は手を上げないですよ。だから、他の会社は、きっと最後まで食いつかなかったし、いい条件も出さなかったんだと思いますよ。私が突出して熱心だったんだと思います。

  

J.K.ローリングに二度目に会った時に、同行したテレビ局の人が、「どうしてこんな小さな出版社を選んだんですか」って聞いたら、「大きな出版社があることは知っていたけれども、自分の代理人からユウコが一番情熱的な出版社だと聞いて」と言っていましたし、彼女自身の口から「人生において情熱ほど重要なものはない」と聞きましたからね。実際は他の考慮もあったかもしれませんけど、J.K.ローリング自身が無名で、あの作品を自分の情熱で書いた人だったから。私がたった一人で全く無名の出版社をやっていることを彼女があまり気にしなかったというのは、私にとっては幸運な状況だった思います。で、私が公式に聞いている理由は、私が一番熱心だったということです(笑)。

 

---松岡さんは、出版社をされていた旦那様がお亡くなりになられて、この出版社を継がれることになられたとお聞きしていますが、出版は初めてするお仕事ですよね。不安とかはなかったのですか。

 

松岡:そうですね。私は、昔からチャレンジングな精神を持っている人間なんだと思います。いろいろな条件を考えますが、楽な方に行こうと思わない。例えば、J.K.ローリングに版権を申し込む時だって、それは大変なことだろうと思ったんですけど、そこで諦めない。面倒だって気にしない。みんなこの頃、面倒なことはイヤッ、ていうのがはやりのようですけど、でも私は絶対にそんなことは考えないんですよ。当って砕けろですからね。でも、砕けない(笑)。

 

「人事を尽くして天命を待つ」っていうのも好きな言葉で、やれるところまでやってみようという精神があるんですね。だから、できる・できないは別として、やってみようじゃないか、と。それで、やってみようと決めたからには徹底的にやるという姿勢でやりますから、恐れはないんです。

 

ただ、現実問題、会社を継ぐにあたっては、自分には知識もお金もないし、出版のことも何も知りませんでした。でも、一人の人間が一生をかけてやろうと思っていた出版業を、その人間が死んでしまったから、じゃあおしまいっていうのは可哀想だという思いがありました。だから、出版社を継ぐというのは、そういった情緒的なものから決まったようなものですが、それに肉付けをしていったのは、「やってやろうじゃないか」という負けん気でした。

 

それから、現実を見ながら一生懸命仕事をしましたね。例えば、主人の残した編集ノートを読むとか。その中に「これからの企画で、こういう人のこういうものを出したい」と書かれていたら、その人にインタビューに行くと。それから取次さんのところへ行って…。取次というのは本の卸売で、取次に引き取ってもらえないと、本は売れないんです。そういう所に挨拶に行きました。引き継ぐと決めて、引き継いで、後はもう、やるしかなかったです。当っても砕けないから(笑)。 

 

2012年7月より刊行されたハリー・ポッターシリーズの文庫版は2013年2月に完結
2012年7月より刊行されたハリー・ポッターシリーズの文庫版は2013年2月に完結

---お話を聞いていて、松岡さんの「女子力」がわかってきました。何をするにも情熱が大事なのですね。そして、楽な方にいかずに、当たって砕けろと。できるかできないかは別にして、まずはやってみる。やると決めたら、徹底的にやる負けん気・・・。

 

松岡:亡くなった夫は、私の能力を非常に高く買っていたんですよ。だから、これは「女子力」インタビューにはふさわしからざる言葉ですけれども、「お前は、女にしておくにはもったいない」と言われました(笑)。つまり、女の人っていうのは、社会に出ても上にあがろうという志向はあまり歓迎されず、家にあっては夫を立てるのがよいとされていると思うのですが、そういう一般的な常識から考えると、女にしておくにはもったいないと。

 

それから、彼からは通訳よりも翻訳の方が向いているんじゃないかと言われていました。「お前は非常に研究熱心で、頑張る。ギリギリまで頑張るところが翻訳に向いているんじゃないか」と前々から言われていたんで、きっと生きていたら「ほら、俺の言った通りだろ」って言うんじゃないかと思います(笑)。

 

---すごく世俗的な質問ですが、女子力っていう以上、「男の人にモテたい」という意識もあるのではないかと…。モテる女性、すてきな女性になる秘訣って何でしょうか。

 

松岡:青春の心理としては、当然ですね。ハリー・ポッターにもそういう場面はたくさんあります。それは決して否定するものではありません。ピュアなことですからね。ただ、好かれよう好かれようとして、例えば、身綺麗にするとかね、そればかり考えていたのでは異性は寄ってこないと思います。むしろそういうことを忘れて、自分を磨こうとしている時に魅力が出てくるんじゃないかと、希望的観測かもしれませんけどね(笑)。

 

例えば、世の中をバリバリ渡り歩いている女性に魅力を感じる男性もいると思うんですよ。この頃男性が植物系になってきたから、怖くて飛びつかないってこともあるかもしれないけど(笑)、それはそれでいいじゃないですか、好かれなくても(笑)。好いて欲しいと思うのは自然なことです。けど、好かれるために余分な努力はする必要はないと思う。まず自分を磨くことです。自分が充実すればいいですからね。  

プロフィール

松岡ハリス 佑子さん
松岡ハリス 佑子さん

松岡ハリス 佑子(まつおかはりす ゆうこ)

同時通訳者、翻訳家

 

国際基督教大学卒業後、通訳者として活躍。1999年、まだ無名だったJ.K.ローリングの「ハリー・ポッターと賢者の石」と出会い、日本語に翻訳し出版。原作の世界をみごとに再現したシリーズは大ベストセラーとなり、「ハリー・ポッター」ブームをひき起した。全7巻の総部数は2400万部を超える。上智大学講師、モントレー国際大学院大学客員教授として、通訳教育の経験も深い。株式会社静山社会長。

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