世界へ”FLY”する東大生

~入学して即休学 世界の幼児教育を取材する旅へ

登阪亮哉くん(東京大学)

第17回 ニューヨークの幼稚園から高校までの一貫校・Riverdale Country School訪問記 その2

「読み聞かせ」の時間には「軍隊」や「平和」などを話し合う ~授業見学

 

今回は、Riverdale Country Schoolの4歳児のクラス”KJ(担任と副担任の先生の頭文字)”の半日の様子を述べたいと思います。

 

朝10時ごろから授業が始まります。担任の先生はまず、その日の予定を説明します(「ミーティング」と呼んでいます)。その日は、先生と一緒に特別なスムージーを作るというイベントがある日だったため、その旨をホワイトボードに書いていました。いくつか難しい単語があり、先生が「この英語は何と読むかしら?」と問いかけると、全員が手を上げました。3人ほど当てられたのですが、みんな正確には答えられませんでした。わからない子どもたちもみんな手を上げていたのです。その次に当てられた子が正しい読みを答え、ミーティングが進みました。途中、休憩時間に何をして遊ぶかで盛り上がってしまう子たちがいて、担任の先生が優しく諭しましたが、言うことを聞きませんでした。そこで、後ろで見ていた副担任の先生が少し厳しい口調で彼らの名前を呼びました。するとぴたりと私語が止みました。

 

授業では電子黒板が使われている
授業では電子黒板が使われている

ミーティングが終わり、授業が始まりました。最初は自然観察の授業でした。そのため、自然観察に同行する専門の先生が教室に来て、授業の主導権もその先生に移ります。

 

観察に行く前にまず、先生が子どもたちに「今日はどんな生き物が見つかると思う?」と問いかけていました。前日に雨が降っていたため、子どもたちはいっせいに手を上げながら「ミミズ!」「カエル!」と答えました。先生はそれらについて肯定したあと、なぜそれらの生き物が観察できるのかについて雨と関連付けて説明しました。

 

解説が終わると、子どもたちは列を作って学校の隣にある林へ向かいました。先生が丸太をひっくり返して虫を見つけると、子どもたちは我先にとそこに群がりました。クラス全体で20人ほどいるため、多すぎて輪に入れない子もいますが、そういった子たちは担任や副担任の先生がフォローしていました。自力でミミズを見つけた子は嬉しくてしかたがないらしく、周りの子や先生だけでなく見学する僕にもそれを見せてくれました。

 

一通り観察が終わると、また列になって先に進み、虫がいそうな場所を見つけると、専門の先生がみんなに声をかけます。担任の先生は、カメラで子どもたちの写真をたくさん撮っていました。ミミズを探していて遅くなる子たちも何人かいましたが、彼らに対しては、副担任の先生が話を聞いてあげながら前に進むよう促していました。

 

観察を終えて校舎に帰る途中、先生が「風の音を聞いてみましょう」と言ってみんなを静かにさせました。ところが、校舎の外で興奮してしまった子が二人おり、彼らの私語が止みませんでした。専門の先生がその他の子を引率する中、担任と副担任の先生はそれぞれ落ち着かない子を諭していました。それでも反抗的な態度を取ったため、遊ぶ時間が短くなるというペナルティを彼らに与えました。声を荒げることは意識的に避けていました。

 

自然教育の一環として、教室でも植物を育てている
自然教育の一環として、教室でも植物を育てている

教室に戻ると、次は読み聞かせの時間になりました。この日、アメリカではベテランズデーという復員軍人を讃える祝日であったため、それについて解説した絵本を読み聞かせていました。

 

その中でArmy(軍隊)という言葉が出ると、先生は「軍隊って何だろう?」と子どもたちに問いかけました。子どもたちはそれが何かわかりませんでしたが、「歩兵がいるよね」「僕のおじいちゃんが軍人だった」など、自分が知っていることを積極的に口にしました。先生はそれらについて肯定した後に、「軍隊は平和を守るためにあるんだよ」と言いました。そして、「平和って何だろう?」と続けました。これに対しても、子どもたちはみんな真剣に答えようとしました。先ほどまで読み聞かせを真面目に聞こうとしなかった子も、問いかけに対しては真面目に答えようとしました。「人が人を助ける様子」「戦い、つまり戦争が無い状態」など、抽象的な概念を言葉にしようと真剣に考えて答えていました。

 

そういった問いかけを交えつつ読み聞かせを進めていましたが、途中で退屈してしまい、他の子にちょっかいを出し始めた子がいました。副担任の先生が彼に静かにするよう諭すのですが、止まりません。すると担任の先生は読み聞かせを中断し、「○○君は他の子の邪魔をしてるよ」と言いました。「私たちはチームでしょう?読み聞かせが終わらなかったら遊ぶ時間が短くなるよ」と、周囲への配慮を促しました。「私は早く遊びたい」と言う子も現れ、うるさかった子は静かになりました。教室全体の空気が少し重くなったため、担任の先生はみんなに深呼吸を促し、落ち着かせました。

 

その後、遊び時間をはさんで運動の時間になり、運動しやすい教室に移動しました。ここでは担任と副担任の先生はいなくなり、運動専門の先生たちが二人で授業を進めました。

 

この授業は、子どもたちがリズムに合わせて先生の真似をするというものでした。先生が動きのアイデアを募ると、やはりみんなが手を上げました。教室の中を馬の真似をしながらグルグル回るという運動の時、きちんと床に描かれた輪に沿って移動している模範的な子に対して、名指しで褒めていました。

 

楽しく授業が進んでいくのですが、途中で飽きてしまって全く動かなくなる子が出てきてしまいました。すると先生は、「私たちはあなたを待ってるのよ」と全体への配慮を促しました。また、興奮してしまって暴れだした子に対しては、「セルフコントロールしなさい」と諭しました。

 

運動が終わると、昼食の時間になりました。昼食はバイキング形式で、各自が自分の皿に食べ物を盛っていました。食べる前に先生の話を聞き、10秒ほどの瞑想を行ってから食べ始めました。

 

教室の後ろに貼られた標語
教室の後ろに貼られた標語

※東京大学初年次長期自主活動プログラム(FLY Program)
http://www.c.u-tokyo.ac.jp/info/academics/zenki/fly/

前回の記事を読む

第1回 「飛び込め、躊躇なく」 世界一周を実現するチャンス
~FLY Program参加を決意したわけ

第2回 誰もやったことのないような世界一周をやってやろう

第3回 受験勉強しながら立てたFLY Program計画

第4回 休学経験者インタビュー

休学中、東北の被災地域のNPOで子供たちへの学習支援活動

~価値ある1年をいかに自分で考えて創っていくか
第5回 なぜ幼児教育を取材テーマにしたか

第6回 休学経験者インタビュー:
世界40ヵ国以上、約300日間で回り、海外で働く人を取材し発信する旅
~生ぬるい自分を変え、同世代にいろいろな選択肢を示したい

第7回 世界一周のための準備
~幼児教育の専門家に会い、本を読み、取材項目をまとめた

第8回 実際に自分たちの手で幼児教育のプログラムを作ってみ
~準備の大切さと予定通りにいかない難しさを実感

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第13回 西海岸と東海岸はこんなに違う!アメリカ大陸の大きさを改めて実感
第14回 マサチューセッツ工科大学で高校生に向け理数系映像教材を開発する渡邊理佐子さんインタビュー vol.1

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第16回 ニューヨークの幼稚園から高校までの一貫校・Riverdale Country School訪問記

~人格教育を重視。Adventurousness(冒険心)からZest(熱意)まで写真や絵で提示

 

 

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