世界へ”FLY”する東大生

~入学して即休学 世界の幼児教育を取材する旅へ

登阪亮哉くん(東京大学)

第33回 シンガポールの幼児教育ワークショップ体験記 その1

子どもの学びを客観的に記述することを通して教育の質を高める「Learning Story」を学ぶ

 

会場となったSarada Kindergarten
会場となったSarada Kindergarten

2016年の1月末に、シンガポールのSarada Kindergartenで行われた幼児教育に関するワークショップに参加しました。ワークショップは午前10時から休憩をはさんで午後17時ごろまで、まる1日実施されました。たいへん充実した内容であったため、4回に分けてレポートします。

 

Learning Storyとは?

 

ワークショップのテーマは“Learning Story”でした。

 

Learning Storyは、ニュージーランドで開発された教育評価法です。一連の教育プログラムにおける子どもの「Learning(できるようになったこと)」を客観的に記述しつつ、それがどのような学びなのかを分類し、プログラムにおいて先生は他にどのようなことができたか、次にどのようなことをすればさらに新しいことができるようになるかなどを書き足すというものです。一人ひとりにフォーカスするため、一つのLearning Storyを書く際は原則一人の子どもについてのみ書くそうです。子どもの成長を定性的に評価したり、教育の質を高めたりすることを目的としています。

 

このワークショップでは、ECDA (Early Childhood Development Agency)フェローという、シンガポール全体で十数名しか選ばれない優れた園長のうち2名が同時に講師を務めました。ワークショップはSarada Kindergarten、および提携する2つの幼稚園の先生のみが参加することを許されるものでしたが、今回は学生として特別に見学することができました。

 

こちらの幼稚園では、今回だけではなく何度もワークショップを開いているそうです。また、シンガポールでは、幼稚園の先生に限らずこのように様々な職業についてワークショップなどの形でトレーニングの機会を多く提供することを推進しています。例えば、ビルの清掃員に対しても、「このような最新の清掃機具を扱えるようになればキャリアアップができる」という指針を政府が示しているそうです。幼稚園の先生で言えば、ワークショップに参加した回数や、政府による特別な認証を受けた幼稚園でのインターン経験などによって、その後のキャリアが明確に変わります。この話を聞き、シンガポールの人材育成に対する強い積極性を感じました。

 

また、こういったワークショップを開催する幼稚園にとっての目的は、先生たちのスキルを伸ばすだけでなく、先生同士でよい授業形態の情報交換をしたり、人種の偏りをなくして広い視野を身につけたりすることにあるそうです。

 

 

教室での観察は重要だと思いますか? それを楽しんでいますか??

 

ワークショップの参加者はみなカジュアルな服装で、女性ばかりだったのが印象的でした。ワークショップはスライドとホワイトボードを使いながら進んでいきます。

 

はじめに、講師から参加者に向けて「あなたたちは日ごろ、教室で起きていることを観察していますか?」という問いかけがありました。それを受けて、参加者たちは教室の後ろのスペースで「Yes」「No」に分かれます。ほとんどの先生がYesに集まりました。

 

次に、「教室での観察は重要だと思いますか?そして、それを楽しんでいますか?」という問いかけがあり、Yes/Noに別れたグループをさらに細かく分けてディスカッションが行われました。グループに分かれる際は、同じ幼稚園から来た先生同士で固まらないようにという配慮がありました。ディスカッションでは、経験が長い年配の先生が最初に話し始める場面が多く見られました。ディスカッションの間、講師の先生たちは全体を見つつ、時々グループの中に入ってファシリテーションを行いました。

 

ディスカッションの後、各グループから代表的な意見を集めました。あるグループは、「子どもたちはそれぞれ成長の仕方が違うので、それらを全て把握することが必要だと思う」と意見を述べ、一方で「子どもの安全を確保しながら、いろいろなことを教えつつ一人ひとりを観察することが必要になるので、楽しむというよりは困難さが勝る」と述べました。また、あるグループは「目立ちやすい数人のことは見ているが、できれば一人ひとりにフォーカスしたい」と述べました。どのグループも、観察の必要性を感じつつも、他にやるべきこととの兼ね合いで困難さを感じていることがわかりました。

 

先生たちの状況を把握した上で、より具体的な問いかけが始まります。続きは次回で!

 

<つづく>

第34回 教育評価法「Learning Story」を学ぶ ~子どもの観察をどのように記録しているか

 

※東京大学初年次長期自主活動プログラム(FLY Program)
http://www.c.u-tokyo.ac.jp/info/academics/zenki/fly/

前回の記事を読む

第32回 子どもを共に育てるチームとして、学校と親が協力することの意味 ~マレーシアの事例紹介 その2 

第31回 発展途上国の子どもたちに、実践を通した学びの機会を与えるEQLの試み  ~マレーシアの事例紹介 その1

 

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第25回 欧米の学生の自己発信力と行動力の原点を幼児教育に見た

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[欧米の幼児教育調査まとめ]

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