はたらく人に聞きました vol.3

ハイブリッド車はIT技術のカタマリ

[メーカー編]

デジカメ・テレビ・エアコン、そして何と言っても自動車。わずか数ミリ四方の何千ものマイコンに組み込むソフトウェアの設計。その仕事が、「モノづくり日本」をリードする。 
 

石川恵子さん

トヨタテクニカルディベロップメント株式会社 

第2電子制御技術部


小さなマイコンが大きな機能を発揮

マイコン / 石川さんが持っている基盤上の小さい黒い四角い部品がマイコン。マイコンの中にいくつものソフトウェアがあり、いくつものプログラムが書き込まれている。
マイコン / 石川さんが持っている基盤上の小さい黒い四角い部品がマイコン。マイコンの中にいくつものソフトウェアがあり、いくつものプログラムが書き込まれている。

——まず、石川さんの現在のお仕事について教えてください。
 

石川 私は、自動車に搭載する制御システムのソフトウェア開発を担当しています。現在、自動車や家電製品、デジタル機器など、ほとんどの機器には、マイコンと呼ばれる小さなコンピュータが組み込まれていて、さまざまな機能が自動化されています。たとえばエアコンは、設定した室温が保たれるように稼働しますし、人がいる場所をセンサーで感知して温度や風向きを調整したりします。これらはマイコンの働きです。

 

こうした家電製品などに組み込まれているマイコンとパソコンの大きな違いは、パソコンはワードプロセッサや表計算ソフト、ビデオ編集や写真加工のソフトなど、自分が使いたいアプリケーションをインストールして使うのに対し、製品に予め組み込まれているマイコンは、その製品のためだけの機能に特定されているという点です。製品に組み込んで使うマイコンの中にはソフトウェアがあり、それを「組込みソフトウェア」といいます。

 

そしてマイコンは、自動車にも組み込まれており、エンジンなどの制御になくてはならないものとなっています。また、自動車の動きは家電製品より複雑なため、マイコンをいくつも組み合わせたシステムによって制御されています。

 

ITが自動車の燃費向上を実現

——自動車のマイコンによる制御とは、どのようなものですか?

 

石川 スイッチひとつで行う自動車の窓の上げ下げもマイコン制御です。ガソリンの噴射のタイミングも、わかりやすい例でしょう。ガソリンはアクセルを踏むと噴射されるのですが、人間の動きだけで調節するには限界があります。そこにセンサーなどをつけて、マイコンで細かくタイミングを変えると、より良い条件でガソリンを噴射したり空気を取り入れたりできて、燃焼の効率(燃費)がよくなり、より快適な走りが可能になります。

 

燃費以外にも、自動車は時代とともに排ガス規制など要求される項目が増え、そのレベルは高まっています。最近はハイブリット車、EV車、衝突防止システムを搭載した自動車など、自動車に使われる電子制御システムは増える一方です。現在高級車には、エンジンをコントロールするためのシステムが100以上搭載されていると言われています。

 

マイコン1つに、10以上の開発チームが参画

——石川さんは、具体的にはどんな仕事をしているのですか?


石川 マイコンに目的の仕事をさせるには、指令を出す頭脳、すなわちソフトウェアが必要です。この、製品に組み込んで使うマイコンのためのソフトウェアを「組込みソフトウェア」と呼びます。私は、自動車の組込みソフトウェアの中でも、次世代のハイブリット車のモータ制御のためのソフトウェア開発をしています。

 

ハイブリッド車は、走る速さや、加速中・減速中といった走行条件、電池の残量などによって、エンジンのみで走る、モータのみで走る、エンジンとモータの両方を使うといった切り替えを自動で行って、燃費をさらに上げています。


まず、発注元であるトヨタ自動車から制御の対象となるモータが指定され、モータの部品、そのモータを搭載する車がどのくらいの燃費を目標とするのかなどの条件が提示されます。この条件によって、使用するマイコンの種類や開発するソフトウェアの内容が変わります。マイコンは同じ性能なら小さい方が価格が高いのですが、だからといって大きなマイコンを使えば重くなり、スペースもとるので、ほんの少し燃費が悪くなります。必要以上の性能があっても意味がありませんから、さまざまな組み合わせがある中で、最適なものを選ぶことが大切なんです。


そして1つのマイコンに搭載するソフトウェアを開発するのに、10以上の開発チームが関わっています。私自身は、その中の1つ、より速い計算手順の考案、使用するマイコンの選定などを行うチームのリーダーとして、若手メンバーの技術的なサポートや、誰がどの仕事を担うかの調整などもしています。メンバー個人の成果は、「自分が考えたロジックによって計算速度が何マイクロ秒速くなった」というようなものですが、その積み重ねによって燃費が良くなって競争力が向上したり、地球環境への負荷低減という社会的使命に貢献したりできるわけですから、とても重要な仕事だと考えています。

 

機械や電気・電子工学に関する知識も必要

——組込みソフトウェアの開発は、普通のソフトウェアの開発とどこが違うのですか?
 

石川 業務系のアプリケーション、たとえば会社の会計システムのソフトウェアの開発などと違うのは、ソフトウェアを搭載したマイコンを組み込む機械についてある程度知っていて、その機械の動きをイメージできなければならないということでしょうか。電気配線の回路図も読みますし、電気抵抗とかコンデンサーとか、電気・電子工学の知識も必要です。一方、会計ソフトを作る人は、会計に関する知識が必要だと思います。

 

——中学・高校時代に学んだことは今の仕事に役立っていますか?

 

石川 数学と理科は、全体的に役立っていますよ。また、大学時代のプログラミングの授業も、プログラムの基礎として役立っています。

 

高校時代はF1好き。最初の就職でITを学んだことが、今の仕事につながる

——なぜ、今の仕事を選んだのですか?

 

石川 高校時代にF1に興味があり、「大学では車に関わることを勉強したい」と漠然と考えて、機械工学科に進学しました。でも、実際には大学では、自動車というより材料の環境影響評価について研究しました。アルミニウムの製造過程でどれくらいCO2が出るかといった研究です。でも、それをどう仕事に結びつけてよいかわからず、就職活動では苦労しました。結局、「車」「環境」というキーワードの仕事をしたいと思いながらも、「会社の会計の情報システム」などを開発する会社に就職しました。この会社では、本格的にITの勉強をしました。

 

でも仕事を続けるうちに、車や環境に関する仕事をしたいという気持ちが強まっていったんですね。そこで転職を決意し、トヨタテクニカルディベロップメントに出会うことができました。前の会社でITのスキルを身につけられたことが、現在につながっていると思います。

 

「モノづくり日本」を象徴する自動車開発にソフトウェアで貢献したい

——将来の目標や夢はありますか? 

 
石川 1つは、自動車産業、IT産業というと、まだ男性社会なんですね。私自身は結婚していて、妊娠中の同僚もいますが、幸いトヨタテクニカルディベロップメントはフレックスタイム制で、女性が働きやすい制度が整っているので、この業界でも、女性が活躍できるということを示していきたいと思います。

 

もう1つは、自動車は「モノづくり日本」を象徴する技術で、世界から高い評価を得ています。トヨタテクニカルディベロップメントはクルマの組込みソフトウェア開発の会社ですから、モーターなどの機械技術に負けないくらい優れたソフトウェアを開発し、次世代の車開発に大きな役割を果たしていきたいと思っています。

 

1日のスケジュール


勤務は、午前10時から午後3時までが拘束時間で、残りは、自由に時間が選べるフレックスタイム制。私は、10時少し前に出社しています。
14時30分ごろから、チームリーダーが集まっての全体調整のミーティング、15時から17時30分ごろまで、チームメンバーから上がってきたプログラムの点検や評価、最後にメンバーのフォローや管理業務をして、1日が終わるというのが典型的なパターンです。

なるまでチャート

高校時代

友達と当時人気の「LUNA SEA」などビジュアル系バンドのコピーバンドを組んで、音楽ばかりしていました。横浜の老舗ライブハウスのイベントでも演奏していました。


大学時代:機械工学科へ

中学生の時からF1に興味があったので、ならば「車」と思い、機械工学科に進学しましたが、大学での研究は環境に関すること。アルミニウムの製造過程で、CO2がどれくらい出るか、ということでした。


就職:情報システムの会社へ

車や環境に関わる仕事をしたいと思いながらも、学んだことがそれらの仕事につながらず、「会社の会計の情報システム」などを開発する情報システム会社に就職、そこで、本格的にITの勉強をしました。ただ「会社の会計」には全く関心を持てず、会計の初歩の初歩、簿記3級の試験にも落ちてしまい、「向いていない」と強く感じました。


転職:自動車の開発へ

会社勤めで学んだITを活かすことで、自動車の開発に関われることを知り、転職。生まれ育った神奈川を離れ、豊田に来ました。転職後に結婚しました。帰宅後は、組込みソフトウェアの情報サイトなどを見て、新しい技術はないかなど、アンテナを張っています。


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