はたらく人に聞きました vol.2

農業活性化の鍵はITが握る

[第一次産業編]

農家を盛り立て、安全でおいしく安い食材を家庭に。21世紀、農業を成長産業に!

佐久間輝仁さん

株式会社和郷 総務経理部 業務企画室


生産者と小売店をつなぐ農産物の新しい流通システム

——株式会社和郷は新しいアグリビジネスの会社だとうかがいましたが、どんな会社ですか?

佐久間:

株式会社和郷は千葉県の成田空港の近くにあります。減農薬で安心、安全な野菜を栽培する何十軒もの地域の生産者に「和郷園」という組合の会員になってもらい、会員の畑から収穫される農産物の集荷や販売などを行っています。和郷自体も、農産物を育てている「和郷園」の生産者の一つです。私はここで、主にITを使って業務の改善・改革の仕事をしています。


——どこが新しいビジネスなのですか?


佐久間:

これまでとは違う、農作物の流通の仕組みを開発したんですね。農作物は、基本的に生産者が農協に持ち込み、農協から出荷された青果市場に仲卸業者やスーパーマーケットなどのバイヤーが買いにきて、流通しています。


成果市場での値段は、出荷量が多いと安く、少ないと高くなるため、価格が安定していません。農作物は工業製品と違って生産量が天候に左右されますから仕方がない面もあるのですが、生産者も販売者も、売り上げや資金計画を大ざっぱにするしかありません。 


そこで、和郷は、まずスーパーマーケットなどの小売店と、例えば大根であれば何月に何本、いくらで売るという契約を結んだ後で、生産者に作付けを依頼します。この契約栽培によって、一定の金額で一定の本数を売買できるようになり、生産者・小売店双方の経営の安定につなげることができます。さらに、流通過程に仲介者が少なく、そのコストがかからない分、生産者からの買い取り価格を高くできます。


——農作物が予定通り収穫できないときはどうするのですか?


佐久間:

天候による出荷量や出荷時期の誤差はどうしても出てしまいます。そこで、私たちは、生産者から生育や収穫の情報を頻繁に集め、その情報をスーパーに伝えています。予定通りに収穫できないことが早くわかれば、スーパーは他から買う手配をするなど対策をたてることができるのです。

 

生産者も取引先も便利になるシステムをITで作る

——ITは、どこに関わっているのですか? 

 

佐久間:

この仕組みでは、生育状況に関する情報を早く収集して管理するのが鍵です。そこに、ITが関わっています。生産者からの発注や生育状況の情報はファクシミリや電話で行っていましたが、生産者にもパソコンを導入してもらい、生産者が生育情報を直接入力できるようにします。これにより生育情報を和郷がいち早くスーパーなどに伝えられるようになりますし、予定よりたくさん収穫できることが早くわかれば、和郷はもっとたくさん買ってもらえるように営業することができて、生産者にも和郷にも利益になるのです。


今は和郷の流通をもっと進化させる情報システムを考えています。一つはスーパーの人も、生産者が野菜を植えた段階から生育状況を見えるようにしたいと考えています。状況が見えれば、仕入計画を随時チェックし、多すぎなのか、少なすぎなのか等リスクも推定できます。生産者からもスーパーの購入実績が見られれば、どの作物を作るかの検討もできます。最終的には、製造から販売まで一貫して管理できるシステムを作りたいのです。


さらに、さまざまな地区、例えば、九州にも東北にも和郷のような産直組織が複数できて、大きなグループとして、このシステムでつながれば、生産者と小売店がWeb 上で直接取引できるような、地域を越えた農作物売買の場ができるかもしれないと考えています。

 

ITを使う人の要望をまとめ、ITの会社に伝える通訳

——佐久間さんは、具体的にはどんな仕事をしているのですか?

佐久間:

私の主な役割は、業務の効率化のコーディネートです。生産者や小売店、社内の販売担当などの要望を聞いて回り、どのようにすれば、仕事の流れや情報の流れをよくして、業務が効率化できるか考えます。すべてにITを使って解決するわけではありません。ITが必要な場合には、IT会社にシステム設計を依頼します。私の役目は、IT会社に和郷の情報がどのように流れてくるか説明したり、使いやすい画面などの要望を出したり。通訳のようなものです。また、生産者の方にパソコンの使い方を教える教室を開くのも私の仕事です。

 

経営規模が小さいために遅れていた農業へのIT導入

——農業ならではの難しさというのもありそうですね。

佐久間:

こうしたITを使ったシステムは、他の商品ではすでに導入されていますが、農作物は、生産者1軒1軒の規模が小さいこともあって、ITの導入が遅れていたんですね。工業製品では、生産ノウハウもマニュアル化・電子化されて社内で共有されていますが、農業では、生産の仕方は経験として生産者のご主人に頭の中に蓄積されている状況でした。


今、IT業界は農業に注目していて、センサーで温度や水量を調べて生育の度合いを見る、という生産管理システムの開発が進んでいます。しかし、IT企業は生産者のニーズを把握しきれず、農業の現場に合わないことも多いようです。


しかし私たちは、農作物の生産も手掛けていますので、生産者視点に立ってシステムをつくることができます。今は、どんな環境だと作物の質が良くなり、たくさん採れるようになるかについて、多くの生産者のデータを私たちの方法で分析し、生産者に伝えるシステムを考えています。

 

IT導入で農作物の生産法も変わる

——流通システムや社内のシステム以外でITを導入する予定はありますか?

佐久間:

和郷では現在、野菜工場でのトマト生産に取り組んでいます。野菜工場というと、全て室内でLEDを使って栽培するような方法もありますが、和郷のトマト工場は、ビニールハウスでの栽培で、養分を与えることと灌水(水やり)を人工的に行い、光は太陽光を利用するシステムです。このほか、天候や気温にあわせたビニールハウスの開閉の自動化なども行います。


今はまだ水をやる機械などの制御にITを使っている段階ですが、いずれは、天候や気温、湿度、ビニールハウスの形などとトマトの生育の関係のデータを蓄積し、それを分析して、栽培のノウハウを科学的に確立し、遠隔操作できるようにしたいと計画しています。

トマトのビニルハウス(下)の灌水(かんすり:水やり)システムの操作パネル / より高度な植物工場へ発展させる試みに取り組んでいる。右は、このシステムの開発管理をしている伊原さん。
トマトのビニルハウス(下)の灌水(かんすり:水やり)システムの操作パネル / より高度な植物工場へ発展させる試みに取り組んでいる。右は、このシステムの開発管理をしている伊原さん。

中学・高校時代に身につけた勉強方法が役立つ

——中学、高校時代に学んだことで、仕事に役立っていることはありますか?


佐久間:

中学・高校時代に身についた勉強方法が役に立っていますね。社会人になると、いろいろな業務を抱えます。集中力を切らさずに仕事をしたり、自分なりの記憶方法で物事を覚えたりする力は、当時身につけたものだと思います。
具体的に学んだこととしては、私は商業高校の情報処理科でしたので、プログラミングの知識は役立っています。また、高校の先生が資格取得を勧めてくれたので、高校時代に簿記2級、第2種情報処理技術者を取得することができたのも良かったです。

 

ITというスキルを持って、農業というやりたい世界に飛び込む

——今の会社を選んだのはなぜですか?


佐久間: 

実は、和郷へは中途採用で入社しました。大学卒業後、初めて勤めたのは情報システムの開発会社で、銀行のATMの端末システム開発に携わりました。退職して青年海外協力隊に応募し、ブータン王国に派遣されました。ここでは王国財務省の会計システムの改良、メンテナンスを担当しましたが、農業のような、人が生きるのに必要な仕事に携わりたいと考えるようになりました。


とはいえ、帰国後一旦は建設系コンサルタントに入社。ここでも、主にITを担当しました。ただ、いずれ農業に携わりたいという気持ちは持ち続けていました。しかし、いきなり農業をする勇気が持てず、まずは農業に近い職場をと探し、和郷という会社を知りました。求人がなかったにも関わらず、いきなり電話をして、履歴書を送って、面接をしていただいて、採用していただいたのです。


最初、部署は決まっておらず、今までの会社で情報システムを作ってきたので、和郷のシステムをどう改善できるのか一回みてみてください、と言われ3か月かけて業務改善のプランを作ったのが始まりです。ITスキルを活かし、会社と農業に貢献する道を見つけることができました。

 

1日のスケジュール


日によって違いますが、朝は8時に出社して、メールや電話で関連各所とこの日の業務の確認を行います。ほかに、システム設計を依頼しているIT会社との打ち合わせ資料を作成したりします。社内のIT関係のことはたいてい私が担当していますので、パソコンの不具合を直すこともあります。和郷は通信販売も行っているので、夕方は通販の受注に関する作業をします。 

なるまでチャート

高校時代

商業高校の情報処理科ではプログラムを作成し、動かした時の処理の不思議さに感動、プログラミングははまりました。水泳ばかりの生活なものの、先生のすすめで、簿記2級と第2種情報処理(今の基本情報処理)技術者試験に挑戦し、合格。高校での専門性こそが社会人では役立っています。


大学時代:経営学部へ

試験合格の実績も評価され、推薦入試で経営学部に入りました。大学時代は、ITとは関係ない学びでしたが、高校時代の専門性があったからこそ、幅広い視野で学べました。


就職:情報システムの会社→ブータン

高校時代に勉強したITなら活かせると、情報システムの開発会社に就職、銀行のATMの端末システムを開発しました。退職して青年海外協力隊に応募し、ブータン王国に派遣されました。ここでは王国財務省の会計システムを改良。設計もプログラミングも何でもしました。ブータンで、ITはあると便利だけれどなくても良いと実感し、農業のような、人が生きるのに必要な仕事に携わりたいと考えるようになりました。とはいえ、帰国後は建設系コンサルタントに入社しました。


現在の会社に就職

農業に携わりたいという考えは変わりませんでしたが、30歳を過ぎていたので、いきなり未知の農業をする勇気がなく、求人がなかったにも関わらず、農業関連企業の和郷にアプローチし、採用していただくことができました。


今も勉強中

建設系コンサルタント時代に勉強を始めた中小企業診断士の資格取得に向け、現在も勉強中。その勉強を通じて得た知識は、総務や営業など、社内の各部署の仕事の理解に役立ち、それが、各部署の仕事を便利にするITシステム構築に活きています。当然ITの先端動向は、日々チェック、勉強は怠りません!
仲間と一緒に農業にも取り組んでいます。週末農業なので、売れるほど生産しているわけではありませんが、生産者の方とお話しするときには、相手の考え方が理解できるので役に立っていると思います。


わくわくキャッチ!
今こそ学問の話をしよう
河合塾
ポスト3.11 変わる学問
キミのミライ発見
わかる!学問 環境・バイオの最前線
学問前線
学問の達人
14歳と17歳のガイド
社会人基礎力 育成の手引き
社会人基礎力の育成と評価