自分らしく生きて、社会を変える

女子力アップセミナー

第3回

ウガンダで親を失った子どもたちをサポートするフリーアナウンサーの永谷裕香さんの「女子力」


[お話する人] 永谷裕香 (フリーアナウンサー、NPO「ムクワノ」代表)

[インタビュアー] 東京女子大学大学院文学研究科院生 松紀枝、橋本実季
         高校生 つじみき

2013年3月7日。3月15日に、永谷さんは2人目の子どもを出産されました。

(1)アフリカの厳しい現状―現地の人が自立するためのサポートを

ウガンダの子どもたちと
ウガンダの子どもたちと

---永谷さんが代表をお務めのNPO法人ムクワノ(MUKWANO)とは、どんな活動をされているか教えて下さい。

 

永谷:ムクワノは、アフリカのウガンダにあるラカイ県という田舎に暮らす、エイズで親を失った子どもたちをサポートする団体です。2007年に立ち上げて、現在6年目に突入しました。きっかけは、私の大学時代にさかのぼります。大学時代、ウガンダを訪れる機会が2回あったんですね。初めて訪れたのは1997年で、まだウガンダの小学校が義務教育になるかならないかという時に、首都のカンパラで、知り合いのアメリカ人が教育を広める活動をしていたので、そこを訪ねました。

 

でもその時は、私、もともと動物が大好きだったので、動物に会いたいという思いでウガンダに行ったんですね。でも実際は、日本で想像していたみたいに簡単に動物を見られるわけではなくて、ナショナルパークなどの大きな公園に行かないと見られないんですよ。一般の人たちは、動物を見たことないという人がほとんどでした。私はそれがすごく意外で、行ってみたら動物ではなくて、現地の人の生き方とか、子どもたちの現状とか、もっと違うことに目を向けるようになったんです。

 

それで現地の方の家にホームステイをさせてもらったりとか、ある小学校の建設に関わったりとかして、楽しい渡航になったわけです。その後アナウンサーとして働いて、しばらく働いた後辞める決心をしたのですが、その時、今度は旅行者という形ではなくて、現地の人ととことん触れ合いたいと思って、1年3か月という短い期間なんですが、ウガンダに滞在する機会を得ました。


その時に、ラカイという地方を訪ねる機会があって、そこで子どもたちだけで生活している家が多くあることを知りました。どうしてそういう状況が起こっているかというと、ウガンダはエイズの感染率が高くて、エイズで亡くなる方が多かったんですね。エイズはHIVに感染してから亡くなるまではスパンがすごく長いので、今は感染率が少し下がったといわれていますが、それでも、いわゆるエイズ遺児という親のいない子どもたちがたくさんいます。中でも、ラカイは地方ということもあって、親も親戚もいとこも、いわゆるアフリカの伝統的な拡大家族のみんながエイズで亡くなってしまって、子どもたちだけが取り残されてしまうということがすごくたくさんあったわけです。でも、地方なのでNGOなどのサポートが少なく 、非常に深刻な状況でした。

 

子どもたちだけで暮らす家族という現実と向き合う

---既存のNGO等にサポートをお願いするのではなく、ご自身でNPOを立ち上げたのはなぜですか?


永谷:私はもともとNPOを作ろうなんて全く考えたことがなかったんですよ。ただ、あまりにもラカイという村にサポートが入っていなかったので、「ラカイがこういう厳しい状態にある」ということを、たくさんのNGOに報告しました。でも、それぞれの団体が抱えている地区というのがあって、「現状としては難しい。ただ、今後、支援の手を広げるのならラカイにも」という返事しかもらえない。だったら、「何か小さくても自分でできること」をと思って、最初は仲間と一緒に文房具を送ったりとか、衣類を送ったりとかいうことを始めました。

 

始めはそういう小さなことをやっていたのですが、ある時友人たちから「せっかくだから小さくてもいいから団体を作って、自分たちにできることをサポートしていこう」ということを提案されまして、そこから生まれたのが「ムクワノ」という団体です。ムクワノでは子どもたちが生活するホームと、初等教育を受けられる小学校を建設して子どもたちをサポートしています。学校にはホームに入居している子どもと近隣の子どもたちが通っていて、約200名が学んでいます。

 

--子どもたちだけで暮らしているというのは、年齢は何歳くらいの子どもたちですか?

 
永谷:例えばある一家は9歳の男の子が一家の長をしていたりとか、15歳の女の子が一人で生活をしていたりしますね。ただ、世帯調査はウガンダでも進んでいないので、これはあくまで私が100件ほど現地でソーシャルワーカーと調査して知りえた状況です。でもこういった状況はウガンダだけというよりもサハラ砂漠以南のアフリカで最近は全般的に起きています。エイズの影響ですね。今までだとアフリカは伝統的に拡大家族で暮らしていて、大人数の家族が多かったので、親戚だとか、近所の人が子どもの面倒を見るという文化があったのですが、それが崩れてきて、子どもたちだけで生活する家が増えてきているんです。


---NPOを指揮する中でのご苦労や、気を付けていらっしゃることはありますか?
 

永谷:たいへんなことは、いろいろあります。まず、今私たちのNPOは、日本側は有給スタッフというのはいないんです。みんなボランティアで活動しているので、メンバーのモチベーションを持続させるのが大切ですし、何より現地とのやり取りがすごくたいへんです。電気が通っていない村なので、インターネットが使えないんですよね。そうなると必然的にコミュニケーションはすごく遅くなります。なるべく電話をしたり、1時間かけていちばん近くのネットカフェに行ってもらって、そこからホームや学校の写真を送ったり報告書を書いてもらったりしているのですが、結局時間のずれが生じてしまう。

 

あとは、どうしてもサポートする側・される側っていう関係になってしまいがちですね。「これが欲しい、あれが欲しい」というリクエストがけっこう来たりします。でも、なるべく現地の人たちの自助努力を損なわないように、自分たちで頑張ることを奨励しながら活動していくというが私たちの姿勢です。現地の困難な状況も分かるので、ある一定のやり過ぎないサポートといいますか、なるべく現地の人たちの努力を損なわないサポートを心がけています。

 

基本的に私たちの団体は、管理するっていうよりは一部をサポートするというスタンスなので、基本のやり方や方針は現地の人たちにお任せしています。私たちの団体は多くの方からの善意で成り立っているので、いつお金が途絶えてしまうか分からないし、そう考えるとやはり最初から、現地の人たちが主体的に動いてなるべく現地の人たちが頑張らないといけないよと言い続けています。いつ撤退してもホームや学校が続くようにと思い活動しています。

 

プロフィール

永谷裕香(ながたに ゆか)
フリーアナウンサー、NPO「ムクワノ」代表

 

1977年東京都出身。東京女子大学現代文化学部言語文化学科(当時)卒業後、テレビ西日本に入社し「TNCスーパーニュース」や「ももち浜ストア」のキャスターを務める。退社後、約1年間にわたって東アフリカ・ウガンダ共和国の小学校で教壇に立つ。その後、TBS「ニュースバード」などでキャスターとして活躍。フリーになってからアフリカのエイズ孤児支援の活動を開始し、 一方、東京大学大学院総合文化研究科で人間の安全保障修士号、ブラッドフォード大学(イギリス)でアフリカの平和と紛争学修士号を取得。2006年、友人と共にNPO MUKWANO(ムクワノ)を発足。ウガンダで親を失った子どもたちの安全と生活を守り、自立をサポートしている。

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