全日本高校模擬国連大会2017

価値感の押し付けによる無理な「進歩」は、かえって後退につながることを真摯に訴えかけた

渋谷教育学園渋谷高校Bチーム[東京都]

石川満留さん(1年)、長谷川えみ里さん(1年)

担当国:エチオピア 

左から  長谷川えみ里さん、石川満留さん 写真提供:渋谷教育学園渋谷高校

 

1.担当国を希望した理由をお教えください。

 

今回の議題である「ジェンダー平等」に関して言えば、女性の社会進出にしてもLGBTの人権問題にしても、議論が発展の途上にあり、二極化した主張が出ることが予想されたため、当初私たちは、両方の理解を促すことができる国を担当したいと考えていました。

 

エチオピアは私たちが当初希望した国ではありませんでしたが、近年女性の人権向上に懸命に取り組んでいる一方、農村部では有害な伝統的慣行が後を絶たず、女性への差別や暴力が根絶されにくい社会の構造を持つため、担当したい国像に合っていたと思います。そして、エチオピア大使を務めることによって、この議題に大いに貢献できたと実感しています。

 

2.皆さんの担当国のジェンダー平等に対する姿勢と、国際社会で問題になる(と考えられる)点を教えてください。

 

エチオピアは、国の継続的な経済発展の為には女性の社会進出が不可欠だと捉えているため、近年女性の人権向上や社会進出に積極的に取り組んでいます。その一方、都市と農村の格差が激しい中、農村部では未だ男女にまつわる伝統的価値観による差別が根強く、FGM(女性器切除)や児童婚といった慣習が継続されています。問題なのは、それら有害な慣習は法で禁じられ、政府も根絶を目指しているにもかかわらず、文化内部に深く埋め込まれているため、伝統として正当化され、社会やコミュニティーの圧力によって持続する傾向を持つ点であります。

しかし、伝統や慣習を重んじる社会があることを直視せず、西洋的価値観を押しつけることでそれらを廃絶しようとするアプローチは、かえって人々の反感を買うことも理解しなければならならず、それが大変難しい点です。

 

それぞれの国の社会構造に配慮をした上で、有害な慣習を減少させ、最終的に根絶へ向かうという方法が、国際社会で理解はされつつも、いまだに実行に起こされていないことも問題です。そして国としてのアプローチでは、警察、コミュニティーや医療など、人々の生活に密着したレベルで根絶の動きを起こしていくことが現在の課題であると私たちは考えました。

 

また今回の全日本大会では、女性の人権に加え、LGBT(正式にはSOGI)の人権保証についても話し合われました。エチオピアでは、同性愛という行為は国の宗教に反し、社会的に認められていないため、LGBTの人権保証はなされていない状況です。注目すべきなのは、法律で禁じられているという事実よりも、人々の拒絶感の方がLGBTを認めない風潮を作りあげているということです。社会の中で疎外感を感じたLGBTの人々は、故郷を捨て、周辺の国へ逃げていく現状があります。伝統や宗教的価値観を重んじ、現状としてそれらを認められない状況にあるエチオピアであっても、国際社会の流れが変わり続けていることを事実として認識するべきだと考えました。

 

3.準備の段階で苦労したことや、工夫したことがあれば教えてください。

 

準備を始めた頃は、自分たちが女性問題や性的少数者の人権向上に対してとても西洋的な価値観を持っていることに気づき、歴史や伝統、宗教を重んじるエチオピアの意見や世論を完全に理解することに苦労しました。人々の価値観や考え方は、論理で完全に説明できるものではなく、様々な要素が複雑に絡み合ってできているので、違った価値観に共感できるか不安でした。しかし今、エチオピアが抱く意見に少なからず理解することができるのは、エチオピアの社会構造、それに至るまでの歴史を綿密に調べ、なぜこのような考え方に至ったのかを調べ上げたからだと思います。(石川さん)

 

エチオピアではLGBTの人権問題が議論の対象になることすら否定され、そもそも社会にとってほとんど無縁な話題です。しかし、今会議において、ジェンダー平等の一側面として議論することが求められている以上、どういった主張をするべきか、どういった結果が国益に繋がるかを見極めることにリサーチの段階で苦労しました。

 

その際、人権保障というものは国民の意識や態度と深く関わり、人々が推進力となるため、国の実態を常に考慮する必要性を意識し、集められる限りの公式資料や世論のデータをもとにエチオピアの主張を固めました。(長谷川さん)

  

 

 

4.大会当日は、どのようなことに気をつけながら会議に臨みましたか。

 

会議では外交・内政と担当を分けたので、隙間の時間に互いの行動を伝え、随時その意義を確認していました。その作業はエチオピア大使としての統一した行動を作り上げた大切な要素であったと思います。

 

今回の会議は全会一致が望ましいとされていたので、いかに国際益と国益のバランスの図れた妥協策が提示できるかが重要でした。ですから、立場が異なる国と交渉するときは、交渉相手の国の意見を真向から否定せず、エチオピアやエチオピアが属しているグループが何を大事にしているのかを丁寧に説明し、折り合いをつけられる点を協力して見つけ出していくことに気をつけていました。

 

本番では思いがけない意見が出たり、自分たちのグループと別のグループの歩調が合わないことは度々見られましたが、議場が混沌としていた中でも、何をするべきなのかを冷静に考えようと心がけていました。(石川さん)

 

似た立場の国との協力体制を大切にしつつ、エチオピア独自の現状や主張を常に念頭に置き、それを異なる主張を持つ国にも理解してもらえるよう、粘り強く交渉することを心がけました。また、国際益を見失わないよう、常に考え訴えていました。

 

例えば、エチオピアとしてはLGBTの人権保証に急速な進歩を求めることは不可能であることを国際社会に理解してもらうようにしました。その際、ただそれを訴える以外に、外部からの圧力や西洋的価値観で急速に人権向上を推し進めようとすると、かえって国内の混乱を招いたり、西洋やそれに伴うLGBT嫌悪が助長されたりするため、それは世界全体に決して望ましくないことであるといった説明を尽くしました。(長谷川さん)

 

5.会議を進める上で一番大変だったことを教えてください。それをどのような工夫や努力で乗り越えましたか。

 

「ジェンダー平等」の定義や解釈が国ごとに大きく異なる中、この会議の意義や目的を国際的に一致させることが必要だという意見を、違った価値観の国々にも理解してもらうことが難しかったです。女性への人権や男女同権を確保しようという意識は世界の中で確実に広がっており、その取り組みをより強化していくことが、今回の会議の最も重要な要素だと私たちは考えていました。このエチオピアの意見を伝えるには丁寧な説明が必要でした。それには、事前に何度も練り上げた論理的かつ説得力のある意見が本番で大いに役立ったと思います。

 

頭を悩ませたのは、会議当日にSOGIの人権を促進する国が提示した「性自認は生得的なものであることを証明する科学的根拠が国際的に発表されたら、SOGIを認める」という妥協案でした。この妥協案に関しては、SOGIの人権を促進したい国とそうでない国の間で大きな意見の差異が見受けられました。SOGIを認めない国の多くが、「科学的根拠がないから認められない」と理由の一つに挙げていますが、科学的根拠の有無だけが、SOGIに対する意見を左右するわけではないと思います。

 

SOGIの人権については、人々の考え方や、周りの環境、国の方針など、全ての要素が絡んでいる問題なので、急進的に流れを変えるのは、世論と国の方針に大きな差異が生じ、政府としての役目を果たせなくなる可能性があり、そのことを西洋諸国に説明するのは大変難しいことでした。双方の意見を配慮した新たな妥協策を提示し、会場の一致を図ろうとしたことは、国際社会の中のエチオピア大使としてふさわしい行動であったと思っています。(石川さん)

 

議題の特徴として、思想や宗教の根底の対立が激しいものである中、それぞれの大使が描いていた会議の「成果」というものが非常に異なっていたことを痛感しました。これまでのSOGIを扱った現実の国際会議においては、議論自体に抗議して議場を退席する国がいたり、決議が反対派の賛同を全く得られず僅差で採択されたりしたことがありました。エチオピアとしては、こういった国際社会の議論の流れを考慮し、少しでも前進につなげることができたら有意義だと考えました。

 

同性愛を違法としている国が、将来的にSOGIの議論を行うことに同意することさえ、大いなる一歩であり、急進的な前進を求めるのはあまりにも非現実的かつ危険です。しかし一方で、西洋側は今までの並々ならぬ努力の積み重ねによって、ようやく向上しつつあるLGBTの人権を少しでも後退させるような決議には反対で、西洋の守るべき理念を終始貫き通しました。

 

こういった状況の中で、現在同性愛者を罰している国が将来的に議論を検討することは、同時に西洋側の取り組みも後退せず以前と同様に進むことであり、世界的には前進しているのだということを何とか伝えようとしました。

 

時間が差し迫っている中、十分交渉して相互理解を図る余地がなく、最終的にはコンセンサスは達成されませんでしたが、西洋とイスラームやアフリカ諸国が互いの主張とその思想的背景や国の現状をぶつけ合い、相互理解を試みる一歩を踏み出すことができたと思っています。(長谷川さん)

 

6.皆さん自身はジェンダーの平等についてどのような考えを持っていますか。また、それは今回の担当国の立場とどのような点が同じ(あるいは違う)でしたか。

 

全ての人間がその性に関わらず、その人らしく生きることができる社会を、ジェンダー平等の理想状態だと私は考えます。私は誰でも社会の中に居場所を見つけ自分の環境に帰属、信頼でき、自分を自分の好きなように表現することができることを、その人らしくと呼ぶのだと思います。しかし、大きく解釈が異なってくるのは「性」に対する定義です。私は小さい頃からニューヨークで育ち、アメリカと日本の文化、つまり西洋的価値観が関与している社会の中で育ってきたので、性的少数者(SOGI)も等しく人権が与えられるべきだと考えます。

 

しかし、エチオピアでは、伝統的価値観や宗教的思想を重んじる社会であるため、国も世論も、SOGIを「生得的な性」とは見なさず、「選択した性」として受け止めています。男尊女卑社会が続き、1980年代からの経済発達をきっかけに急速に推進された女性の人権向上でさえ、長い時間を要しました。ですから、新たな性の区分であるSOGIを受け入れることはエチオピアにとって難しいことであるようです。

 

私自身とエチオピアの意見の間で大きな差異はありますが、この会議では、両者の意見に配慮した解決策が必要なことを痛感しました。そのために一番重要なのは、まず世界中の一人ひとりが自分とは違った意見を持っていること、そしてなぜ違っているのかを知らなければならないと思います。

 

私は会議前、エチオピアのような閉鎖的な考え方では国際協力が得られないでないか、と安易に考えていました。しかし調べるにつれて、彼らは決して閉鎖的になっているのではないと思うようになりました。西洋的価値観で、彼らにSOGIという新たな扉を無理にこじ開けさせようとすると、時代の変化に対する知識を得ようする前に、彼らは自分の伝統や文化が批判されているように感じるでしょう。それに気づかないまま、西洋側が強引なアプローチを取り続ければ、国際社会での溝は深まり、近づこうとする意識はなくなります。そのような状況であることを、全ての国だけでなく人々が気づくことが大切です。

 

例えばインターネットなどでは、自分とは違った意見を持つ人を何行かの言葉で傷つけてしまうことが多くあります。しかしそうなる前に、なぜ意見が違うのか、なぜ国際社会は合意をとれないのかを知ることを、本当に大事にするべきだと考えさせられる会議でした。(石川さん) 

 

女性を傷つけ、女性の社会進出や自己実現を妨げる一切の差別や暴力は、たとえ長きにわたり受け継がれてきた伝統であっても、いち早く根絶されるべきであると考えます。また、性に関わらず、国の経済、社会や文化的発展に参加・貢献ができ、その努力が支援されるような社会こそ、ジェンダー平等の理想状態であるはずです。この二つの点においてはエチオピアの政府と同じ立場にあると思います。

 

一方、日本に生まれ育ち、海外経験もある私は、性的指向や自認によって権利が制限されるようなことはあってはならないと考えるため、同性愛を違法とみなすエチオピアとは反対の主張を持っています。しかし、今回の会議でエチオピアの大使に成りきり、何よりも実感したのは、たとえ同性愛に対し自分とかけ離れた立場をとる国がいても、それを自己の価値観を基準に真っ向から否定や非難をすることは何の進歩ももたらさないということです。もとにある宗教や伝統が、その国の人々に持つ意味は、他の国の人には理解しがたいくらい大きいものであり、それも尊重しつつ、慎重に権利の保障を訴えていくことが欠かせないということでした。

人権問題に対しては、各国が多様な捉え方を持っていますが、それを促進するためには、常に長期目線で、その国の伝統や宗教を真っ向から否定することなく、慎重に取り組まなくてはいけないことを、この全日本大会で学ぶことができました。(長谷川さん)

 

7.世界大会に向けての抱負を教えてください。

 

どのような議題が発表されても、国際社会は常に全ての人々の生活や価値観に関係しているのであって、担当する国が考える、会議に参加する意義を考え、常にそれと向き合って行きたいと思います。また、ある国の大使であることと同時に、国連総会の一メンバーである意識も常に忘れず、国際益も考慮した上で行動して行きたいと思います。5月の世界大会では、自分で考えぬいた「意義」を全うできる会議行動を実現できるように、担当国や世界の視点を詳しく調べ、それらを発揮することができるように頑張っていきたいと思います。(石川さん)

 

世界の国際会議では、今までとは異なった新しい模擬国連に出会うことになり、そこでは今までのやり方が通用しなかったり、生まれ育った場所が違う人との交渉の中で様々な壁が立ちはだかったりすると思いますが、常に議題の本質や特色を人一倍理解し、何が達成されれば進歩できたと言えるかを分析し、議場全体を引っ張っていきたいです。(長谷川さん)

 

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