2018信州総文祭

クサグモは餌となる昆虫の動きを「聞き分けて」いた!

【生物】山梨県立甲府南高校 生命科学部

■部員数 18人(うち1年生10人・2年生5人・3年生3人)

 

 

クサグモの捕食行動における誘引周波数

音叉を鳴らしただけだと、どの周波数にも近づいてくる

クサグモというクモをご存知でしょうか。こちらの写真のような見た目で、右に挙げたような特徴を持っています。私たちの学校の敷地にもたくさん生息しています。

 

クサグモは、普段巣に隠れていますが、「棚網」と呼ばれる網を張り、そこに昆虫がかかると巣から出てきて、その昆虫を捕食します。この際にクサグモは、昆虫が起こす振動を、糸を通して感知していることが知られています。先行研究では、鳴らした音叉を近づけると同じような行動を取ることがわかっていますが、どのような範囲の周波数に対してそうした行動を起こすのかはわかっていません。そこで、私たちはクサグモがどうやって昆虫が起こす振動を感知するのか、どのような周波数が捕食行動を誘発するのかについて、研究することにしました。

 

今回の実験では、学校の敷地内のクサグモを対象に、振動や音波に対して音源に対して近づくか遠ざかるかを確かめる実験をしました。音源に対して近づいたものを「誘引」、遠ざかったものを「逃避」として行動を記録しました。

 

まず、様々な周波数の音叉を使って予備実験を行いました。周波数が256Hz,320Hz,440Hz,523Hzの4種類の音叉を用意し、それぞれ20の個体に対して、鳴らした音叉を網に当てた時にどのような行動を取るか観察しました。この予備実験では、すべての音叉に対して「誘引」の行動が起こり、周波数の範囲はわかりませんでした。

 

餌となる昆虫が出す振動の周波数を感知していた

そこで写真のような自作装置を作りました。弦定常波実験装置という波を発生させる機械に、波を振動に変換するバイブレーターをつなぎ、さらにその振動を直接伝えるための銅線を付けた装置です。この銅線の先の部分を網に接触させることで振動を伝えました。この実験装置にはスピーカーが付いていて、同じ周波数の音も出ていたので、音波のみ・振動のみでそれぞれ実験を行うことにしました。

 

音波のみの実験として、音を鳴らしてメガフォンを逆さ向きにして集音し、音波のみを伝える実験をしました。個体ごとにそれぞれ、「誘引」「逃避」の行動を取りましたが、強い風が吹くと音が拡散してしまい、反応を示さない個体が多かったです。

 

 

続いて振動による反応を確かめるため、スピーカーを切って、銅線による振動のみを伝えることにした。5~200Hz,600~800Hzの範囲の周波数でそれぞれ70個体ずつ、反応を確認しました。こちらの動画のように振動を与えると近づいてくることや、遠ざかることがありました。 

誘引行動・逃避行動をそれぞれ取った個体の割合と周波数でグラフを作ると、右図のようになりました。600Hz以下では誘引行動を取る個体が多く、610Hz以上になると逃避行動をとる個体が多くなることがわかります。

 

ここで私たちは、餌となる昆虫が起こす振動の周波数は600Hz以下ではないかという仮説を立て、写真のような装置を用いて実験を行いました。

 

カップの中に、クサグモが餌としている昆虫を入れ、昆虫が出す羽音をマイクで集音し、波形観察装置で波形を表示させました。

 

その結果、クサカゲロウの羽音は、100Hzの波形に近く、キイロテントウとハエの羽音は50Hzの波形に近いことがわかりました。検証した3種類の昆虫について、仮説は間違っていないことがわかりました。

 

さらに電子顕微鏡によって、足の微細な構造を確認したところ、無数の聴毛が存在し、この器官を使って振動を感知していることが伺えました。

 

成体と幼体では反応が違う?!

昨年から継続的に実験を行っていく中で、実験の時期によって振動に対する反応が変わってくることがわかったので、それについても詳しく調べることとしました。

 

クサグモの生態としては、秋の終わりに産卵し、冬に卵から孵化して、春になると幼体が外に出て活動を始め、秋頃に成体となることが知られています。幼体は、成体に比べて赤っぽく、また成体の体長が15mmであるのに対し、幼体は5mmと小さいです。

 

昨年9~10月に実験したデータ、つまり成体を対象としたデータと、今年の4~5月に実験した幼体を対象としたデータを比較しました。

 

結果は表の通りです。600Hz以下では成体と同じように誘引されていましたが、700Hz以上については、成体よりも幼体で誘引される割合が高いことがわかりました。

  

一連の実験から、クサグモは周波数は50Hzから600Hzで誘引されることがわかり、これはクサグモが捕食する昆虫の羽音の周波数と一致しました。610Hz以上の周波数で逃避行動を取ったのは、天敵の襲来と感じ取った可能性があります。天敵の出す周波数は高く、成体はすでにそれを学習しているため逃避行動を取るのに対し、幼体はまだそれを学習していないので、誘引行動を見せるのではないかと考えました。

 

今後のさらなる研究として、クモの天敵が実際にどんな周波数の振動を出すのか、クモの成長に伴う振動に対する反応の変化はどうなるか、そして振動の周波数だけでなく大きさを変えると変えてどうなるかについても確かめていきたいと思います。

 

■研究を始めた理由・経緯は?

 

音を鳴らした音叉をクサグモの網に当てた際、クサグモが巣から出てくる動画を見て、クサグモがどのような周波数で誘引されるのか興味を持ったからです。

 

■今回の研究にかかった時間はどのくらい?

 

1日あたり2時間で1年です。研究は2017年に始めました。

 

■今回の研究で苦労したことは?

 

実験の始めに、振動が上手く網に伝わるような実験装置が見つからなかったことです。また、結局実験装置が見つからなかったので自作装置を開発したのですが、それを開発する際にも、どうしたら振動が網に伝わるのかを考えながら開発することに苦労しました。

 

■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?

 

実験の条件に合わせて2種類の自作装置を使って実験している点と、実験結果です。誘引される周波数と誘引されない周波数の境目付近の周波数に注目して欲しいです。

 

■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究

 

・「クモの巣図鑑」新海明 著、谷川明男 写真  (偕成社)

・「SEMの世界への招待」(日本電子株式会社)  

・「昆虫の発音の多様性」上宮健吉:「騒音制御」77-83、(日本騒音制御工学会)1989  

 

■今回の研究は今後も続けていきますか?

 

続けていきます。次は天敵が起こす周波数の特定、幼体が高周波に誘引された理由の測定、振動の大きさによる違いの特定の3つのことをしていきたいです。

 

■総文祭に参加して

 

様々な研究を見ることができ、とても楽しかったです。また、発表の仕方など、たくさん勉強になることがありました。

 

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