2018信州総文祭

「富山湾の宝石」ホタルイカの漁獲量予想を科学の目で徹底検証する!

【生物】富山県立富山中部高校 スーパーサイエンス部

左から 舘川翔一くん(3年)、大屋進之介くん(3年)、平井泰蔵くん(3年)
左から 舘川翔一くん(3年)、大屋進之介くん(3年)、平井泰蔵くん(3年)

■部員数 15人(うち1年生6人・2年生6人・3年生3人)

■答えてくれた人 平井泰蔵くん(3年)

 

漁獲量から解き明かせ!! ~ホタルイカ 神秘に満ちたその生態~

「天気がよく、雨が降らなかった日の翌日はよく獲れる」は本当か?

ホタルイカ、それは多くの人を魅了する神秘のイカで、「富山湾の宝石」とも言われていますが、生態はまだまだ謎に包まれています。

 

春に産卵のために海面に上がってきますが、個体数は日によって異なります。

 

ホタルイカは全国に分布しますが、富山湾のみで集団産卵が観測されています。ホタルイカは富山県の重要な特産品なので、漁獲量の予想ができれば、漁師さんの役に立ち、さらに魅力を発信できると考えました。

 

そこで、言い伝えを仮説にして検証しました。さらに、その立てた考察を実験で検証しました。

 

調査期間は2014年~2018年の3月24日~5月31日までの各69日間です。

 

手法としては、様々な外部環境のデータと漁師さんに直接訪ねた、その翌日の水橋漁港の漁獲量との関連を調べていきました。漁獲量に関して、定置網は毎日全て水揚げしているので、人為的な変動はありません。

 

まず検証したのが、「天気がよく、雨が降らなかった日の翌日によく獲れる」という言い伝えです。

 

グラフは、週の中で最も降水量が多い日と、それ以外の日を分けて漁獲量の平均を比較したものです。降水量が多いと、翌日の漁獲量が少ないことがわかります。この結果から、海水の浸透圧が下がるとホタルイカがその環境を嫌がり、産卵を避けるのではないかという仮説を立てました。この仮説を検討するため以下の実験を行いました。

 

図のように筒を半分に仕切って、それぞれに淡水と海水を入れ、それぞれにホタルイカを放ち、行動を観察します。ただしホタルイカは胴側にしか進めないため、内向きと外向きの個体を設定し、何度も実験を行いました。

 

 

海水の塩分濃度とホタルイカの産卵周期が重なって豊漁につながる

実験結果(移動距離)は、下のグラフのようになりました。淡水側のホタルイカは、海水が混ざり濃度が上がるに連れて動きが活発になりました。逆に海水側のホタルイカは淡水が混ざり濃度が下がるにつれて活動が弱くなりました。つまり、濃度の薄い海水が苦手であり、雨が降った後は海面に上がってこないと考えられます。

 

 

続いて、「前日からの降水量の変化と漁獲量の関係」を見ました。

 

ここから、前日より降水量が減った日に漁獲量が多いことがわかります。つまり、晴れが続いた日よりも、天気が回復した日によく獲れるということが言えます。

 

これには、ホタルイカが数回に分けて産卵することの、産卵周期と関係があるのではないかと考えました。

 

例えば、モデルとして、3つの個体群が3日ごとのサイクルで順番に産卵すると考えます。グループ1が産卵し、次の日にグループ2が、さらにその次の日にグループ3が産卵し、その次の日にグループ1が再び産卵するというモデルです。

 

ここで本来グループ1が産卵する日に雨が降り、次の日に晴れたとします。すると、雨の日に産卵するのを嫌がったグループ1と、元から産卵する予定だったグループ2が同時に産卵すると考えると、雨の日の翌日に漁獲量が増えることの説明がつきます。

 

この仮説の根拠として、ホタルイカの卵の形態が挙げられます。

 

ホタルイカを解剖したところ、産卵前の卵はばらつきが大きく、産卵後の卵はばらつきが少ないこと、そして産卵前の方が平均値も小さいことがわかりました。また、実験的に飼育した際に、各ホタルイカは産卵を一度だけ行いました。

 

これは、ホタルイカの飼育は難しいため、3、4日で死んでしまうためです。

 


 

以上のことから、ホタルイカは成熟した卵のみを産卵しており、産卵周期があると考えました。

 

潮の干満や月の満ち欠けには関係ないらしい

さらに、他の視点から3つの仮説を立てました。

 

一つ目は、「夜に満潮になる日に多く獲れる」という仮説です。2014、17年のみ仮説と一致しました。2015、16年は異なる結果となりました。富山湾は干満差が40cmほどと小さいため影響を及ぼしにくいと考えられます。

 

 

二つ目が、「月が出ていた日に多く獲れる」という仮説です。

 

月の満ち欠けをもとに漁獲量を見ると、確かに新月や満月の付近に多く獲れることがわかりました。

 

そこで、月の引力が作用するのではないかと考え、月の引力の影響を数値化して、漁獲量との関係を調べました。しかし、月齢と漁獲量の関係を調べたところ、月の引力がホタルイカに作用しているとは考え難いという結論になりました。

 

 

昼と夜の風向きが漁獲量を左右するのは…

三つ目の仮説は、「昼に北から、夜に南からの風が吹くときに多く獲れる」というものです。グラフから、統計的にはこれが正しいことがわかります。その仕組みについて考えました。

 

まず、夜の南風について考えます。定置網漁では、網の向きが南向きに設置されているため、南風によって産卵を終えたホタルイカがかかりやすくなります。

 

また、南風によって表層水が岸から沖に流されると、深層水が海岸沿いの浅瀬に上がってくるので、産卵に上がって来やすくなります。

 

続いて、昼の北風です。富山の河口は南から北に向いているので、沖からの風が吹くことで、浸透圧が低い海域となる範囲が狭まると考えられます。これにより、普段より、さらに岸側で産卵し、網にかかりやすくなると考えられます。

 


 

以上の結果を重回帰分析して漁獲量の予測を行いました。すると、相関係数0.46という、比較的高い相関が得られました。

 

 

ホタルイカの群れの移動を考慮して実際の漁獲量を比較すると

ここからさらに精度を上げるために、ホタルイカの群れの移動に着目しました。ホタルイカは、富山湾内を西から東に湾内を移動すると考えられています。他の漁港(新湊漁港、滑川漁港)の漁獲量のデータを集め、それぞれの日の漁獲量のデータをずらして他の漁港の漁獲量との相関係数を調べました。

 

その結果が下のグラフです。例えば、新湊漁港での漁獲量と、3日後の水橋漁港の漁獲量との相関係数が高く、水橋漁港での漁獲量と、1日後の滑川漁港での漁獲量との相関係数が高いことがわかりました。

 

 

さらに富山湾内での海流について調べたところ、新湊と水橋間を3日間、水橋滑川間を1日間でホタルイカが移動したと想定した時の移動速度と、海流の速度がほぼ一致し、ホタルイカの群れは海流とともに移動していると考えられました。

 

これをもとに予測し直すと、相関係数は0.52まで高めることができました。

 

 

以上から得られたホタルイカの生態から漁獲量の予測を行いました。実際の値と比べたグラフが下のとおりです。グラフのようにほぼ傾向が一致し、漁獲量が多くなる日をおおむね予測できるようになりました。

 

 

 

今後もさらに予測の精度を高めて漁師さんに使っていただけるようになるよう、研究を続けていきたいと思います。

 

■研究を始めた理由・経緯は?

 

部員の1人が、海の生物、特にホタルイカがとても好きで、中学生のときから気象条件とホタルイカの漁獲量との関係に興味を持っていたからです。

 

■今回の研究にかかった時間はどのくらい?

 

部員が中学2年のときに自由研究で行っていたものを深めたので、2014年に始まり、1日2時間半、1週間当たり5~6日活動し、4年間ほど続いています。

 

■今回の研究で苦労したことは?

 

 ホタルイカの生態は未だあまり解明されておらず、また、考察を立ててもそれを現場で検証することも難しいので、莫大な量のデータをもとに、できるだけ科学的根拠に基づいて考察を深めていくことに苦労しました。

 

■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?

 

内容が多く、なかなか理解してもらいにくい研究ですが、興味をもってもらうために、キャッチーなスライドにしたり、なるべく端的な表現を用いたりすることで伝わりやすくしようとしました。

 

■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究

 

・「気象庁HP」  http://www.jma.go.jp/jma/index.html

・「富山県水産情報システム」 http://www.fish.pref.toyama.jp/

・「ホタルイカの素顔」奥谷喬司(東海大学出版会)

・「ホタルイカ 不思議の海の妖精たち」山本 勝博 (著)、 稲村 修 (監修)(桂書房)

その他、富山県水産研究所の小塚晃さんの論文のもとになった研究データや、魚津水族館の館長の稲村修さんが寄稿された文、甲南大学名誉教授の道之前允直先生の論文など、多数参考にさせていただきました。

 

■今回の研究は今後も続けていきますか?

 

続けると思います。この研究のゴールは漁獲量を予測することですが、残念ながらまだ十分に正確な予測には至っていません。もっと精度を高めるために研究を続け、漁師さんたちが、より効率的にホタルイカが獲れる未来に貢献したいと考えています。

 

 

■ふだんの活動では何をしていますか?

 

・学年ごとにテーマを決めて研究を行っています。それぞれテーマは違うけれど、皆でアドバイスを出し合ったり協力したりしてすすめています。

・生物室にいる魚やカメの世話もしています。

 

■総文祭に参加して

 

全国の高校生から刺激を受け、また、交流を通して科学への探究心を共有できる素晴らしい大会でした。大会開催に携わった皆様、ありがとうございました。

 

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