2018信州総文祭

テーマ研究のネタ探し中に偶然気が付いた、輪ゴム飛ばしの「反り上がる」軌道。その理由に迫る!

【物理】静岡県立科学技術高校 自然科学部

左から 船津遥紀くん、山本孝也くん、海野瑛太くん、山田太洋くん(全員3年)
左から 船津遥紀くん、山本孝也くん、海野瑛太くん、山田太洋くん(全員3年)

■部員数 22人(うち1年生10人・2年生4人・3年生8人)

■答えてくれた人 山本孝也くん(3年)

 

輪ゴム飛ばしにおけるホップアップの研究

輪ゴム飛ばしで「輪ゴムが浮き上がる」という不思議

 

「輪ゴム飛ばし」をしたことのある方は多いでしょう。片手を拳銃に見立て、輪ゴムを人差し指から飛ばす遊びです。この輪ゴム飛ばしについて、私たちは不思議なことに気づきました。輪ゴムの軌道が浮き上がることがあるのです。これを「ホップアップ」と呼びます。

 

私たちは「なぜ輪ゴムが浮き上がるのだろう」という疑問を持ちました。

 

ホップアップをうまく飛ばすには

 

輪ゴム飛ばしをするとき、皆さんはまずゴムを小指にかけ、次に引き伸ばし、上側から親指の付け根を通って人差し指の先にゴムをかけると思います。

 

このときのゴムの張り具合で、飛び方も変わります。そこで、私たちは輪ゴム飛ばしをする実験装置を製作し、様々な張力の条件下で輪ゴムの飛び方を分析しました。

 

 

 

下図のように、輪ゴムを小指から引き伸ばすときの「長さAD」と、人差し指に輪ゴムを掛ける前に延長する「長さL」を変えながら実験を行いました。

 

高校で習うバネの「フックの法則」を輪ゴムに適用します。このことで、輪ゴムの各所の張力を求めることができます。

 

ポップアップ実験の実践

 

私たちは、次の条件で輪ゴムを発射し、軌道を撮影しました。

 

【条件】

■小指から引き伸ばすときの長さ「AD=15cm、20cm、25cm、30cm」

■人差し指に輪ゴムを掛ける前に延長する長さ「Lの値」を変えながら発射

以上の方法で得た映像を0.02秒ごとにコマ送りし、輪ゴムの位置を写真に記入します。それを方眼用紙に重ねて、輪ゴムの正確な位置を測定しました。

 

 

結果、輪ゴムの飛び方には4種類のパターンがあることがわかりました。

 

Ⅰ型:上昇せずに下がり続ける

Ⅱ型:一定の高さで飛び続ける

Ⅲ型:一度下がってから今度は上昇する

Ⅳ型:下がらずに上昇する

 

Ⅲ型とⅣ型をホップアップとみなしました。Ⅱ型でも、下向きの重力が輪ゴムに働いているのにも関わらず、下がらずにまっすぐ飛んでいるということは、何らかの上向きの力が働いているということを意味します。

 

 

同じADとLの値でも様々な飛び方をすることがありましたが、Lの値が大きいほどホップアップが起こりやすいということを発見しました。 

 

Lが長いということは、図の張力T2が大きくなり、T3が小さくなるということです。

 

私たちは、T2とT3の比率とホップアップに関係があるのではないかと考えました。そこで、次のように点数化しました。

 

■Ⅱ型の軌道は0.5ポイント

■Ⅲ・Ⅳ型の軌道は1ポイント

 

そして点数化されたポップアップの起こりやすさをもとに、試行回数(10回)で割った値を「ホップアップ率」と呼ぶことにしました。

 

横軸に張力の比率T2/T3をとり、縦軸にホップアップ率をとってデータを整理すると、下図のようになります。

 

見ると、張力の比率が2.4~2.8の範囲でホップアップ率が最も高くなることがわかります。例えば、AD=20cm、L=8.5cmのときにはホップアップがよく起こりましたが、張力の比率はこの範囲に入ります。 

 

ホップアップの起こりやすさは、発射装置の折り返し角(左の図の∠ABC)によっても異なります。私たちはAD=20cm,L=8.5cmの条件下で折り返し角を変化させながら輪ゴムを発射し、軌道をⅠ型からⅣ型に分類しました。

 

結果は下図の通りです。ホップアップが安定して起こるのは、折り返し角が90°以上のときだとわかります。

 

なぜ輪ゴムは浮き上がるのか? 仮説(1)「マグナス効果」

 

さて、どうして輪ゴムは浮き上がるのでしょうか。私たちは「マグナス効果」という現象に注目しました。

 

野球の試合で投げられる「ストレート」という球があります。通常、ボールを投げれば重力によって軌道は下に曲がっていきますが、「ストレート」という球では、ボールは下に落ちることはほとんどなく、まっすぐ飛びます。ピッチャーはストレートを投げるとき、ボールを後ろ向きに回転させているのです。ボールが後ろ向きに回転しながら空気中を進むと、ボールに上向きの力が働くということが物理学では知られています。これを「マグナス効果」と呼びます。

 

私たちは、最初この「マグナス効果」がホップアップの原因だと考えました。つまり、輪ゴムが飛びながら回転することでマグナス効果の力が働き、その力で輪ゴムが浮き上がったのではないかと考えたのです。では、マグナス効果の力が輪ゴムに働いているとしたら、どれだけの大きさの力がどんな向きに働いているのでしょうか。私たちはまず、飛行している輪ゴムの速度がどのように変化しているのかを調べました。

 

結果はこの通りです。 

 

水平方向の速度(輪ゴムが前に進む速度)は減っていきますが、鉛直方向の速度(輪ゴムが上下に動く速度)は上向きにどんどん増えていきます。

 

グラフを分析してみると、1秒間あたり28m、速度が増えるペースの増加率でした。この増加率を「加速度」と呼びます。この「加速度」から輪ゴムに働いている力を知ることができます。

 

「輪ゴムに働いている力」=「輪ゴムの質量」×「輪ゴムの加速度」

(力の向きと加速度の向きは必ず同じ向きになる)という運動方程式が成り立つからです。

 

グラフから、加速度の向きは上向きでした。この場合、輪ゴムに働いている力も上向きだということになります。「ストレート」は後ろ向きに回転する球だったように、マグナス効果の力が上向きに働くためには、輪ゴムは後ろ向きに回転しているはずです。

 

ところが、飛行している輪ゴムの映像を撮影してみると、私たちの予想に反し、輪ゴムは前向きに回転していたのです。つまり、マグナス効果では輪ゴムが浮き上がることを説明できませんでした。ホップアップには別の原因があると考えました。

 

なぜ輪ゴムは浮き上がるのか? 仮説(2)「飛行機の翼」

 

次に私たちが注目したのは、輪ゴムの「形」です。

 

例えば、AD=20cm,L=0cmのとき、張力の比率は1になり、うまくホップアップが起こりません。このとき、飛んでいる輪ゴムは潰れた形で回転しています。 

一方、AD=20cm,L=8cmのときにはホップアップがよく起こります。

 

このとき、輪ゴムは楕円形で、斜め上向きの姿勢を保ったまま飛んでいることがわかります。

私たちは、この輪ゴムの形と姿勢こそが、輪ゴムが上に浮かぶ原因だと考えました。 

 

さて、このことを確認するために、飛行機の翼について考えました。

 

飛行機は、どうして空に浮かぶことができるのでしょうか。それは、平べったい翼が斜め上に向き、前方からの空気の流れを受けているからです。ホップアップが起こるのもこれと同じ原理で、斜め上に向いた楕円形の輪ゴムに前方から空気が当たるからではないかと考えました。

 

 

そこで、飛行機の翼に働く揚力(上向きの力)を求める式を用いて、輪ゴムに作用する力を計算してみると、それは5.9mN(1mNは1Nの千分の一)でした。

 

また、輪ゴムが飛んでいるときの上向きの加速度を用いて、さきほどの「運動方程式」から輪ゴムに働く力を計算すると、それは6.6mNでした。とても近い値が得られたといえます。

 

つまり、飛行機の翼に働く力から、ホップアップを説明できたというわけです。

 

成果と今後の課題

 

今回、ポップアップにおけるマグナス効果の否定という結論を得たことは、貴重な発見でした。張力の比率が大きいときにホップアップが起こりやすいことは、上下の張力の違いによって生まれる輪ゴムの回転が、輪ゴムの形を安定させたと考えられます。

 

しかし、飛行機の翼が受ける力を求める式が、輪ゴムに対してもそのまま使えるかどうかについては、まだ検討の余地があると考えます。今後はそうした点についても考察を深めていきたいと思います。

 

■研究を始めた理由・経緯は?

 

私たちは、1年の12月にテーマ発表を行いました。しかし、当日になっても我々の班はテーマが決まっていませんでした。そこで研究のネタになりそうなものはないかと、部室にあるものを見ていました。そのときに輪ゴムを見つけました。最初はよく飛ぶ輪ゴムというテーマにしようと思いましたが実現せず、テーマを考え直すことになりました。そのとき、遊び感覚で輪ゴムを飛ばしていると、輪ゴムの軌道が反り上がることに気づきました。

 

このことについてさらに調べたところ先行研究はなく、参考にできるようなサイトもほとんどありませんでした。しかし、唯一見つかった相楽製作所のホームページに、輪ゴムがホップアップするゴム鉄砲があり、これには前回転で飛び出すとありました。マグナス効果を踏まえると、前回転では下向きに揚力が働いてしまいます。しかし、輪ゴムは前回転でホップアップするのです。この矛盾をきっかけに、輪ゴムのホップアップの原理を解明しようと考えました。

 

■今回の研究にかかった時間はどのくらい?

 

私たちは、部活動の時間を中心に研究をしています。平日は毎日で1日に約2~3時間、多い時で1日に4時間です。また、たまに土曜日にも研究をすることもあります。よって、多い時には1週間で20時間の研究活動をしています。3年次には放課後補講があるため、補講の後、完全下校時間になるまでの1時間を利用して研究しました。研究は1年生の12月から3年生の7月までの1年8か月行ないました。

 

■今回の研究で苦労したことは?

 

撮ったデータを座標化することに苦労しました。数多くの輪ゴムを飛ばし、手作業で座標化するので、処理をする量がとてつもなく多くなりました。また、飛んでいる輪ゴムはとても速く、小さいため撮影した映像の解析にも手間を取りました。

 

■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?

 

輪ゴム飛ばしの装置を作る際、輪ゴムのかかるところをなるべく人の手の大きさに合わせるようにしました。また、装置は折り返しの角度を調節できるようにしたため、様々な角度で飛ばせるようにしました。他にも、ライトを使うことで撮りにくい飛び出しの部分も撮影できるようにしたり、輪ゴムの回転の向きを調べるために落ちて回転が弱くなるところを撮るなど、撮影には多くの工夫をしました。

 

■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究

 

「高校数学でわかる流体力学 ベルヌーイの定理から翼に働く揚力まで」 竹内淳(講談社)

「トコトンやさしい流体力学の本」 久保田浪之介 (日刊工業新聞社)

「流れのふしぎ―遊んでわかる流体力学のABC」 日本機械学会編、石綿良三・根本光正著 (講談社)

「工学の基礎 流体力学」 藤川重雄・武田靖・矢野猛・村井祐一 (培風館)

「相楽製作所」のホームページ https;//sagara-works.jp

  

■今回の研究は今後も続けていきますか?

 

もちろん続けたいと思います。私たちは今後の課題として、翼の揚力を適応させてもよいのかさらに検証したいと考えています。他にも、輪ゴムの軌道を決定する別の要因を探るなど追求したいことはたくさんあります。また、高校生である以上、限られた機材、限られた時間で研究をしなければいけません。そのため、実験の中で妥協せざるを得ないことは少なくともあります。そのようなことを見直すという意味でも継続して研究する価値はあると思います。また、私たちは、この1年半くらいのなかで、結果が大きく変わったことが何度かあります。今の結論が正しいかどうかは誰にもわかりません。だからこそ、自分たちで議論しあい、より説得力のある結論を導き出せると思います。

 

■ふだんの活動では何をしていますか?

 

ふだんは研究活動をしていますが、1年を通して不定期に天体観測会をしています。また校内の文化祭や、静岡科学館「る・く・る」で夏に開催される科学の祭典に出展し、子どもたちに科学工作などを通して、科学の面白さを伝える活動をしています。そのほかは、科学に関するイベントに参加しています。

 

■総文祭に参加して

 

自然科学部門では、開校以来初めてとなる総文祭出場でした。全国大会に向けて自分たちの研究をより良いものにするため、考察の見直し、実験のデータの再確認などと、大会前の部活動では大変な日々が続きました。全国大会の舞台で自分たちが行ってきた研究が、優秀賞という形で表彰されたことはとても嬉しかったです。また、全国の高校のレベルの高い研究発表を見られたことも、いい経験になりました。自分の伝えたいことを上手に伝えるにはどうしたらいいのかということを学ぶことができました。初めて出場した総文祭は、よい学びができ、良い結果を残し、有終の美を飾れたすばらしい体験でした。

 

※静岡科学技術高校の発表は、物理部門の優秀賞を受賞しました。

 

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