水が生み出す不思議な「円」のメカニズムを、新たな視点から究明!

【物理】島根県立島根中央高校 自然科学部

■部員数 2人(うち1年生1人・3年生1人)

■答えてくれた人 岩 佳奈子さん(3年)

 

跳水の研究

台所の蛇口をひねってみてください。流し台の上で、水の流れが円形に広がっていくはずです。その水の流れをよく観察してみると、不思議なことに気づきます。水の落下地点を中心に、半径数センチメートルほどの円形の盛り上がりができているのです。私たちは、この円形の部分を「水円」と名付けました。

 

どうして、「水円」は生まれるのでしょうか。「水円」の大きさは、どのようにして決まるのでしょうか。こうした疑問を持ち、私たちは研究を始めました。

 

水円の正体は「跳水」?

 

皆さんはダムの「放流」を見たことがありますか。ダムでは、貯水池の中にためこんだ水を滝のように流し、河川に流れる水の量が増えすぎたり減りすぎたりしないようにコントロールしています。しかし、高所から勢いよく流れてくる水をそのまま川に流してしまっては大変です。川底が激しい水流で削られてしまい、流域の環境破壊につながるでしょう。そこで、多くのダムでは、落下してきた水をしばらくコンクリートでできた水平な道(水叩き)に流し、その間に流れの勢いをおだやかにしてゆきます。

 

このとき、速い流れが遅い流れに変わるところで、水の高さが突然盛り上がる場所があります。この現象を「跳水」と呼びます。

 

昨年度の総文祭で「水円」に関する研究発表をしたとろ、「水円」は跳水現象なのではないか、という助言を参加者からいただいたのです。そこで、本当に水円は「跳水」で説明がつくのかどうか、実験によって確かめることにしました。

 

水の速さの測り方

図のように、水道の蛇口の25cm下の場所に透明のアクリル板を水平に設置し、水を流すことで「水円」を作ります。「跳水」という現象では、水の流れが速い流れから遅い流れに切り替わるということがポイントでした。私たちはアクリル板の上を流れる水の速さを測りたいのですが、どのようにすれば「水の流れ」の速さを計算できるのかが問題でした。

 

注目したのは、水道から流れ出てくる1秒あたりの水の量です。私たちはまずアクリル板上に、水が落ちる点を中心に直径6cm,9cm,12cm,15cmの同心円を書き込ました。次に、蛇口をひねって水を流し、水円の直径が6cm,9cm,12cm,15cmになるように水量を調節しました。

 

そして、蛇口から水を出し続けながら、水を300mlビーカーに受け止め、ビーカーが水で溢れるまでの時間を測りました。

 

何回か予備実験を行ったところ、直径9cm,12cmの条件下では正確なデータがとりやすいことがわかったので、この二つの条件の下で同じ実験を100回行い、測定した時間から、1秒あたりに水道から流れた水の量(ml)を計算しました。

 

結果は図の通りです。また、私たちは、水円の内側と外側では水の深さが異なるということに注目し、水深を定規で測ったところ、深さはそれぞれ約0.5mmと3.0mm程度でした。

 

以上のデータを使えば、水の流れる速さを計算することができます。この図は、水が落下点から円状に拡がっていく様子を表します。例えば、直径9cmの水円を考えてみましょう。水円の内側の水深は約0.5mmでしたから、左の円柱の側面の面積は90mm(直径)×3.14(円周率)×0.5mm(深さ)=141.4mm2と計算できます。

 

この面積を、1秒間に30.842ml(=30842mm3)の水が通過するのですから、その速さは30842mm3/秒÷141.4mm2=218.3mm/秒とわかります。これは水円「内」の速度でしたが、水円「外」では水の深さが0.5mmから3.0mmに、一気に6倍まで増えますから、逆に速さは6分の1、つまり36.3mm/秒になります。

 

「跳水」の数式に当てはめて検証

物理学では、この跳水の高さを理論的に計算することができます。それは、この図の数式が成り立つことが知られているからです。

 

私たちは、今までの実験で得られたデータを数式に当てはめ、「=」の右側と左側の値が本当に一致しているかどうか、計算で確かめることにしました。もしも、この数式が実際のデータでも成り立っているとしたら、水円のできる原因は跳水現象であったという、一つの証拠になるでしょう。

 

結果は図の通りです。左辺の値が6なのに対して、右辺の値は4前後で、右辺の値の方が小さくなっています。

 

しかし、これは「跳水」現象が水円の原因であるという説を否定したことにはなりません。なぜなら、測定には様々な誤差が含まれるからです。

 

今回の実験では、水円の深さを定規で正確に測定するのは難しかったので、右辺の値(深さの比)は大きな誤差を含んでいると言えます。そのような誤差を考えに入れると、今回の結果だけから跳水現象が起こったかどうかを明確に決めるのは難しいものの、可能性はあると言えるでしょう。今後はより正確な測定を目指して工夫をしていくことで、研究を深めたいと思います。

 

■研究を始めた理由・経緯は?

 

もともと水円の研究は先輩を引き継ぎました。跳水が応用できるのではないかというアドバイスをいただき、跳水について調べた上で研究テーマにすることにしました。

 

■今回の研究にかかった時間はどのくらい?

 

水円の研究は平成27年度から。跳水現象の証明をテーマにしたのは昨年夏からです。

1週間あたり3時間で約10か月行いました。

 

■今回の研究で苦労したことは?

 

水円の水深を測ることです。

 

■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?

 

「水」という、透明で形もないものを研究対象にしたところです。

 

■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究

 

「水理学の基礎」有田正光 (東京電機大学出版局)

「意味がわかる統計学」石井俊全(ペレ出版)

「『流れ』と『波』のシミュレーション」酒井幸市(工学社)

「落下する水柱が作る円の研究Part2」島根中央高校自然科学部(みやぎ総文自然科学部門論文集)

 

■今回の研究は今後も続けていきますか?

 

私は引退しましたが、後輩には今回できなかった水深の測定を工夫してやってほしいです。

 

■ふだんの活動では何をしていますか?

 

この研究以外の活動はありません。

 

■総文祭に参加して

 

私はずっと一人で活動してきたので、苦労したことも多かったですが、本番では悔いのない発表ができて本当によかったと思っています。全国から集まったレベルの高い研究の中に、自分も加わっていることがとても光栄でした。たくさんの助言をくださった先生方、本当にありがとうございました。

 

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