2018信州総文祭

「牛乳で作ったスプーンでアイスクリームを食べてみたい!」から始まった実験

【ポスター/生物】智辯学園和歌山高校(和歌山県) 科学部

左から 森綸太郎くん(2年)、秦まりなさん(2年)
左から 森綸太郎くん(2年)、秦まりなさん(2年)

■部員数 86人(うち1年生30人・2年生24人・3年生32人)

■答えてくれた人 秦まりなさん(2年)

 

牛乳を用いた生分解性プラスチックの研究

カッテージチーズが固まったら、アイスクリームスプーンに?!

 

牛乳にレモン汁を入れてよく混ぜると、カッテージチーズができます。ある日、それをたまたま放置していたら、乾燥して硬くなってしまいました。その形が棒状で、アイスクリームのスプーンの形に見えたことから、この棒でアイスクリームを食べられるのではないかと考えました。しかしこの時はもろく崩れてしまったため、アイスクリームを食べることはできませんでした。この経験から、同じ製法でより丈夫なものを作り、アイスクリームを食べてみたいと考えて実験を始めました。

 

実はこのように牛乳と酸を混ぜて固めたものはカゼインプラスチックと呼ばれ、土中で分解されるために環境にやさしいとされています。

 

まずは予備実験として、酸と加熱温度を様々な条件に設定し、最も効率よくカゼインプラスチックを生成できる条件を調べました。酸は、酢酸よりも安価な塩酸が代用できないかと考えて、酢酸と塩酸で比較してみました。その結果、酢酸と塩酸ではカゼインプラスチックの収率には差はありませんでしたが、塩酸の場合はろ過の際に目詰まりを起こし、ろ過の時間がかかることから酸は酢酸を使うことにしました。また、酢酸のpH4.4付近に設定し、加熱温度を50度にすることで、効率よくカゼインプラスチックを得られることがわかりました。

 

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次に、生分解性が実際に起きているのかを調べるため、カゼインプラスチックを、微生物が多く生息すると考えられる腐葉土の中に放置しました。

 

すると徐々にカビが付着し、2週間経つともろくなり、4週間以上経つと触れると崩れるようになりました。このことから、カゼインプラスチックが分解されていることが確認されました。

 

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次に強度実験を行いました。

 

予備実験で、カゼインを乾燥させるためにキッチンペーパーを用いた際に、キッチンペーパーに触れていた部分が触れていない部分より固くなったことから、繊維を混ぜたらより丈夫になるという仮説を得ました。

 

そこで、カゼインにソーダパルプを一定量ずつ混ぜ、強度を調べました。ソーダパルプとは木材を水酸化ナトリウム溶液中で加圧・加熱し、繊維質であるリグニンなどを溶解分離したものです。ここでは、木材として私達の学校で最も多い樹木である藤の落枝を用いました。

 

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実験では、繊維を含む総重量が10gとなるようにカゼインを成形・乾燥させました。また、キッチンペーパーに含まれる繊維が漂白されていることから、漂白処理を行ったサンプルも用意しました。繊維重量が2g・4g・6g・8g(非漂白処理)、および、2g・4g(漂白処理済み)のサンプルを用意しました。

 

これらの耐久重量を、おもりをぶら下げる形で測定します。この際、サンプルがしなるという現象が見られたことから、サンプルの弾性も同時に調べました。

 

その結果は以下の通りです。

 

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この結果から、繊維の量が多いほど耐久重量が増加するとわかりました。また、漂白処理済のものは非漂白処理のものより耐久重量がばらつき、最大値は漂白処理済のものの方が大きいことがわかりました。このばらつきは、繊維をよく混ぜずに漂白したことが原因と考えられます。

 

また、しなりの観察から、漂白処理されて繊維がほぐれている漂白処理済のサンプルの方が、強度が高くなることがわかりました。

 

また、この実験ではサンプルの作成にまだ慣れておらず、形のばらつきや表面のひび割れが見られました。

 

そこでより強度の高いカゼインプラスチックを作るために、漂白処理済の繊維を用い、0g・2g・4g・6g・8gの繊維を混ぜて強度の比較を行いました。前の実験の反省を踏まえて、繊維をよく混ぜたうえで、サンプル作成の際にひび割れなどのばらつきの原因がなるべく発生しないようにしました。その結果が下のグラフです。このように、実験誤差が抑えられていることがわかります。

 

 

また、混入繊維量6gのサンプルの方が8gのサンプルよりも耐久重量が大きく、この間に適切な混合割合が存在すると考えられます。

 

繊維を含まないカゼインプラスチックは、繊維を含むものや市販のプラスチックスプーンと異なり、弾性が見られず、力を加えると曲がったままの状態になりました。このことから、繊維がカゼインプラスチックの弾性に影響を与えていると考えられます。

 

最後に、市販のプラスチックスプーンで強度実験を行ったところ、最大6000gの耐久重量があり、今回のサンプルではこの強度に及びませんでした。しかし、当初の目的である、アイスクリームをすくって食べるということは、達成できました。

 

今後は、実用化に向けてより均一な加圧や成形、他製品への応用に力を入れたいと考えています。

 

■研究を始めた理由・経緯は?

 

家でカッテージチーズを作った時、放置して硬くなっていたものの形が偶然アイスクリームスプーンに似ていたため、「もし本当にアイスクリームが食べられたら面白い」と思って、より強いチーズ(=カゼインプラスチック)作りをしてみようと思って実験を始めました。

 

■今回の研究にかかった時間はどのくらい?

 

約1年です。

 

■今回の研究で苦労したことは?

 

サンプルに均等に負荷をかけるための装置の開発と、サンプルに繊維を均一に混入することです。

 

■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?

 

・「繊維混入」という、まぜものをするという発想

・しなりの観察、またその計測とデータ

 

■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究

 

・「生分解性プラスチックの研究PartⅡ」大澤知恩(第7回「科学の芽」賞受賞作品集/筑波大学「科学の芽」賞実行委員会)

https://www.tsukuba.ac.jp/community/kagakunome/pdf/12/jrhigh/3.pdf

・「トコトンやさしい生分解性プラスチックの本」生分解性プラスチック研究会(日刊工業新聞社)

・「雑草で紙をつくろう」小川誠

http://www.museum.tokushima-ec.ed.jp/ogawa/kami/kami01.htm

 

■今回の研究は今後も続けていきますか?

 

実用化に向け、機械化された工程での均一なサンプル作成、均一な強度測定また、スプーン以外の日用品作成、使用を考えています。

 

■ふだんの活動では何をしていますか?

 

学年を越えた交流や実験、勉強会やコンクール準備などをしています。

 

■総文祭に参加して

 

クラブ史上初めての県内トップ通過ということで、とても意気込んで準備・発表に挑んだのですが、苦しい結果となり、とても悔しいです。私たち高2の背中を見て力をつけてきてくれた後輩たちが、次は私たちを超えていってくれることを願っています。

 

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