2018信州総文祭

文化祭の展示で作ったCDエアホッケーがうまく滑らない! ことから始まった研究

【ポスター/物理】滋賀県立虎姫高校 科学探究部

左から 丸山孝浩くん(2年)、小川健太くん(3年)、矢野志織さん(3年)、角田優くん(3年)
左から 丸山孝浩くん(2年)、小川健太くん(3年)、矢野志織さん(3年)、角田優くん(3年)

■部員数 8人(うち1年生2人・2年生 人・3年生3人)

■答えてくれた人 小川健太くん(3年)

 

滑走しやすいCDの条件

私たちは学園祭の展示企画で、「CD滑走体」のエアホッケーを作ってみました。ネットや書籍で紹介されている典型的なCD滑走体は、レーベル面の中央にテープを貼って穴をふさぎ、記録面を下にして滑走させています。しかし、実際にやってみると、レーベル面やテープを貼った面を下にした方が滑りやすくなったり、CDのメーカーによって滑りやすさが違ったりする、という現象が見られました。そこで私たちは、滑走しやすいCDの条件について研究することにしました。

 

記録面を下にすると、リング状の突起のためにかえって滑らない

 

まず予備実験として、テープの有無と下にする面の影響について調べました。図のような6つの条件のCDを用意して、CDに一定の力を加えた時の水平面上の滑走距離を測定しました。 

 

 

実験には、Maxell社、SONY社、磁気研究所社のCDを用いました。それぞれについて滑走距離をまとめた結果が、以下のグラフです。

 

まず、Maxell社のCDでレーベル面を下にした場合の数値を見ると、ほかの場合よりも明らかに滑走距離が大きいことから、レーベル面を下にするほうが滑走しやすいことがわかります。記録面を下にした場合、記録面にあるリング状の突起が摩擦抵抗を生んで、滑走しにくくなっていると考えられます。

 

また、テープを貼ることによる効果はあまりないことがわかりました。

 

滑走しやすさに摩擦は関係ない!?

 

この結果をもとに本実験を行いました。

 

まず、摩擦と滑走しやすさの間に関係があるのではと予想し、検証しました。はじめに、ばねばかりを用いて各CDのレーベル面と机との間の静止摩擦係数を求めました。

 

次に滑走のしやすさについては、これを空気補給力と空気保持力に分けることができるのではないかと考えました。空気補給力とは前方からの空気を取り込む力のことを指しますが、測定は困難でした。空気保持力はCDが机との間に空気を挟み込む力で、これは鉛直落下後の微動時間によって測定が可能です。

 

この実験の滑走のしやすさの測定には、予備実験と同じ方法を用いました。

 

 

実験の結果をまとめたのが以下のグラフです。静止摩擦係数と、滑走距離および滑走時間について相関を見ると、相関係数が非常に小さいことがわかりました。よって、滑走のしやすさに、摩擦力が関係しているとは言えませんでした。 

面の湾曲度合いは平らに近い方が滑走しやすい

 

次に、CDの面の湾曲が滑走のしやすさに影響を与えているのではないかと考え、その関係を調べました。面の湾曲の程度は、以下のように測定しました。

 

(1)レーザー光をCDのレーベル面に反射させて、スクリーンに像を写す

(2)CDをスクリーンに近づけていく

(3)スクリーン上の像の移動距離(ΔL)を測定する

 

このときの、像の移動と湾曲の関係は下図のとおりになります。下方向への移動を正とします。 

 

9種類のCDを用いて、湾曲の程度と滑走しやすさを測定しました。その結果が下のグラフです。

 

まず、ΔLが全て正であることから、使用したCDのレーベル面は全て凹面であったことがわかります。

 

また、湾曲の程度と、滑走距離および滑走時間との相関は、どちらも負の値を示しました。このことから、面の湾曲が平らに近いほど滑走しやすいことがわかりました。

 

しかし、A社とF社が同程度の湾曲であったにもかかわらず滑走距離が大きく異なったことから、他にも要因があるのではないかと考えました。 

そこで、滑走面の粗さが滑走しやすさと関係するのではないかという仮説を立てました。

 

CDでは湾曲の程度を揃えることが難しいために、アクリル板を用いて実験を行いました。

 

まず、6cm四方のアクリル板44枚を紙やすり(粒度は#40と#400)で研磨し、湾曲の程度を示すΔLを2方向で測定しました。次に、ΔLの値が同程度で、かつ粒度の異なる紙やすりで研磨されたアクリル板のペアを作成しました。 

 

これらのアクリル板を用いて滑走距離を測定したところ、結果は下のグラフのようになりました。グラフからわかるように、面が粗い方が滑走距離が長い傾向があることから、滑走のしやすさに面の粗さが関係している可能性があることがわかりました。これは、面が粗いほどアクリル板と装置との間に空気を含みやすいためと考えられます。 

一連の実験を通して、滑走しやすいCDの条件は

(1)レーベル面を下にする

(2)面が平らに近い

(3)面が粗い

であることがわかりました。

 

今後は、CD自体の面の粗さが、実験で作ったどのアクリル板の粗さと対応するか検証していきたいと思います。

 

■研究を始めた理由・経緯は?

 

学園祭の展示企画で、CDエアホッケーを制作した際、参考文献をもとに作ったにもかかわらず、まったく滑らないCD滑走体があったため、「滑走しやすい」CDとは何なのかについて研究を始めました。

 

■今回の研究にかかった時間はどのくらい?

 

1日あたり3時間の活動を6か月ほど行いました。

 

■今回の研究で苦労したことは?

 

CDの湾曲の程度をどのように測定するか、思案し続けました。

 

■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?

 

ポスターの実験パートごとに色を変えることで、研究全体の流れをわかりやすくした点です。

 

■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究

 

『気体潤滑とは』https://www.juntsu.co.jp/qa/qa1506.php、ジュンツウネット21

 

■今回の研究は今後も続けていきますか?

 

CD滑走体の研究はひとまずここまでにしようと考えています。次は衝撃吸収体についての研究を計画しています。

 

■ふだんの活動では何をしていますか?

 

普段は、カスミサンショウウオの調査や保護飼育をしています。他には「科学の祭典」という、子どもたちに科学の面白さを体験してもらうイベントに参加したりしています。

 

■総文祭に参加して

 

全国のハイレベルな研究発表を聞いて、まだまだ自分たちの研究にも発展の余地があると感じました。それと同時に、各県の高校生たちと幅広い交流ができたことはとてもすばらしい体験でした!!

 

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