2018信州総文祭

古代から人々を魅了した七宝焼きの鮮やかな発色を高校化学から分析!

【ポスター/化学】長野県屋代高校 理化班

■部員数 7人(1年生2人・2年生3人・3年生2人)

■答えてくれた人 宮本竜也くん(3年)

 

七宝焼きの化学

七宝焼きとは金属の上にガラス質の釉薬を焼き付けて装飾する技法で、ガラスに金属化合物を溶け込ませることで金属化合物ごとの特有の色が付きます。日本では古墳時代末期から製作されてきました。私たちは、七宝焼きの製作にチャレンジし、釉薬の調整方法、釉薬の焼成温度、各金属化合物の発色と最適温度の検討を行いました。

 

焼成の最適温度と金属イオンの濃度を解明する

 

まずは釉薬の調製を行いました。釉薬の材料の石英、四酸化三鉛、硝酸カリウムの三つを文献をもとに6:6:5の割合で混合して磁製るつぼの中で加熱した後粉砕したものを、これ以降の実験の釉薬として用いました。

 

次に、焼成温度を検討するために、一定濃度の金属化合物を加えた釉薬を素地となる銅板に盛り付け、温度を変えて電気炉で焼成しました。七宝焼きの焼成温度は、一般には750℃~850℃とされていますが、実験の結果、低温ほど発色がよく、銅板との反応による影響が小さくなることがわかりました。このことから、以降の実験では焼成温度を750℃に設定しました。

 

 

次に、七宝焼きに目的の色を発色させるために、8種類の金属化合物について発色を調べました。その際、釉薬に加える金属化合物の濃度を変えて比較し、最も発色の良い濃度を調べました。この時は、金属素地との反応をなくすため、磁製るつぼ蓋に釉薬を盛り付けて焼成しました。 

焼成方法の違いによる発色の違いと発色のしくみをまとめたのが下図になります。

 

赤色を発色させたい!!

 

ここで私たちは、赤色の発色をする金属化合物がないことに気づきました。通常の赤色釉薬には金やセレン、カドミウムといった高価な金属が用いられます。私たちは、より安価な金属化合物による赤色釉薬の実現を目指しました。

 

そこで注目したのが酸化銅(I)です。焼成温度の比較実験の際に、1000℃で焼成した銅板の断面に、酸化銅(I)の赤色結晶が一部見られたことから、酸化銅(I)を用いた赤色釉薬を考えました。

 

銅の酸化物には2種類あり、酸化銅(I)と酸化銅(II)です。常温では酸化銅(II)が安定です。ガラス中では(I)が赤、(II)が青になります。 

 

しかし、赤色の酸化銅(I)を加えた釉薬を、今までと同様に焼成したところ、酸化されて2価の銅の状態となり、青く発色しました。

 

赤色が発色しない原因は焼成によって酸化が進むため?

 

釉薬中で酸化銅(I)が酸化されてしまったため、酸化銅(I)が生成した銅の酸化の実験と比較して、酸化銅(I)が生成する条件を探りました。

 

はじめに、各辺1cmの立方体の銅を加熱しました。すると、表面に0.4mm程度の酸化層ができました。空気と触れている最表面には主に黒色の酸化銅(II)が、その下層には赤色の酸化銅(I)が生じました。

 

次に、酸化層をより厚くするために加熱時間を長くすると、最表面の黒色の酸化銅(II)の層はあまり変化せず、その下の赤色の酸化銅(I)の層がより厚くなりました。

 

このことから、銅の酸化はまず酸化銅(I)が生じ、酸素が十分にあるところでは酸化が進行して酸化銅(II)が生じるとわかりました。そこで、還元的な環境での焼成によって酸化銅(I)の酸化を抑えれば、赤色釉薬が得られるのではないかと考え、実験を行いました。

 

酸化銅(I)の赤色発色ができた!!

 

還元的な環境を作るために、還元剤として酸化スズ(II)を添加したり、空気を遮断するために活性炭素や釉薬で被覆したりと試行錯誤しましたが、酸化銅(I)は酸化されて青色を示しました。

 

釉薬の中を変えてもうまくいかなかったので、釉薬の周囲に注目しました。そこで、るつぼの中に活性炭素の粉末を入れて焼成を行うことで、活性炭素が酸化銅(I)よりも先に酸素に結び付き、酸素分圧を下げることができるのではないかと考えました。まず、るつぼの底に活性炭素を入れて、その上に酸化銅(I)を入れた釉薬を盛り付けた磁器片を入れて焼成しましたが、この時は活性炭素が十分に空気と反応せず、釉薬は酸化によって2価銅イオンの青を示しました。

 

そこで、るつぼに入れた活性炭素が空気に触れる面積を増やすため、るつぼの内側全体に活性炭素を塗布して焼成しました。その結果、酸化を妨げることができ、釉薬は酸化銅(I)による赤色を呈しました。

 

今後は、釉薬を実際の七宝焼きのように、金属板表面に焼き付ける方法について検討したいと思います。また、素地となる銅について、金属結晶から酸化銅の結晶ができる過程についても追究したいと思っています。

 

■研究を始めた理由・経緯は?

 

学校でふだん活動している化学教室に電気炉があり、これを用いた研究をしようと考えて、七宝焼きの製作過程を試薬からたどる中で、調製の仕方、焼成の温度などについて検証してきました。その中で発色の検討があり、8種類の金属化合物から色を付けたのですが、その中には赤がなく、工業的にも難しいことを知ったため、赤の釉薬に取り組みました。

 

■今回の研究にかかった時間はどのくらい?

 

班活動として、1年生の11月から1年半研究しました。班活動は1日に2時間程度ですが、実験アイディアのほとんどはそれ以外の時間に考えました。

 

■今回の研究で苦労したことは?

 

今回発表した内容の中心となった銅についてです。赤の釉薬は赤い酸化銅(Ⅰ)を入れてもなかなか赤にならず、3か月かけて70通りほど失敗を繰り返しました。成功に近づいたアイディアは授業中に思い付いたのですが、多くの方法を考えていたので、成功した瞬間はできたことに安心しました。また、この実験自体は発想、量り取り、盛り付け、乾燥、焼成と進めるため、少なくとも発想して2,3日は結果が得られませんでした。今振り返ると、他の研究5つを挟みながらも、よく研究を続けてこられたと思います。

 

■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?

 

この研究ではかなり発展的な内容もあったのですが、発表は高校生レベルにすることを心がけました。

 

そして、赤の釉薬は一般的に用いられる金赤とは異なる良い赤が出せたので、色にも注目してほしいです。

 

■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究

 

『増訂 化学実験事典』赤堀四郎ら(講談社)

『鉱物結晶図鑑』野呂輝男(東海大学出版会)

 

■今回の研究は今後も続けていきますか?

 

発表内容の続きでは、銅の酸化過程や釉薬の発色を検討し、クロム赤などに挑戦しました。続けるとすれば、引退の間際まで行っていた銅の酸化過程について様々な視点から考察をし、鉄の酸化や七宝焼きに応用したいです。

 

■ふだんの活動では何をしていますか?

 

班の活動としては化学の研究を中心として、文化祭の実験体験や科学の意見交換などを行っています。学校ではグループ研究や文化祭での演示実験があり、個人でも研究を行っています。

 

■総文祭に参加して

 

2018年総文祭は地元開催であり、学校から発表とスタッフの両方が参加していました。このどちらも見られたことは、またとない良い機会になったと思います。総文祭は全国の高校生と議論のできる場であり、他のコンテストなどとはまた異なる見方が生まれると感じました。議論によって研究を深め、新しい知見を共有できることは本当に楽しかったです。

 

私たちの発表では、これまでの発表の積み重ねや、研究を発表できない深い部分まで進めてきたことが成果に表れたと、議論を交わす中で実感できました。準備不足だった面がある中で、奨励賞を頂けたのも、多くの方々と議論を交わしてきた結果だと感じます。

この研究を指導し、酸化銅の分析をしてくださった信州大学工学部の手嶋勝弥教授をはじめとする先生方や、支えてくれた人に感謝したいです。

 

 

※屋代高校の発表は、ポスター/パネル発表部門の奨励賞を受賞しました。

 

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