2018信州総文祭

銅を触媒としたルミノール反応で、よく光る条件を探る!   事件現場の血痕検出で有名なルミノール反応 その秘密に迫る!

【ポスター/化学】千葉市立千葉高校 物理化学部

左から 菅原孝太郎くん、湯澤蒼生くん、和田レオンくん(全員2年生)
左から 菅原孝太郎くん、湯澤蒼生くん、和田レオンくん(全員2年生)

■部員数 16人(うち1年生7人・2年生9人)

■答えてくれた人 和田レオンくん

 

ルミノール反応~銅に惹かれるアミノ酸~

銅イオンを触媒に、アミノ酸の種類や配位からルミノール反応の最大照度を調べる

 

ルミノール反応は、塩基性水溶液の中でルミノールが過酸化水素などで酸化すると、青く見える化学発光の一つです。この反応では、主にヘモグロビンが触媒となっています。ヘモグロビンは鉄イオンにタンパク質が結合したものです。そこで、タンパク質を構成しているアミノ酸、及びタンパク質と結合してビウレット反応(タンパク質を検出する反応)を起こす「銅イオン」を中心金属に用いた錯体(金属イオンと分子やイオンの非共有電子対を共有した化合物)を使用しました。

 

私たちは、このルミノール反応を、物理化学部の演示実験で見て興味を持ち、研究することにしました。

 

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手作りのルミノール溶液と酸化補助財を反応させて発光

実験のため、ルミノール、水酸化ナトリウム[NaOH]水溶液(2.5mol/L)、過酸化水素水[H2O2](3.0%)、硫酸銅(Ⅱ)[CuSO4]水溶液(0.30mol/L)、アミノ酸(L体)を準備します。

 

ルミノール0.01g、イオン交換水 200mL、NaOH 3.0mLを混ぜてルミノール溶液を作り、H2O 1.5mL、水酸化ナトリウム 1.0 mL、アミノ酸(3.0×10-4molまたは6.0×10-4mol)を混ぜ、硫酸銅(Ⅱ)水溶液0.50mL、(銅(Ⅱ)イオン1.5×10-4mol)を加えました。

 

水酸化銅(Ⅱ)と考えられる沈殿物が生じるのでこれをろ過し、酸化補助剤を作りました。

 

暗箱
暗箱

ルミノール溶液5.0mLと過酸化水素水1.0mLをシャーレに入れて混ぜ、その後、暗箱の中で酸化補助剤を入れて発光させます。このときの最高照度を30回記録して、平均値を出しました。

 

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分子量による触媒作用の違いが明確に

 

私たちは、銅イオンの4倍の物質量である、アミノ酸6.0×10-4mol使用したときが一番光るのではないかと考えました。一方、いくつかの論文によると、銅イオンの2倍の物質量である、アミノ酸3.0×10-4molが一番光るということだったので、この二つの割合で、それぞれのアミノ酸量を比較することにしました。

 

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下のグラフは単座配位(1つの銅イオンにアミノ酸が4分子結合しているもの)と2座配位(1つの銅イオンにアミノ酸が2分子結合しているもの)の平均最高照度を比較したものです。横軸が今回使ったアミノ酸の分子量で、左から小さい順に並べました。縦軸は各アミノ酸の最高照度の平均を示しています。赤は論文にあった2座配位を作る方法で、青は私たちが仮説を立てた単座配位を作る方法です。

 

グラフからわかるとおり、分子量の小さいアミノ酸では、単座配位の方が強い照度を示したものが多く、分子量が大きいものでは、2座配位の方が強い触媒作用を示すものが多く見られました。

 

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分子量の大きさと構造が触媒の安定性に影響を及ぼす

 

アミノ酸の分子量が小さいときには、銅(Ⅱ)イオンにアミノ酸が4つ配位しているものの方が錯体が安定し、強い触媒作用を示すのではないかと考えられます。

 

これは、過酸化水素によって、銅イオンが酸化銅などに変わる反応が抑えられるため、錯体が安定して、触媒作用を強く示すからだと思われます。

 

写真の左側は、アミノ酸の中でいちばん分子量が小さいグリシンというアミノ酸の単座配位の分子モデルです。分子量の小さいものは、銅イオンに4つ配しても立体障害(分子を構成するそれぞれの部分がぶつかって反応速度が遅くなること)が起きにくく、安定した錯体になります。 

     Fig.6 単座配位の分子モデル(左:グリシン 右:トリプトファン)  分子モデルからわかるように、分子量が大きいアミノ酸が単座配位してしまうと立体障害が起きることは明らかである。
Fig.6 単座配位の分子モデル(左:グリシン 右:トリプトファン) 分子モデルからわかるように、分子量が大きいアミノ酸が単座配位してしまうと立体障害が起きることは明らかである。

 

一方、今回使ったアミノ酸の中でいちばん分子量の大きいトリプトファンの単座配位のモデルでは、分子量が大きいものに4つ配することで、原子の数が増えてしまい、立体障害が起こりやすくなります。そのため、できる錯体が不安定だったり、錯体ができにくかったりということが生じます。そのため、分子量の大きいものは、2座配位のほうが強い触媒作用を示すものが多いと考えられます。

 

また、分子量の小さいプロリンだけが、明らかに3.0×10-4molの値が高くなっているのは、通常分子量の小さいアミノ酸が直鎖構造になっているのに対して、プロリンが環状構造になっているせいであり、単座配位子として働く際に、側鎖が立体障害を起こして錯体が不安定になるためと思われます。

 

これとは逆に、分子量の大きいアミノ酸の中で、アルギニンだけ6.0×10-4molの値が高いのは、分子量の大きいアミノ酸が環状構造になっているのに対して、アルギニンが直鎖構造になっているためだと考えられます。

 

最後に、今回いちばん照度の高かったチロシンですが、これには、チロシンがアミノ酸の中で唯一のフェノール類だということが、関わっています。フェノールは塩基性中で、フェノキシドイオンに変わることが知られています。負の電荷を帯びてチロシン同士が反発し合って一直線上の錯体になります。そのため立体障害がなくなって安定した錯体になり、いちばん強い触媒作用を示したのではないかと考えられます。

 

 

ルミノール反応を用いたアミノ酸の特定、別種のアミノ酸や中心金属を使った実験を

 

ルミノール反応では、基本的に分子量が小さいと、単座配位の方が強い触媒作用を示し、反対に分子量が大きいと、2座配位の方が触媒作用を強く示すことがわかりました。また、立体障害が起きる原因として、分子量が大きいアミノ酸には、側鎖に環状構造があることが挙げられます。

 

この研究を受け、ルミノール反応のアミノ酸による最高照度の違いを利用して、アミノ酸の特定をしていければ、と思っています。また、今回はL体のアミノ酸を使いましたが、次は構造の異なるD体を使って実験をしてみたいと考えています。

 

さらに、中心金属を銅イオンではなく、銅イオンと同じ遷移金属にして、照度にどのような変化が見られるかも研究してみたいです。

 

■研究を始めた理由・経緯は?

 

部活動体験入部時の演示実験でルミノール反応を見て、「溶液と溶液が混ざり合うだけで光る」ということに衝撃を受けるとともに、何か感動するものがあり、ルミノール反応に興味を持ち始めたのがきっかけになりました。

 

ルミノール反応の触媒としては、ヘモグロビンがよく知られています(鑑識官が血痕捜査でルミノール反応を用いています)。そしてヘモグロビンは鉄イオンとタンパク質からできています。このヘモグロビンの構造をヒントに、タンパク質を構成するアミノ酸を配位子に、タンパク質とビウレット反応を起こすことが知られている銅イオンを中心金属に用いた錯体を、触媒として使うことに決めました。

 

■今回の研究にかかった時間はどのくらい?

 

テーマは違いますが、本校の物理化学部ではルミノール反応の研究を2010年から現在まで、8年間継続して行っています。僕らの代は2017年の5月22日から、独自のテーマでルミノール反応の研究を始め、現在に至るまで1年半にわたって徐々にテーマを変えながら続けています。

 

■今回の研究で苦労したことは?

 

触媒として、アミノ酸を配位子とした銅錯体を使用したのですが、アミノ酸それぞれの違いを知りたかったため、人体を構成するアミノ酸(α‐アミノ酸のL体のみ)20種類全てで錯体を作製し、実験に使用したところです。さらに1種類につき30回、値を計測したので、同じ作業を何回もして気が遠くなりながら実験をしていたことを覚えています。

 

■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?

 

最高照度(計測値)のばらつきを減らすために、混合時に使用する器具を二股試験管からシャーレとマクロピペットに変えたことです。また、暗箱を自作したので、1回1回暗室に行ったり、部屋を暗くしたりする必要がなくなったのも工夫したところです。

 

先にも述べましたが、今回アミノ酸を20種類も使用し比較したので、その頑張りと、それらのデータを受け手に見やすいようなデータに加工したところを見てほしいです。

 

発表については、図やグラフはわかりやすく、なるべく大きくすることを心がけました。さらに、専門用語は極力少なくして、使う場合は一つ一つ丁寧に説明しようと気をつけました。

 

また、相手が困惑しないようにゆっくり喋ろうとしたり、親しみを持ちやすいように笑顔での発表を心がけたり、話し始めを身近なものに関連付けたりもしました。

 

■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究

 

1.「無機化合物の合成」社会法人日本化学会(1977)『新科学実験講座8』、1519-1520、丸善出版

2.「遷移元素と錯イオン」、「アミノ酸」、「タンパク質」実教出版編修部(2018)『四訂版サイエンスビュー化学総合資料』、182-183、286-287、288-289.

3.「6.グリシナト銅(Ⅱ)の合成」平成22年度文部科学省選定大学教育・学生支援推進事業大学教育推進プログラム(2008)46-47、

4.「ルミノール反応の限界に挑戦~酸化補助剤の可能性~」大橋翔平、並木拓己 平成28年度第10回高校生理科研究発表会

5.「ルミノール反応の力を引き出すには?」並木拓己、大橋翔平 化学クラブ研究発表会 化学クラブ2016

 

■今回の研究は今後も続けていきますか?

 

3年生になると本格的に受験勉強が始めるため、2年生の終わりごろまでだと思いますが、まだまだできることはあると思うので、時間の許す限り自分たちの研究に向き合いたいと考えています。

 

今後は、2種の構造の作り分けの確実性とその証明、専門ソフトを使った電子軌道やそれぞれの原子が持つエネルギーを計算して、立体障害の優劣を見ることなどに挑戦したいと思います。

 

■ふだんの活動では何をしていますか?

 

BZ反応への友好的な錯体の発見・脂肪酸の構造と洗浄能力の関係(石鹸)・燃料電池の高出力化・可逆的に光異性化するアゾ化合物の発見・より良い鏡を作るために(銀鏡反応)・滲み具合を調節できる墨の開発などの研究をしています。

 

研究以外では、Qiball(千葉市科学館)や文化祭での科学工作体験、サイエンスショー、中学生向けの公開理科実験教室などを行っています。

 

■総文祭に参加して

 

全国大会という大舞台でどこまで自分たちを活かした発表ができるか、前日までメンバー全員不安でした。しかし、いざ大会が始まると審査の時間が遅かったこともあり、本番には完璧とまでは言いませんが、満足のいく自分たちなりの発表ができたと思います。

 

トップレベルの研究発表をいくつも見させていただいて、今までの研究発表とは異なった方法で審査を受け、とても貴重で有意義な体験をさせていただいたと思っています。そして、この体験を今回だけで終わらせることなく、今後の僕たちの研究に大きく役立て発展させていきたいです。

 

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