2019さが総文

先輩の研究を引き継いで三代目、水滴が大きくはね返る条件を突き止めた!

【物理】愛媛県立松山南高校 松山南高校物理三代目水滴班

左から 中本太一くん、城戸良祐くん(3年)
左から 中本太一くん、城戸良祐くん(3年)

■部員数 3人(3年生3人)

 

「水滴が水面で大きくはね返る条件を探る」

水滴を落とす高さを変えるとはね返りの高さはどう変わる?

 

水滴が水面ではね返る光景は、風呂場や洗面所などで普段何気なく目にするものだと思います。私たちの先輩方は、この現象について数年にわたって研究を積み重ねてきました。今回、私たちはこの研究を引き継ぎ、さらに深く研究することにしました。

 

4年前の先輩方は、水滴が水面に当たってはね返った際に形成される水柱に着目して研究しました。また、2年前の先輩方は、はね上がった水滴自体に着目して研究を行いました。

 

ここでクイズです。水滴を落とす高さを変えていくと、水滴がはね返る高さはどう変化すると思いますか?

 


実は、先輩方の研究の結果から驚くべきことがわかっています。水滴を落とす高さを上げていくと、はね返る高さは一度上昇したのち、なんと下がって、それから一定になるのです。先輩方は、この一定になった部分について調べました。

 


そこで、今回私たちは、このピークの部分に着目して研究することにしました。

 


私たちの研究の方針は次の通りです。まず数種類の大きさの水滴を滴下出来るように準備したのち、それぞれの大きさの水滴について「滴下する高さ」と「はね返りの高さ」の関係を調べました。そして、そこで得られた結果を前提とした上で、水滴が大きくはね返るときの特徴を調べることで、水滴が水面で大きくはね返る条件を探し出していきます。最終的にはその結果を理論的に説明することを通して、水滴が水面ではね返る仕組みの一端を解明することを大きな目標としました。

 


ピークになるための滴下の高さは水滴の質量の平方根に反比例する

初めに、数種類の大きさの水滴について「滴下する高さ」と「はね返りの高さ」の関係を調べました。まず、水滴を注射針から滴下し、その様子を動画で撮影します。滴下する高さは4cmから92cmまで4cm刻みで変えてゆき、各高さで5回の測定を行いました。水滴が一番はね上がった瞬間を静止画として捉え、その静止画データの水面から水滴までの画素(ピクセル)数を利用して、水滴がはね上がった高さを求めました。そして、内径の異なる数種類の注射針を用いることで水滴の大きさを変え、同様の実験を繰り返し行いました。

 

 

その結果を下図に示します。この図から、水滴の大きさによらず、はね返りの高さには常に「ピーク」があることがわかりました。ここで、水滴の大きさによっては、青色の線のグラフのようにピークが複数回現れるものもありましたが、私たちの研究では1回目(一番左側)のピークに当たる滴下の高さを「最適の高さ」と呼ぶことにします。すなわち、それぞれの水滴の大きさには、それぞれの「最適の高さ」があることになります。

 

 

そこで、「水滴の大きさ(質量)」と「最適の高さ」との関係をまとめると、下図の曲線のようになりました。

 

 

この結果で両対数グラフ[グラフの両方の軸が対数目盛になっているグラフ]を作成すると、なんと、下図のように直線となりました。

 

 

この直線の傾きを調べると-0.47、つまりおおよそ-0.5となりました。このことから、「最適の高さ は質量の平方根√mに反比例している」と言えそうです。この関係について、私たちは次のように考察しました。

 

「水面がより大きく凹むとき水滴は大きくはね返る」と仮定してみると、「水滴を最適の高さから滴下したときに水面は一番大きく凹む」と言えます。ここで、どのようなときに、水面が一番大きく凹むのか、ということについて、次の2つのモデルを用意しました。

 

水面が一番大きく凹むのは「(1)水滴が(はね返る直前に)ある一定の『運動エネルギー』をもつとき」とするモデルと、「(2)水滴が(はね返る直前に)ある一定の『運動量』をもつとき」だとするモデルです。これら2つのモデルのそれぞれの場合について理論的に計算を行い、それらが実験結果に合致するかを見ることにしました。

 

「運動エネルギー」「運動量」では実験結果を説明できない…他の要因はあるのか?

まず、運動エネルギーに注目するモデル(1)に基づいて「水面が一番凹むのは、水滴が(はね返る直前に)ある運動エネルギーEをもつときである」として図のように計算を行うと、hはmに反比例することになります。

 


また、今度は運動量に注目するモデル(2)に基づいて図のように計算すると、hはm²に反比例することになります。

 

しかし、これらはいずれも実験結果とは一致しません。実験結果では「hは√mに反比例している」からです。すなわち、用意した2つのモデルは、いずれも実験結果を説明できないことがわかりました。それでは、実験結果を説明するために必要な要素は一体何なのでしょうか。そうして私たちは、新たに「空気抵抗」を考慮すべきではないかという考えに至りました。

 


そこで、「水滴が水面に達する直前の速さ」について、理論値を動画から算出した実測値と比較することにしました。実は、空気抵抗のはたらき方を単純化したモデルには2種類あり、「速度に比例するモデル」と「速度の2乗に比例するモデル」とがあるので、これら2種類の空気抵抗のモデルのどちらについても計算して理論値を算出することにしました。

 

 

図のグラフから、「(1)空気抵抗がはたらかないとしたモデル」と「(2)空気抵抗が速度に比例するとしたモデル」、「(3)空気抵抗が速度の2乗に比例するとしたモデル」の3つの理論値はほとんど重なっているのに対し、動画から算出した実測値はそれらより少し小さい値になっていることが読み取れます。このことから、私たちが仮定したような空気抵抗のモデルでは実測値を説明できないことがわかりますが、私たちが考えたよりも複雑な空気抵抗を受けているために理論値よりも実測値が小さくなっている可能性も考えられます。そこで、より正確な空気抵抗のモデルを用いると「水滴が水面に達する直前の速さ」の実測値が説明できるのではないかと考えました。

 

そこで、以上のことを前提として、水滴が大きくはね上がるための条件を詳細に調べていきました。私たちは、「(1)凹みの形」、「(2)水面に当たる直前と直後の水滴の速さの関係」、そして「(3)はね返った水滴の体積」の3点に注目し、それぞれについて実験と考察を行うことで、その条件に迫っていくことにしました。

 

水面に衝突したときの凹みの形は3種類、高くはね上がるのは特定の凹みのときだった!

まず、「(1)凹みの形」についてです。撮影した動画を再度よく確認したところ、「水滴が水面に衝突した際に形成される凹みの形」を図の3種類に分類することができました。

 

そこで、18ゲージの注射針を用いて、この大きさの水滴の最適の高さである28cmから100回滴下を行い、そのときに形成される凹みの形がこの3種類のいずれに当たるのか調べてみることにしました。

 

※「ゲージ」は注射針の外径の単位。ゲージ数が小さいほど外径が大きくなる。

 


 

この実験の結果を図に示します。「円柱+半球型」と「半球型」の2種類の凹みが観測され、「円柱+半球型」は97個、「半球型」は3個という結果になりました。

 

この図を見ると、「円柱+半球型」がほとんどですが、凹みの形が「半球型」に分類されたときにははね返りの高さが目立って低いことが読み取れます。このことから、水滴が大きくはね上がるためには「円柱+半球型」の凹みが形成される必要があると考えられます。

 

 

続いて、この凹みの体積について測定を行いました。その結果、滴下する高さを高くするにつれて凹みの体積も上昇することがわかりました。

 

このグラフを直線で近似して調べると、図のように30cm付近で直線が折れ曲がっているように見えることがわかりました。ちょうどこの部分が最適の高さ付近であることから、最適の高さと凹みの体積との間に何かしらの関係性があることが示唆されます。

 

 

はね返った水滴が小さい方が高く上がる

 

次に、「(2)水面に当たる直前と直後の水滴の速さの関係」について調べました。

 

その結果は図のようになりました。これを見ると、水面に当たる直前の速さが大きくなるにつれて、はね上がりの速さは一度大きくなってから小さくなり、そしてほぼ一定になっていることが読み取れます。

 

 

この図をよく見ると、落下直前の速さがある一定の値に達するまでは、水面に当たる直前と直後の水滴の速さの間には直線的な関係があることが読み取れます。その直線の傾きは、おおよそ0.69です。

 

この値ははね返り前後の速さの比であるため、衝突における「反発係数」に相当するものであるとみなせます。つまり、最適の高さ付近までは反発係数が0.69の衝突と同様の現象が見られた、といえます。

 

 

次に、はね返る水滴の体積とはね返りの高さの関係を調べました。この図のように、高くはね返る水滴は全て体積が小さいものに限られ、体積が大きいものは常に高くははね返っていないことが読み取れます。この傾向をよりわかりやすい形で見るために、結果を「体積が15㎣以上かどうか」、「はね上がりの高さが7cm以上かどうか」を基準として分類し、それを表にまとめることにしました。

 

 

その結果がこちらです。これを見ると、やはり体積が小さい水滴には高くはね返る傾向が強くあることがわかります。

 


以上、(1)(2)(3)のそれぞれに注目して行った実験と考察から得られた結論をまとめます。水滴が大きくはね返るためには、

(1)円柱+半球型の凹みを形成すること

(2)水滴のはね上がりの速さが大きいこと

(3)はね返った水滴の大きさが小さいこと

の3点が必要であることがわかりました。

 


今後は、水滴が大きくはね返るための、以上に挙げた3点以外の条件を調べたいと思っています。また、本研究の後半では18ゲージの針を使って実験を行ったのですが、他の大きさの注射針を用いて実験を行うとどうなるのかも調べてみたいです。

 

さらに、水温など今回考慮しなかった条件を変えると、はね返りの様子がどう変化するかについても調べていきたいと考えています。

 


■研究を始めた理由・経緯は?

 

私たちが1年生のとき、3年生の先輩の研究発表を聞いてこの現象に興味を持ちました。先輩方の研究で、はね返った水滴の高さが一度ピークを迎えることについてその特徴や原因が解明できなかったため、私たちが継続研究をすることで、この現象のメカニズムを明らかにしたいと考えました。

 

実験の手順やデータ解析の方法は先輩に指導していただき、実験で用いる器具や手法は先輩のものを踏襲しながらも改良を加えるようにしたので、より効率よく研究を進めることができました。

 

■今回の研究にかかった時間はどのくらい?

 

先行研究である本校の先輩の研究は、5年前から始まっていました。私たちの研究は、私たちが1年生のときの2学期から始まり、およそ2年間研究活動を行いました。研究は、本校の学校設定科目「スーパーサイエンス」の時間(毎週木曜の午後3時間)を中心に行いましたが、時間が足りないので、他の曜日の放課後にも、平均で一週間当たり3~4時間程度の時間をかけました。もちろん、発表会前には、毎日発表の練習や準備をしました。

 

■今回の研究で苦労したことは?

 

研究では、先輩の研究と同じ手法である、「動画の撮影→動画の再生→静止画上での計測→静止画として保存」の手順でデータの解析をしました。解析を効率よく行う工夫はしましたが、それでもものすごく時間がかかりました。また、私たちは20以上の高さから、一つの高さから5回の滴下を行い、それを6種類(5種類の注射針プラス針なし)の水滴について、すべてデータ処理を行いました。単純な作業の繰り返しで嫌になることもありました。また、いろいろな要素が絡みあう複雑な現象であるために、結果に対する考察でも、3人でいろいろな意見を出しながら議論を進めました。

 

定量的な考察や理論的な裏付けを目指して研究を進めましたが、定性的な考察にとどまってしまったことが心残りです。

 

■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?

 

水滴を滴下するために、医療用の注射針や点滴用の輸液セットを用いたことは、私たちの研究班のオリジナルだと思います。

 

注射針を用いた理由は、水滴の形状を安定させるためと、内径が異なる注射針を用いることで水滴の大きさを変えることができるためです。輸液セット用いた理由は、水滴の滴下・停止が手元の操作で簡単にコントロールできるからです。注射針や輸液セットについては、専門の業者の方に自分たちの研究内容を説明し、理解していただき、購入させていただきました。

 

■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究

 

○「水面に形成される水柱に関する研究」愛媛県立松山南高等学校SS物理水滴班(2015)

○「水面からはね返る水滴に関する研究」愛媛県立松山南高等学校SS物理水滴班(2017) 

○「ハイスピードカメラによる動画集の公開とミルククラウン現象の観察」長谷川誠、川原宗貴、俵谷邦仁朗、花森壮介、平澤梓(2012)

○「今日からモノ知りシリーズ トコトンやさしい流体力学の本」久保田浪之介(日本工業新聞社(2007))

 

■今回の研究は今後も続けていきますか?

 

私たちは全員3年生なので、今後は大学受験に向けて勉強をするため、この研究を続けるのは難しいと思います。しかし、後輩である現2年生が、固体物を水面に落としたときの水のはね返りについて研究を行っていますし、私たちの研究成果を見た1年生の中にもこの研究に興味を持ってくれている人がいると聞いています。できることなら、私たちが発見した水面の凹みや水面の挙動について研究を継続してもらえると大変ありがたいなと思っています。

 

■ふだんの活動では何をしていますか?

 

ふだんは、学校設定科目「スーパーサイエンス」の時間を中心に実験やデータ整理を行っていますが、週3時間では足りないので、放課後も利用して活動しています。班員のうち2人は運動部に所属していて、今年の6月まで活動をしていましたし、残りの1人は文化部に所属していますが、各種大会への参加のため夏休み中も活動しています。3人とも、部活動の活動と調整をしながら、できる限り研究のための時間を確保するようにしてきました。

 

■総文祭に参加して

 

レベルの高い研究や興味深い内容の発表が多く、どの研究も発表を聞いていてとても楽しかったです。私たちとは違う考え方や方法もたくさんあり、質問をしたり議論をしたりすることが私たちにとっても大変勉強になることばかりでした。なかでも、聞き手の心をつかむような上手な発表をする人や、本当に楽しみながら研究を進めているのだなと感じるような発表をする人がいることが、とても印象的でした。

 

昨年、一昨年に全国総文祭に参加した先輩から「とても楽しかった。勉強になった」と聞いていたのですが、本当にそうだなと思いました。3日間があっという間に過ぎて、充実した時間を過ごすことができました。

 

⇒他の高校の研究もみてみよう

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