第13回全日本高校模擬国連大会

マイノリティであっても、自分たちの意見を世界に発信し次の会議につなぐために

桐蔭学園中等教育学校Bチーム[神奈川県] 担当国:日本

木嶋 透くん、柴垣竣弥くん(中等5年)

 

■担当国として日本を希望した理由をお教えください。

 まず、担当国の立場を死刑存置・廃止・モラトリアムのどれにするか、ペアで話し合いました。この時、自分たちペアと死刑に対するどのスタンスが合うか、あるいは自分たちがこの会議でやりたいことは何かなど様々な要素を考えました。いろいろと調べている中で、世界が死刑存置と廃止にほぼ二分されており、存置側が圧倒的にマイノリティであることを理解しました。そして、その上で存置国を希望しました。

 

会議の結果文書である決議を残すためには、マイノリティは不利なのは十分承知しています。しかし、それでも存置国を希望したのは、「会議における立場は弱いが、強い意見を主張しなくてはならない」という状況でもし結果を残すことができたら、とても面白いと考えたからです。

 

また、存置国の中で日本に決めた理由としては3つあって、

 1つ目…自分たちが日本国民であるから

 2つ目…日本政府は基本的に国際協調を取るスタンスでいるのに、死刑を存置するという強硬

  な姿勢を取り続けているから

 3つ目…そうはいっても死刑に関して改善が見られるから

です。

 

まず1つ目ですが、私たちは日本国民ですから、(多くの人は)死刑存置を当たり前だと思っています。日本人にとって死刑があることは本当に当たり前すぎて、世界で死刑廃止に向けた議論が展開されていることは遠い出来事となっています。しかし、死刑が存在し、執行されていることは世界では当たり前ではありません。この事実を、改めて日本の外交的立場から見てみたかったのです。

 

2つ目は、日本という国はイメージとして、基本的には国際協調路線、ある程度マジョリティ側に付く傾向がありますが、死刑存廃問題においては、明らかにマイノリティ側に立ち続けていることが面白いと思ったからです。

 

3つ目は、マイノリティではあるものの、何とか世界について行こうとする姿勢も見られなくはなく、大使を演じる上で楽しそうだと思ったからです。

 

 

■準備の段階で苦労したことや、工夫したことがあれば教えてください。

日本政府の見解が曖昧だったことに苦労しました。

 

日本政府の死刑に関する見解は、「場合によっては死刑もやむをえない」というものです。この「場合によって」とは何か調べようとしても、「公共の福祉に反しない限り」「極めて悪質・凶悪な犯罪に対して」程度にしか展開できませんでした。日本の本音がつかめなければ政策は立てられません。この点、とても苦労しました。また根本が曖昧であったため、自国政策をどこまで強硬に主張すべきなのか、どこまで譲歩できるのかなど、どうやったらそのスタンスが会議終了時に理想の形になっているか考えることも難しくなりました。

 

個人的に工夫したことと言えば、大した工夫ではないと思いますが、日本のスタンスを決める段階でも他国のことを調べる段階でも、考えたことを言語化するように心がけました。

 

今回の死刑モラトリアムという議題は第三委員会で扱われているように、人権についての議論です。人権というのは、世界で起こっている他の問題よりも、抽象的・概念的なものが強く、なかなかとらえ難いものです。他の議題であれば具体的な政策が思い浮かぶようなときも、ボンヤリとした考えしか頭に浮かびません。それに加えて、日本のスタンスが曖昧だったので、思いついたことは必ず言語化して明確に丁寧にとらえようと努力し、理解の幅を広げました。

 

ペアとして工夫したのは、ふたりでディベートをすることです。

 他国を担当するときと比べて、日本政府代表をするとリサーチ時に得る情報量は段違いに多かったです。ただし、その情報が正しいとは限らないし、正確な情報だったとしても曖昧なものだったりしました。そこでペアとディベートをして、どの情報を使うべきか、その情報の正確な意味は何か、お互いに確認しながらリサーチを進めました。

 

また、日本についてのスタンスが決まった後も、ディベートを通して日本の政策を詰めました。このディベートでは、ペアの1人が日本以外の国の立場を取り、自分たちが作った日本の政策を批判しました。この工程を通して政策をしっかりしたものにでき、自分たちの政策への理解度も上がり、会議中の自信にも繋がりました。(木嶋くん(グループ内のまとめ担当))

 

 

私たちは一高校生として、死刑存置に関して「大賛成」とまでは行きませんが、寛容な姿勢を持っていました。「日本は確実に法制度的に発達した先進国で、稀に起こる冤罪など諸所の小さな問題はあるものの、それを撲滅するために日々、司法や行政的な改善が行われている国である」と私は考えていたのです。日本の死刑問題に関する現状はそこまでブラックではないものと考えていました。

 

しかし、深く調べていくうちに、日本の国際的立ち位置が、私が持つ日本への印象と真逆のものであることがわかり、政府の行動にもいささか矛盾を感じるようになりました。

 

日本は、中国やイスラム圏諸国ほど死刑に関して深刻な問題を抱えておらず、改善はしているものの、欧州側からしたら、死刑を存置し執行をしている時点で、日本は彼らと同類であり、決して国際関係上、中立的な立ち位置ではありませんでした。日本政府は欧州側が示す国際協調路線から離れ、死刑存置国と協力して積極的な主張を国際社会に発信するわけでもない、実質的には孤立した状態にいます。

 

このように元のイメージと現実が大きくずれたこと、政府の具体的な主張が見出し難く、日本はこれからどうあるべきで、国連の議場でどんな国々と対話し、何を主張していけばいいのかを考えるのが準備の段階で大変苦労しました。

 

そこで、まず死刑問題の国際的な潮流を第二次世界大戦後から現在に至るまでの歴史的な流れを調べ、各時期の日本の立ち位置を明確化しました。担当国が日本である分、その点情報量の多さには助かりました。

 

国連や地域会議の諸決議、条約、日本政府の調査書など、一般の個人がたどり着ける情報にはすべて触れたつもりです。疑問点や、理解に不安を覚えたところ、議論の余地があるところがあれば、その都度、相方の木嶋君と、討論という形をとり、深めていきました。

 

その得られた情報の点と点を線で結び、論理的構造を立て、仮にそのレールを敷いた場合、日本が将来どんな歩みをし、国際社会はどんなふうに展開するのかを考え、自分が日本大使として強く主張できることは何か、何度も何度も検討しました。

(柴垣くん(文言案作成・他グループとの折衝担当))

 

 

■死刑廃止の立場の国とは相容れない点が多かったと思います。そのような国と交渉する際に、どんな点に配慮しましたか。

 私は基本的に内側でグループのみんなと話し合う機会が多く、そこまで他国と交渉することはしませんでしたが、交渉をしたときには「会議の目的」というものを意識しました。

 

死刑存置国は今まで、死刑廃止に関する議論の中で取り残されてきました。世界の視点から見ると、明らかなマイノリティ側に属していました。

 

こうした状況の中、日本は今会議でも従来通り、他国と協調することなく自国の意見を曖昧なまま伝え、「確かに死刑は残っていますが、改善を目指して努力しています!」という態度を見せることも可能でした。言い方は悪いですが、相手をごまかして日本をある程度認めてもらうという戦略です。

 

しかし、今回は日本の意見だけではなく「存置国」の意見を発信することを目指しました。積極的な日本を演じ、廃止国だけが意見を発信している現状の世界を変えたかったのです。結局、それは日本としての意見を弱めることにはつながりますが、今会議が終わった後の次の会期での会議を見て、トータルの国益を守ると考えればそれが妥当だったのだと思います。

そのため、死刑存置国として、自分たちの意見を世界に発信していくことを重要な目的としていました。

 

また、廃止国を含めた今会議の目的も、存置国と廃止国が互いを尊重し合うような内容でした。自分が何のために来たのか、自分が誰のために会議をやっているのかということを常に頭に入れておいて、自分たちの目的を達成することに意識を置くことで、自国益を達成するような交渉を行うことができました。(木嶋くん)

 

 

 

現状、存置国たちは、欧州をはじめとした、圧倒的多数の積極的な死刑廃止諸国によって、その主張が認められず、彼らの設計した国際的潮流に無理やり組み込まれる形にあります。その結果として死刑問題の改善は一定以上の前進は見られず、死刑存廃の溝は深まるばかりです。そして我が国は、死刑外交上ではどのグループにも属さず孤立しています。

 

日本が何かを主張するためには、積極的に会議に参加し、立場が近い国々と組むことが必要不可欠ですが、現状、存置国グループで交渉に挑んでも、廃止国側の断固として死刑は認めない考えとは折り合いがつかず、数的有利によって、我々の主張が押しつぶされる懸念もありました。

 

これを踏まえ、「日本が積極的に議論に参画することで、存置国グループとしての決議を残す」という明確な目標を立てました。今まで議論に取り残されていた存置国が議論に参加し、決議を残すことができれば、この会議が国際的にも、日本としても転換点となると考えたのです。そのためには、存廃関わらずすべての国の意見が聞けることが理想ですが、少なくとも死刑存廃両側の意見を傾聴し、歩み寄りができる会議にしたいと考えました。そういった会議を作るためには、日本はうってつけの位置にありました。

 

実際に、会議では、日本は存置国の意見を守ろうという意志を明確に打ち出すとともに、会議全体では存廃の二項対立ではないはずの今会議の在り方を確認し続けました。そして存置国グループの理念を統一し、決議案作成を進めました。

 

存置国グループ内の大使との交渉では、すべての国の現状や見解を事前に調べ、互いの国の未来像を描きながら、実際にどんな利益があるのかということを具体的に丁寧に説明しつつ、建設的に議論を進めようと心がけました。

 

廃止国グループに対しては、「我々存置国は、従来の二項対立を越えて歩み寄る意志を統一して持っている」ということを伝えるとともに、存置国のすべての国の意見が含まれた成果文書を作り上げる歴史的重要性について、繰り返し訴えました。

 

廃止国側が、何を望み、どこをこの会議の終着地点としたいのかということをしっかり聞くとともに、存置国の代表として、我々の意見を決議として、未来に残していくためにも、廃止国側に対し投票時の賛成又は棄権を求めました。(柴垣くん)

 

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