第13回全日本高校模擬国連大会

死刑存置ありき・廃止ありきの議論からの脱却のために

渋谷教育学園渋谷高校[東京都] 担当国:ボツワナ

妻鹿涼介くん、後藤 慧くん(1年)

 

■担当国を希望した理由をお教えください。特に、今回の議題の「死刑モラトリアム」については、担当国のどのような点に注目されましたか。

 

ボツワナは、死刑の存置・廃止によって議論が二極化するだろうという予想のもと、両派に対してアプローチができ、議場を引っ張っていける国として私たちは考えていました。

 

なぜなら、ボツワナは死刑を存置していますが、その背景にあるのは宗教に代表されるような特殊な文化背景でなく、国民感情に基づいた民主主義のもとでの死刑であること、さらに、女性や子どもの権利の保護に尽力するなど、人権派の精神に通じる行動が見られたからです。

 

死刑存置の背景として特殊な文化背景があると、どうしても同じような背景を持たない国に対して普遍的な根拠を持った交渉が難しく、同じような文化背景を持つ国で固まってしまい、他国との交渉が難しいです。しかし、国民感情に基づいた民主主義という国家形態は、今会議において多くの国に共通する背景であり、その背景から生まれた政策・意見は普遍的に納得されやすいであろうという考えでした。

 

また、人権を否定するのではなく、尊重しているボツワナなら、対立するであろう死刑の廃止派の国の背景を理解しやすく、建設的な議論が可能だと考えていました。

 

以上の理由から、ボツワナこそが現在に至るまで死刑廃止国の決議案しか通らなかったこの議論において、新しいグルーピングや政策を提案できると強く信じ、ボツワナを希望しました。

 

■準備の段階で苦労したことや、工夫したことがあれば教えてください。

ボツワナという国自体があまり大国でないこともあって、とにかく信頼できる資料が少なく、どうしてもボツワナの実情が掴めずにいました。そのため、過去の国際会議やそれに伴った決議文書、国連人権理事会からのレポートなどの情報を漁り、事実ベースで慎重にボツワナのスタンスを見極めていきました。

 

また、自分の中で最も大きかったのはボツワナ大使館に赴き、実際のボツワナ大使と議論をしたことです。今までは日本という環境で生まれ育った自分たちが、ボツワナのスタンスを推察しながら政策を立てていったので、それが実際のボツワナに沿ったものか不安が拭いきれませんでした。しかし、実際のボツワナ大使と会い、議論をしたことで自分たちの方針が間違っていなかったことを確認できましたし、実際の会議のイメージも湧いていきました。(妻鹿くん)

 

 

準備の段階で最も苦労したのは政策立案でした。「死刑モラトリアム」という議題に対する各国のスタンスは多種多様で、僕たちが担当したボツワナのような死刑存置国の中でも「死刑」に対する取り組みや理念には差があると感じていたからです。

 

特に、ボツワナは宗教や政治的な理由によって死刑を残している国ではなく、法律と憲法に基づいて死刑を残している国で、そのような国は死刑存置国の中ではマイノリティーだったため、どのようにすればより多くの国が自分の政策に賛成してもらえるかを考える必要がありました。しかし、多くの国が賛成できるようにと政策を立案していくと徐々に国益にそぐわないものになることが多かったため、政策を立案した後は必ずその政策についてペアで話し合いをして、国益が何だったのかを考えるようにしました。(後藤くん)

 

■大会当日は、どのようなことに気をつけながら会議に臨みましたか。

私が最も気をつけたことは、各国の意見の裏側にあるニーズをきちんと理解することです。今会議は、通常の会議よりも厳格に各国のスタンスが確定していて、それぞれの背景もバラバラだったからこそ、各国がそれぞれの言いたいことだけを発信してしまうと、結局似たような背景を持つ国が多いグループの意見ばかりが反映されてしまいます。

 

しかし、ボツワナのような存置国は少数派であったために、絶対的に廃止国からの賛同を得る必要がありました。だからこそ、各国の政策が生み出された根源的なニーズを読み解き、それらの共通項を見出すことに努めました。そうすることで、スタンスは異なったとしても普遍的に受け入れられるような政策が立案できるだろうと考えていました。

 

例えば、「死刑に関する情報公開を推奨する」という政策は、存置側にとってもその国が民主主義を重視する場合、国民への情報の透明性を上げることは責務であり、また、廃止側にとっても情報公開がなされることで、効果的な政策の提案や詳細な現状分析が可能となります。

 

このように、スタンスが異なったとしても各国が納得できる政策を提案することで、ボツワナのやりたかった「存置ありき・廃止ありきの議論からの脱却」を図っていました。(妻鹿くん)

 

 

大会当日は自分の国益を常に忘れないように心がけました。今回の議題では特に、一見国の立場が似ているように見えても、実際に話し合ってみると政策に対する評価などが大きく違うことがあったため、相手の意見に流されないようにする必要がありました。そのため、交渉する際には常に自分の国の国益、そして自分のグループの国の国益を忘れないようにして交渉をしました。

 

また、死刑存置の国をまとめることは非常に難しいということを踏まえ、常にペアで自分たちのグループのまとめ具合や議論の進行状況を見て行動するように心がけました。他国との交渉や議場全体で行おうとしていることも多数派に流されるのではなく、グループとしての意見をしっかりと発信するようにしました。

(後藤くん)

 

■会議を進める上で一番大変だったことを教えてください。それをどのような工夫や努力で乗り越えましたか。

 

一番大変だったことは、ボツワナの理念を他の国に広め、協力してもらうことでした。なぜなら、ボツワナのやりたかった存置派と廃止派の双方の意見を反映させた政策を発信するという理念は、見方によっては双方の国益を譲歩した妥協の推進であり、後退だと捉えられるからです。しかし、私たちの理念こそがこの議論を一歩前進させ、国際的な協和を実現できると信じていました。

 

だから、自国と同じく国民感情を重視するアメリカや日本、そして協調路線を掲げていた国の大使と地道に交渉し、少しずつボツワナの理念に共鳴してくれる国を集めていきました。その際に、自国の理念の押し付けにならないように、予めリサーチしていた各国の情報を基に相手の出方を見極め、お互いに共通している意見を強調しました。また、各国の国益を著しく損なわないように、政策や交渉の説明を丁寧に各国に確認を取りながら進めていきました。

(妻鹿くん)

 

 

会議を進める上で一番大変だったのは、賛成してくれる国を集めることです。今回の会議はとにかく時間が少なく、また、決議案を提出するために必要な国数が15か国以上と非常に多かったことから、より多くの国にグループの意見を発信していく必要がありました。一概にグループの意見を発信といっても、自分の意見を言っているだけでは相手も受け入れることができませんので、まず相手の意見をしっかりと聞くようにして、それを受けて意見や考えを言うように心がけました。

 

また、信頼関係も非常に大事でした。2日間同じ議場で共に話し合いを行っていく仲間たちに不信感や疑念を持たれてしまってはその後の議論が滞ってしまいます。逆に遠慮して他の国と交渉しないのも、その後の会議進行に支障が出てしまうため、互いの国で疑問点や不安な個所が残らないように積極的に交渉していくように心がけていきました。(後藤くん)

 

■皆さん自身は、「死刑モラトリアム」についてどのような考えを持っていますか。また、それは今回の担当国の立場とどのような点が同じ(あるいは違う)でしたか。

 

私は、何度も死刑モラトリアムについて考えさせられましたが、死刑モラトリアムに対して明確に是か非かという結論は出せませんでした。なぜなら、廃止派の掲げる意見が絶対的に正しいというような根拠はどこにもないし、かといって存置をする絶対的に正しい根拠もないからです。

 

例えば、同じ人権という考え方をベースにしたとしても、廃止派のように「いかなる生命も奪われてはならない」として個人の生命権を強調するのか、あるいは存置派のように「死刑によって守られる命がある」として集団の生命権を強調するのかは、人それぞれです。

 

特に私は、ボツワナという存廃どちらとも通じるものがある国を担当したこともあって、どちらの考えも調べ、私なりに理解したつもりです。しかし、私にはそれらの意見が主観的な部分に結局帰依してしまえるように思えて、自信をもってどっちだと言うことは不可能でした。

 

ただ、現状として存置・廃止は、双方ともお互いの意見に寄り添おうとする姿勢が薄いように思います。特に死刑存置国の日本において、死刑はまったく身近な問題ではありません。この無関心こそが結局日本の外交において、文化を理由に死刑についての交渉を避けるという事態を招いているのかと思いました。一度、死刑について国民に投げかけ、認識を深めることで、国も国民の実情と国際的潮流との板挟みから脱出できるのではないでしょうか。また廃止派にしても、主義が違う他国に対して人権一辺倒の外交を継続するのではなく、現実の国際会議でもっと存置派の意見をすくう努力を行っていくことこそが、本当の意味での合意に至るのではないでしょうか。

 

だから、ボツワナのように国民投票を通じて死刑に関する意見を国民に直接投げかけ、その結果に従って行動する姿は、民主主義を慕う私はあるべき姿だと考えます。しかし、今の私は絶対的な根拠がないために、意見を言う勇気はありません。だからこそ、様々な意見の理解に努め、慎重に自分の意見を形成していくことをこれからも努めていこうと思います。(妻鹿くん)

 

 

僕は「死刑モラトリアム」というものに対しては否定的な意見を持っています。特に、西洋が掲げる死刑廃止を前提とした「死刑モラトリアム」を行うということは、日本国内においては司法が出した判決を、本来執行するはずである行政が完全に無視することになるので、三権分立の状態が成り立たなくなると考えられます。つまり、日本において西洋が求める「死刑モラトリアム」を施行することは現実的ではない上に、他国からこれを勧められるというのは内政干渉に当たると考えられます。

 

この考えは担当国であったボツワナの意見に非常に近いと思います。ボツワナは、法定刑として死刑が残っている以上、国民の賛成なしには「死刑モラトリアム」ということは実現できないのです。

 

日本とボツワナに共通して言えることは「死刑モラトリアム」実施のためには国民の理解と賛成が必要だということです。しかし、「死刑モラトリアム」に国民が賛成なのであれば、おのずと死刑廃止にも賛成するようになると考えられます。そのため、日本で「死刑モラトリアム」を行う必要もなければ、現実的でないという観点から「死刑モラトリアム」には否定的なのです。(後藤くん)

 

■2日間の感想をお願いします!

 

会議の2日間は、本当にあっという間でした。迫る時間の中で一瞬とも気が抜けず、ただひたすらに、目の前のやるべき最善のことは何かを考えながら、選択と実行を繰り返しました。そんな中でも冷静さを欠くことなくボツワナ大使として行動できたのは、事前にリサーチとペアとの議論を重ね、理念を強く持って自信を失わずにいられたからだと思います。

 

また、本会議に臨めなかった仲間や、応援してくれた人たちが常に私に勇気を与えてくれました。48時間という時間の中で、自分の背負ってきたものをすべて発揮するのは、日常的に経験しないことなので本当に緊張しましたが、同じく熱意を持った全国からの大使とあの時間を共有し、その中で自分の信念を貫けたことは本当に誇りです。

 

最後に、あの2日間を振り返って、私たちを支えてくれた顧問と先輩方、両親、そしてなによりペアである後藤くんに感謝の念を覚えずにはいられません。本当にありがとうございました。(妻鹿くん)

 

 

2日間は緊張と焦りの連続でした。会議が始まる前を含め2日間は常に、この2日で今日まで行ってきたリサーチや政策立案の結果が出てしまうと思い、また、ボツワナという一国の大使を背負ってこの場で交渉していくんだと思うと非常に緊張しました。

 

さらに、会議中は時間の無さや不測の事態の対応をするなどで終始焦ってしまいました。結果として2日間は気が付いたら終わっていました。人生で数回しか立つことができないこの場が流れるように終わっていってしまったことは内心非常に残念でした。特に終わった後は、あと3日間ぐらいやっていたいという気持ちでいっぱいでした。そのぐらいの気持ちになるほど、全日本高校模擬国連大会はやりがいのある大変楽しい大会でした。

 

大会まで熱心にリサーチを行い、それぞれの大使が担当国に対して誇りを持ち、交渉を行うのは当然ですが、僕には普段の会議とはまったくレベルの違うものをこの会議に感じました。そのような会議を経験することができた事は何よりもうれしかったですし、貴重な経験になりました。このような貴重な経験ができたのも、ここまで一緒に長い間やってきた妻鹿くん、そして多くの方々の支えがあったからだと思います。

 

最後に、この大会に関わったすべての方、本当にありがとうございました、そして2日間お疲れさまでした。(後藤くん)

 

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