2016ひろしま総文 自然科学部門

通説は本当か?! 大河アマゾンの白と黒の支流の水が混ざらず流れ続ける「ワケ」に迫る

【物理】滋賀県立虎姫高校科学探求部

左から 中澤侑也くん(3年)、津田惇くん(3年)、田中亨汰くん(2年)、中川怜那さん(3年)
左から 中澤侑也くん(3年)、津田惇くん(3年)、田中亨汰くん(2年)、中川怜那さん(3年)

■部員数

8人(うち1年生4人・2年生1人・3年生3人)

■答えてくれた人

田中亨汰くん(2年)

 

並行する水流の混合要因

二本の川が混ざらないのは本当に「流速」と「水温」なのか?という疑問

私たちはあるウェブサイトで「異なる色の川が合流後も混ざり合うことなく流れる」という現象について知りました。特に、アマゾン川支流のソリモンエス川とネグロ川は、合流後約6キロメートルにわたって混ざらずに流れるということを知り、興味を持ちました。

インターネットでその要因を調べたところ、二つの川は流速と水温が違うために混ざらないとありました。これについて私たちは疑問を抱き、その真偽を確かめるために実験することにしました。

 

まず、「川が混ざり合う」要因は一般に下図の5つが挙げられます。

このうち、流速や水温の差が影響する要因は“拡散”と“乱流”の二つです。

 

拡散については、川というマクロなスケールでは影響を無視しても良いのではないかと考えました。また乱流については、流速や水温に差があれば乱流が生じやすく、逆に混ざりやすいのではないかと考えました。

 

したがって、流速や水温に差が生じれば、川が混ざりにくくなるのではなく、逆に混じりやすくなるのではないか、と仮設を立てました。

 

原因は「流速」なのか「水温」なのかを実験で見極める

 

この仮説を検証するために3つの実験を行いました。

実験1 流速と温度が同じ2つの水流の混合具合

実験2 流速だけが異なる場合の混合具合

実験3 水温が異なる場合の混合具合

 

実験はこの図のように、アクリル板で制作した川の模型を使用しました。模型の上流50㎝までは仕切り版で二つの水流を区切り、それ以降は混ざることができる仕組みになっています。

 

水を送り込むのにはサイフォンの原理を使用し、水槽の高さを変えることで流速の調整を行いました。サイフォンの原理とは、現地点以上に高い所を経由するとしても、液体は高いところから低い所へ移動するという性質です。

 

片方の水流は食紅で赤く染め、混ざり具合は合流地点から距離の異なる4点で採取した水を分光光度計によって506nm波長(食紅が最も強く吸収する波長)の吸光度によって測定しました。吸光度とは、その波長の光が物体によって吸収される比率のことです。

 

実験1、両側の流速と温度が一定であるときの結果です。

 

縦軸は着色率です。原液の吸光度を100%としたときの比を表します。横軸は合流地点からの距離です。黒いバーは、95%信頼区間というエラー幅です。

 

下流になるにつれて混合しているように見えますが、有意な差ではありませんでした。また、完全に混ざったと仮定すれば左右どちらも50%の混合率となるはずですが、そのような結果とはなりませんでした。

 

次は、両側の流速を同時に変えて実験しました。上のグラフが先ほどのグラフで、下の左右にあるグラフがより速い流速、より遅い流速で実験したものです。やはり優位な差は確認できず、「流速や水温が同じでも混ざりやすいとは限らない」と考えました。

 

続いて、実験2です。

二つの水流に速度差がある場合とない場合について実験しました。速度差が8.5cm/sの時の実験結果です。

 

こちらの右側のグラフでは、着色率はむしろ速度差がある方が下がっているように見えますが、左側の着色率の上げ幅には有意な差は認められませんでした。

 

 

そこで、速度差をさらに大きくして実験しました。

 

前回の約4倍の34.9cm/sの流速差をつけて実験したときの結果です。300㎝下流の地点ではほぼ着色率が同じなので、完全に混合したと言えます。むしろ速度差があるほうが混ざりやすくなったと結論づけました。

 

そこで、なぜ流速が異なると混ざりやすくなったのか考察しました。

 

流速が速い水流は、流量が多くなります。そのため、合流した後に流量が少ない水流の方へと広がりつつ流れます。そのために混ざりやすくなると考えました。

 

写真は、合流後の水路の一部です。写真上側から下側に流れていますが、確かに水流の速い透明な水が、遅い食紅水の方へと広がっています。

 

最後に、実験3です。水温が異なる二つの水流の混合実験を行いました。

 

1.8度、5.7度の温度差をつけたときは、優位な差が認められませんでした。しかし、13.7度の温度差がある水流で実験したときは、混ざりやすくなりました。このことから、温度差はむしろ二つの水流を混ざりやすくしていると考えました。

 

これは、高温の水は膨張するので密度が低くなり、上に回り込むのに対して、低温の水は下に回り込むため、水流に対して左右方向に水を動かすためと考えられます。

 

通説に疑問を持つことが実験につながる

 

以上の実験により、二つの水流の流速が異なる場合と水温が異なる場合それぞれにおいて、インターネットの事前情報とは異なり、混ざりにくくなるどころか、混ざりやすくなることがわかりました。したがって、ソリモンエス川とネグロ川が混ざらない要因として、流速や水温の差が挙げられているのは適切でないと結論づけました。

 

今後の研究では、どのような要因によってこの二つの川の水が混じり合わないのか、明らかにしたいと思います。

 

■研究を始めた理由・経緯は?

 

インターネットで調べ事をしていると、合流しても混ざらない2色の河川という趣旨の記事を見つけました。どんなものか気になったので、記事を見てみると、確かにある程度の距離を2色の水が混ざらないまま流れていました。その中でも、アマゾン川が合流後6kmの間、混ざらずに流れるという現象に興味を持ち、研究を始めました。

 

■今回の研究にかかった時間はどのくらい?

 

週におよそ9時間の活動を6ヶ月ほど行いました。

 

■今回の研究で苦労したことは?

 

水槽の中から、一定量ずつ水を流すという工程があったのですが、水位差による水圧を用いて水を流していたので、水槽の水位を一定にする必要がありました。その調整に苦労しました。

 

■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?

 

スライドの図やグラフに必要最低限のアニメーションを付け、わかりやすくした点です。

 

■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究

 

多くのウェブサイトを参考にしました。

・MsBurichan 「アマゾン川 ~ソリモンエス川とネグロ川の合流点~ 」

 https://www.youtube.com/watch?v=0TF9GgB8s00

・株式会社ミンキュア「川と川が交わる時、2色のコントラストが生まれる。世界12の驚くべき下線合流点」

 http://karapaia.livedoor.biz/archives/52089673.html

・「流体力学講話・つまみ食い(その1)」

 http://hb3.seikyou.ne.jp/home/E-Yama/Fluid.pdf

 

■今回の研究は今後も続けていきますか?

 

先輩たちは毎年カスミサンショウウオの研究をしていたので、次のテーマはカスミサンショウウオを使った生物分野の実験をしたいです。

 

■ふだんの活動では何をしていますか?

 

カスミサンショウウオの調査や保護飼育をしています。他には「科学の祭典」という子どもたちに科学のおもしろさを体験してもらうイベントに参加したりしています。

 

■総文祭に参加して

 

去年の「びわこ総文」にも、先輩たちは出場していたので、まさか2年連続で出場できるとは思ってもいませんでした。出場校の研究を聞いて、自分たちはまだまだ未熟だと思い知らされました。他校の良い所を取り入れ、自分たちも成長していくぞ!と思わされる総文祭でした。

 

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