2016ひろしま総文 自然科学部門

貝化石が語る太古の海面変動のプロセスを明らかに!

【地学】新潟県立新潟中央高校地学部

左から、皆川夏凛さん(3年)、石山江莉さん(3年)、水野優里さん(3年)、穴田萌笑さん(3年)
左から、皆川夏凛さん(3年)、石山江莉さん(3年)、水野優里さん(3年)、穴田萌笑さん(3年)

■部員数

27人(うち1年生10人・2年生10人・3年生7人)

■答えてくれた人

穴田萌笑さん(3年)、皆川夏凛さん(3年)

 

小出川(こいでがわ)貝化石の謎を追え!~貝化石群集の磨耗度・捕食孔から探る堆積環境

同じ地点から様々な状態の化石が産出するのはなぜ?

 

ここ数年、私たち地学部では新潟県新発田市菅谷周辺の地質調査を行っています。調査地点周辺には第三期中新世~鮮新世の堆積岩が分布し、多数の貝化石が含まれています。貝化石には著しく摩耗したもの・全く摩耗していないもの・巻貝の細い先端まで綺麗に残っているもの・捕食孔があるものが混在していました。このように様々な状態の化石が同時に産出することに疑問を持ち、当時の堆積環境を探ることにしました。

 

調査地点とその地質図は、下のスライドに示す通りです。


はじめに、野外調査として貝化石の採集を行いました。小出川(こいでがわ)右岸の露頭で化石を含む砂岩をブロック状に採集し、室内でクリーニング作業を行いました。

次に、化石の様子を調べてまとめ、図鑑や文献などを用いて鑑定しました。現生種については生息緯度・深度・底質などを調べました。この鑑定には上越教育大学の天野和孝教授のご協力をいただきました。その結果、下のスライドにまとめたような種が産出されました。

いずれも保存がよく、巻貝は殻頂まできれいに保存されているものが多かったです。産出した各化石の生息環境をもとに堆積年代・生息緯度・深度等を決定し、殻表面の違いを比較して考察しました。

 

まず、絶滅種の生息年代を調査した結果、この地層の堆積年代は鮮新世~更新世であると推定できました。

 

次に、生息環境について調べました。生息環境の分析には、積み重ね図を用いました。積み重ね図とは、図のように各種が生息し得る環境を左から積み重ねてグラフにしたもので、もっとも重なった部分が多いところを堆積時の環境と考えます。

この積み重ね図を用いて、生息深度と生息緯度について分析したところ、下の図のようになりました。

このことから、堆積時の深度は50mより浅いことがわかりました。また、緯度については、北緯38度~40度に最も大きなピークがあることと、累積した貝の種数も北側に多いことから、現在の緯度より少し北の北緯40度付近に相当する環境であったと考えられ、比較的冷たい海水の存在が推定できました。また、北緯33度~34度にも小さなピークが見られることから、北緯33度付近に相当する暖流の影響も受けていたと推測できます。

 

化石表面の摩耗や捕食痕から見えてくること

次に、化石表面の様子から当時の環境を推定しました。

 

大きな特徴は二点あります。一つは、ひどく摩耗している貝と摩耗の少ない貝が混在していることであり、もう一つは殻の表面に捕食孔がある貝とない貝があることです。

まず摩耗の有無について、二枚貝と巻貝に分けて割合を調べました。すると、グラフで示すように二枚貝に比べて巻貝は摩耗している割合が小さいということがわかりました。

 

次に、摩耗している貝化石の割合を生息緯度ごとに分類しました。すると、南に生息する貝ほど摩耗していることがわかりました。

 

二枚貝と巻貝の緯度分布についてデータをまとめると、北緯40度付近での共通のピークに加え、二枚貝は北緯34度付近にもピークが見られました。

また、二枚貝と巻貝の生息深度についてまとめると、スライドのように、二枚貝は浅い海底に生息している割合が高い一方で、巻貝は幅広い深度に分布していることがわかりました。

次に、捕食孔についてのデータをまとめました。捕食孔があいている貝は摩耗が少なく、北緯31度~45度に多いこと、また二枚貝に比べると巻貝の方が捕食孔のある割合が高いことが明らかになりました。

化石に刻まれた寒冷化と海面変化の痕跡

 

以上の調査結果をもとに、結論を述べます。

 

採集場所の堆積年代は鮮新世~更新世であり、貝化石の生息緯度は最終地点より少し北寄りの北緯38度~40度でした。また、北緯34度付近にもピークがあったことから、暖流の影響も見られました。

 

貝化石群衆は、主2つの生息域で構成されていることがわかりました。1つは二枚貝を主体とする水深10~30mに生息していたグループで、暖流の影響を受けた他生的なものであり、寒冷化に伴う海面の低下によって死滅したと考えられます。また、そういった貝は摩耗し、二次堆積したと考えられます。もう1つは50m以深に生息していた巻貝を主体とするグループで、捕食孔が多く摩耗も少ないことから、現地に生息していたものであると考えられます。

 

この分析をもとに、当時の堆積状況を説明します。


まず、寒冷化前に暖流系の二枚貝を主体とする貝が生息していました。寒流化に伴う海面低下でこれらが死滅すると、波にもまれて海底で摩耗しながら、巻貝を主体としたグループが生息するより深い海底に堆積しました。これにより、生息環境の異なる種が同時に化石として採集されたものと考えられます。

 

このようにして、当時の堆積環境を推定することができました。

 

■研究を始めた理由・経緯は?

 

ここ数年私たちの部活動では新潟県新発田市菅谷周辺の地質調査を行っていましたが、その地点での本格的な研究は行っていませんでした。ですが、研究グループメンバーの出身地でもあったことから、彼女の強い希望で深く調査することになりました。その際に発見した露頭から貝化石を発見し、状態の悪いものと良いものが混在したため当時の堆積環境はどのようであったか調べ始めました。

 

■今回の研究にかかった時間はどのくらい?

 

この地点の調査をくわしく調べ始めたのは2年くらい前からです。学校がある日は1日あたり2時間ほどで、長期休暇では1日あたり5~6時間ほど活動しました。

 

■今回の研究で苦労したことは?

 

私たちの行った研究は実験することができないのでデータとの戦いでした。貝の種類も個数も多かったため、夏の暑い中ずっとパソコンとにらめっこしたり、分類をしたりと大変でした。また、このデータは何が言えるのか悩んでいることが多かったと思います。

 

■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?

 

発表までは、聞きやすさと見やすさを重視しました。私たちはこれまでの発表で、ここがわかりにくいなど、多数の質問や意見をいただきました。そのことを生かし、ここを見てほしいと思ったら、矢印をつけて書きこみ、聞いている人がわかりやすい説明になるようにスライドにかかれている言葉を簡単な言葉にしたり、強弱をつけて話せるようにしたりして、工夫し、練習しました。最後の結論では、図に動きをつけて説明しました。これまでの研究を簡潔によりわかりやすくなうようにまとめられたらと思うので一番見てもらいたいと思います。

 

■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究

 

・『化石の研究法―採集から最新の解析法まで―』化学研究会編(共立出版株式会社)

・『新潟県地学のガイド(上)新潟県西部の化石をめぐって』天野和孝、菅野三郎(コロナ社) 

・『新発田市菅谷地区に産出する貝化石群集について 新潟県教育センター長期研修報告』安村邦彦

・『貝化石の調べ方』地学ハンドブックシリーズ・7  地学団体研究会

・『新潟県地質図説明書(新潟県2000年版) 』(野崎印刷)

・フィールドベスト図鑑『日本の貝〈1〉巻貝』『日本の貝〈2〉二枚貝・陸貝・イカ・タコほか』奥谷喬司(保育社)

・『原色日本貝類図鑑』『続原色日本貝類図鑑』(保育社)

・『下総層群産貝化石図鑑』黒住耐二 監修、渋谷正通・三谷豊・ 南波鑑四郎・野中義彦 著(地学団体研究会)

 

■今回の研究は今後も続けていきますか?

 

今回の総文祭で私たちは引退します。ですから、今後、後輩たちがこの研究に興味を持ってくれたらぜひ続けてほしいと思います。

 

■ふだんの活動では何をしていますか?

 

春、冬は校内で、夏は校外で天体観測をするための合宿、秋は文化祭でプラネタリウムを上映したり、地学に関係するものを作って展示したりしています。また年間を通して、新潟県内各地の地質巡検も行っています。

 

■総文祭に参加して

 

「総文祭」という文化部にとっての全国大会に出場できると決まった時は、まさか私たちが出場できるとは思ってもいませんでした。更に優秀賞という素晴らしい賞をいただけて、今まで心が折れそうなときに諦めずに研究を続けてきて本当によかったなと思いました。

 

新潟中央高校の発表は、地学部門の優秀賞を受賞しました。


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