2016ひろしま総文 自然科学部門

毎日使うセッケン、泡立ちや汚れ落ちに影響を与えるものは?

【化学】滋賀県立彦根東高校SS部化学班

左から 伊藤嘉宏くん(2年)、蚊野佑亮くん(3年)、藤森春佳さん(3年)、福永一生くん(2年)
左から 伊藤嘉宏くん(2年)、蚊野佑亮くん(3年)、藤森春佳さん(3年)、福永一生くん(2年)

■部員数

16人(うち1年生2人・2年生12人・3年生2人)

■答えてくれた人

蚊野佑亮くん(3年)、藤森春佳さん(3年)

 

セッケンの性質

私たちが日ごろ使うセッケンを、化学的に紐解きたい!

ふだん私たちが使っているセッケンは、化学的に見ると高級脂肪酸のナトリウム塩です。

 

高級脂肪酸というのは、長い炭化水素基の端にカルボキシル基がくっついた構造のことを言います。動植物界に、油脂、蝋などの形で広く存在します。

 

この高級脂肪酸の中で、カルボキシ基の部分は水となじみやすい一方で、炭化水素基の部分は水となじみにくい性質を持ちます。一つの分子でこうした異なる性質を持つ部分があることを生かして、セッケンは油などの汚れを取る働きをしています。 

私たちは以前の実験で、オリーブオイルを用いてセッケンを作ってみたものの、泡立ちませんでした。そこで、高級脂肪酸の種類と、セッケンとしての性能の関係に興味を持ち、研究しました。

  

今回の実験では、次のものを使用しました。

・ミリスチン酸

・パルミチン酸

・ステアリン酸

・オレイン酸

・リノール酸

・リノレン酸

それぞれの分子式と不飽和度は、スライドのとおりです。

 

そこで、ミリスチン酸・パルミチン酸・ステアリン酸の3つを比べることで炭素数による変化を、オレイン酸・リノール酸・リノレン酸の3つを比べることで、不飽和度による変化を調査できるように工夫しました。 

セッケンを4つの観点から評価する実験を実施 

実験方法を説明します。

 

高級脂肪酸を水酸化ナトリウムと反応させます。そこに飽和食塩水を加えて、固形物を濾しとることで、セッケンを作成しました。セッケンとしての性能を、今回は以下の4つの観点で測定することにしました。

・pH

・洗浄力…ガーゼにトマトケチャップと墨汁を染み込ませて、それをセッケン溶液の入ったビーカーに入れて5分間かき混ぜ、どれだけ汚れが落ちたかを目視で確認しました。

・泡立ち…ピストン(100mlメスシリンダーを使いました)の中に空気を送り込んで、泡が100mlの線まで上がる時間を調べました。泡立ちがいいほど時間は短くなります。

・泡立ちの持続性…泡が30mlの線に下がるまでの時間を調べました。持続性が高いほど時間は長くなります。

 

サンプルとして、校内にあったレモン石鹸を使って比較しました。 

結果は次のようになりました。

 

炭素数が上がるにつれて泡立ちは悪くなりますが、持続性は向上しました。また、不飽和度が異なる脂肪酸同士を比較すると、不飽和度が上がるほど、溶解性が向上しました。 

その原因を次のように考察しました。

 

まず、泡立ちの悪さについては、疎水基(原子グループの中でも水を嫌い、油との親和性の大きいもの)が大きくなるので、溶解性が低下したからです。

 

その一方で、泡が消えるのは、上部の水が下に流れる「排液」という現象が原因なのですが、分子が大きくなるほど立体的な反発が大きくなるため、排液が抑圧されて泡立ちが持続したと考えられます。 

続いて、不飽和度が上がるにつれて溶解性が上がる原因を次のように考察しました。

 

不飽和度が大きくなると、分子に折れ曲りが生まれるため、全体として丸っぽい形になります。結果、分子の表面積が小さくなります。すると、隣り合う分子同士で接触する面積が小さくなるため、分子間力が小さくなり、水に溶解しやすくなったと考えられます。 

市販のセッケンは、複数の脂肪酸からなる混合脂肪酸から作られています。私たちは、混合脂肪酸で作成したセッケンについても同様に評価し、含まれている単一脂肪酸の割合や性質がどのように影響しているのかを、調べました。混合脂肪酸の割合および評価結果は下表のとおりです。

混合脂肪酸に含まれる脂肪酸の影響をわかりやすくすることを目的に、5段階評価を行いました。結果は下表のとおりです。オリーブ油・なたね油はオレイン酸のセッケンの性質に近く、ゴマ油はオレイン酸とリノール酸のセッケンの中間の性質を示しました。 

今後は市販油でのセッケン作りと評価を!

それぞれの混合脂肪酸の性質は、含まれる割合の多い単一脂肪酸の性質に似ていることがわかりました。

 

今後は、今回設定した様々な評価基準すべてについて、いい評価を下せるようなセッケンを作ることを目標に研究を進めていきたいです。 

 

■研究を始めた理由・経緯は?

 

過去に部活動でオリーブ油とパーム油を用いてセッケンを作成しましたが、一般のセッケンのようには泡立ちませんでした。ここで、原料となる高級脂肪酸とセッケンの性質にはどのような関係があるのかと疑問を持ち、研究を始めることにしました。

 

■今回の研究にかかった時間はどのくらい?

 

1日あたり1~2時間で2年くらいです。

 

■今回の研究で苦労したことは?

 

セッケンがうまくできないときがあったことと、セッケンの評価時、条件を極力同じにすることです。

 

■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?

 

単一脂肪酸のセッケンの比較を、炭素数や不飽和度の違いによって比較したこと、セッケンを高校の実験室にある器具で評価を行ったことです。

 

■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究

 

・『やさしくできる手作り石けん入門』アン・ブラムソン著(合同出版)

・『高校化学』(東京書籍)

・『サイエンスビュー化学総合資料』実教出版編修部(実教出版)

・『表面張力の物理学』ドゥジェンヌ、ブロシャール-ヴィアール、ケレ:共著 奥村剛: 訳(吉岡書店)

 

■今回の研究は今後も続けていきますか?

 

混合脂肪酸のセッケンの洗浄力の観察や評価を行い、混合脂肪酸のセッケンの性質の現れ方を考察してみたいです。そして次にこの評価を基に、脂肪酸の混合割合をどのようにすれば、より性質のよいセッケンができるかを検証してみたいです。

 

■ふだんの活動では何をしていますか

 

様々な実験を通じ、より多くの人に化学のおもしろさを伝えることを意識しています。

 

■総文祭に参加して

 

今回の広島総文祭での発表は、緊張したせいで思い通りの発表はできませんでした。しかし、全国の生徒の前で自分たちの研究を発表することは滅多にできないので、総文祭に出場できただけでも十分うれしいです。他の高校の研究なども知れてよかったです。

 

また、昨年滋賀で開催されたびわこ総文でスタッフをさせてもらい、今年の広島では代表として出場させてもらって、総文祭の受け入れ側と出る側の両方を経験できたので、自分にとってとてもよい経験になりました。

 

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