2016ひろしま総文 自然科学部門

従来よりも早く・安く・詳細な酸濃度の測定法を紹介します!

【化学】大分県立大分上野丘高校化学部

左から 園田詩歩さん(2年)、藤原有希さん(2年)
左から 園田詩歩さん(2年)、藤原有希さん(2年)

■部員数

39人(うち1年生21人・2年生12人・3年生6人)

■答えてくれた人

藤原有希さん(2年)

 

酸濃度の簡易測定方法~ガラス繊維濾紙を展開する酸溶液~

ガラス繊維ろ紙の「塩基性酸化物」に注目

ガラス繊維ろ紙は、身近なところではエアフィルターなどに使われています。電子顕微鏡で観察すると、写真のように微細なガラス繊維が見られます。さらに、元素分析を行うと、SiO2(二酸化ケイ素)やNa2O(酸化ナトリウム)などの塩基性酸化物を含むことが確認されました。 

この塩基性酸化物は、水と反応して強塩基性を示します。実際、フェノールフタレイン溶液を滴下すると、瞬時に赤色を呈しました。 

酸濃度の測定に用いられる従来の中和滴定法は、塩基の安定性に欠けるため低濃度の測定には向きません。また、多くの器具を必要とし、手順も煩雑です。そこで、今回の研究では、このガラス繊維ろ紙を用いて、酸濃度の新たな測定方法を開発することを目的としました。

 

まず、溶液の酸濃度の違いによって展開速度が異なるのではないかという仮説を立てました。

 

下図のように、ろ紙の先端を5mmだけ酸溶液に浸した状態にすると、酸溶液が毛細管現象でろ紙を上昇していきます。ある時間において、酸溶液が達している最も高い点を「展開最前線」とし、ろ紙の下端から展開最前線までの距離をLとします。

結果はこちらです。

 

ある時間における展開距離は、酸濃度にかかわらずほぼ同一でした。仮説は違っていましたが、酸濃度によらず展開速度が一定であることがわかりました。 

次に、展開された酸溶液の最前線には、中和によって生じる水の層が存在するのではないか、という予想を立てました。そこで、酸塩基指示薬を加えて展開すると、下のように二層に分離しました。

 

色の違いから、上部に中和による水の層が、その下に酸溶液の層ができたと考えられます。ここで、上部の水層の距離をHとします。 

このHの距離が酸濃度によって変化する、つまり濃度が高いほど中和反応が起こりやすく、Hが長くなると予想しました。

 

しかし、予想に反し、濃度が高いほどHが短くなりました。これは高濃度の酸ほど水分子に置き換わりにくいためだと考えられます。グラフにまとめると、下図のようになりました。 

実験結果をモデル化してみると…

こで、展開距離Lに対するHの比をRnと定義しました。そして、一定時間tの間に距離αだけ展開するモデルを考えました。時間βtの間に距離αβだけ展開します。

下図のように段の構造を考えました。時間tの間に反応が1段進み、1段を満たす酸と塩基の数をそれぞれNH、NOHとします。

(1)塩基と酸が中和して水を生成する反応は最上段で起きる。この段全てを中和する時間は

(NH/NOH)t

となります。次の展開に中和は起こらず、水の層を1段形成する単位時間は

(NH/NOH)t+t

となります。この時間が展開時間βtにどれだけ含まれるかでHを求めることができます。 

Rnの値をNH、NOHで表したのが、下図の左上の式です。

 

ここで、NH、NOHは1段あたりの分子数なので、酸濃度(Cacid)とガラス繊維ろ紙の塩基濃度(Cbase)に置き換えることができます。さらに、ガラス繊維ろ紙の塩基濃度は一定であることから、Rnは酸濃度を変数とする一次分数関数で表すことができます。 

ここまでの検証で、Rn値は理論上、ガラス繊維ろ紙の塩基濃度と酸濃度のみによって決まることになりましたが、実際に時間に左右されないかを確認しました。

 

実験結果より、展開時間によらず同一酸濃度では展開距離は一定であることがわかりました。

次に、酸濃度と展開距離Rn値の関係を求めました。これを検量線とすることで、濃度がわからない酸溶液の濃度を求めることもできます。

 

グラフの形状からもわかるように、濃度が非常に低い場合でもRn値の変化が大きいため、従来の中和滴定法が苦手とする低濃度の酸溶液の濃度測定に適しています。濃度が高い溶液についても、10倍希釈、100倍希釈などすることによって計測可能です。 

ここで、理論上一定であるとしていた、ガラス繊維ろ紙塩基濃度(Cbase)について考察しました。下図の左上のRnの式を用いると、濃度既知の酸溶液を使い、Rn=H/Lの値を測定することで、Cbaseを求めることができます。ろ紙の種類も変えて検討したところ、CbaseはlogCacidの一次関数で表されることがわかりました。それが(2)式です。

 

a(傾き)とb(切片)はガラスろ紙の種類によって決まる定数ですので、事前の補正が可能です。

ここで、Rnをf(x)の関数と見ると、f(x)は二階微分が正であることから、下に凸な関数です。そこで、下図のように、x座標がxより小さい適当な点(xm,f(xm))での接線とy=Rnの交点のx座標をxm+1とします。すると、xnのnの値が大きくなるにつれて、xnは単調に増加し、求めるべき値xに収束します。

特許も取得、産業界での応用も期待できる!

結論です。

 

ガラス繊維ろ紙を展開した酸溶液は、上段に中和によって生じたH2O層、下段に酸溶液層を形成し、その長さの比Rnは展開時間に依存せず、酸濃度によって決まる固有値であることがわかりました。そしてスライドに示した式を用いて、測定したRnの値をもとに、ニュートン法によって酸濃度を決定できます。 

この方法を用いることで、中和滴定法では困難だった低濃度の酸溶液の測定が可能になります。また、体積の測定が距離に置き換わり、短時間で容易に測定ができます。さらに、自動滴定装置などの機器を使うよりも低コストで測定が可能です。現在様々な産業で行われている酸濃度の測定に、この方法が実用化されることを期待しています。

 

■研究を始めた理由・経緯は?

 

先輩方の「イオン泳動」に関する研究において、様々な種類のろ紙にふれる機会があり、その中で塩基性を示すというおもしろい特性を持つガラス繊維ろ紙のことを知ったことがきっかけです。

 

■今回の研究にかかった時間はどのくらい?

 

平日1時間、休日5時間で、週2日、4か月です。

 

■今回の研究で苦労したことは?

 

再現性のあるデータであることを確かめるために、同じ実験を何度も行ったこと。

 

■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?

 

検量線から酸濃度を求めることを可能にしただけでなく、理論的に実在状態の関数を数学的に表したことです。様々なガラス繊維ろ紙でRnを測定できるよう普遍化することができたのは大きいと思います。

 

■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究

 

直接的に参考にしたものはありませんが、Rnを定義する際に色素分離に用いられるペーパークロマトグラフィーのRf(Rate of flow)を参考にしました。

 

■今回の研究は今後も続けていきますか?

 

今回の研究を部活の主要研究として続けることはあまり考えていませんが、展開する酸溶液の濃度に対して、ガラス繊維ろ紙塩基濃度がある法則性を持って変化するようにふるまうことは非常に興味深く、機会があれば研究したいと思います。

 

■ふだんの活動では何をしていますか?

 

4・5月から10月の県大会までは研究を行い、その後プレゼンの準備、練習を行いながら、次の研究テーマを探しています。

 

■総文祭に参加して

 

3連覇がかかる大会でプレッシャーは非常に大きかったですが、練習の成果を発揮し、研究のよさを十分に伝えることができてよかったです。今後の、私たちの研究が社会で役立てられるようになれば喜ばしい限りです。

 

※大分上野丘高校は、化学部門の最優秀賞を受賞しました。

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