2016ひろしま総文 自然科学部門

立ちはだかる壁と戦う!新しい再生可能エネルギー

【化学】東京都立科学技術高校科学研究部

左から 石塚翔くん(3年)、中島康太郎くん(3年)、関野崇晃くん(3年)
左から 石塚翔くん(3年)、中島康太郎くん(3年)、関野崇晃くん(3年)

■部員数

71人 (うち1年生33人・2年生19人・3年生19人)

■答えてくれた人

中島康太郎くん(3年)、

 

セルロースからのエタノール生産に関する研究

代替エネルギーの切り札、バイオエタノール

石油に代わるエネルギー源として期待が高まるバイオエタノールは、生物由来の資源であるバイオマスを発酵させ、蒸留することで得られます。

 

再生可能な自然エネルギーであることや、燃焼によって大気中の二酸化炭素(CO2)量を増やさない点から、将来性が期待されています。

 

私たちがふだん耳にするバイオエタノールは、サトウキビやトウモロコシなどから作られる、いわゆる「第一世代」のものです。しかし、穀物を原料とするために食料との競合が起こり、食料価格の高騰につながるなどの問題となっています。

 

そこで注目されているのが、セルロースから作られる「第二世代バイオエタノール」です。

 

セルロースとは、植物の細胞の細胞壁の主成分で、紙の原料になります。食糧に適さない植物にも含まれています。

 

私たちは、身近な材料からエコなバイオエタノールを作ることを目指して、研究を行いました。

 

「第二世代バイオエタノール」の作成に向けて

セルロースからバイオエタノールを作る過程は、次の通りです。

1.セルロースを物理的に細かくする「粉砕」

2.粉砕したセルロースを糖(グルコース)に分解する「糖化」

3.糖(グルコース)を酵母によってエタノールと二酸化炭素に分解する「アルコール発酵」

4.エタノールの純度を高める「濃縮・蒸留」

糖化とは、高分子のセルロースを酸や酵素の働きによって低分子のグルコースに分解することです。このグルコースが次の段階の発酵で分解されてアルコールができます。

 

今回の研究では、3つの仮説に注目しました。

(1)セルロースの糖化には、硫酸などによる「化学的糖化」だけでなく微生物の持つ酵素セルラーゼの働きによる「生物的糖化」も可能ではないか

(2)葉や茎が固い=セルロースが多い植物の方が、実際に多くの糖を生成できるのではないか

(3)化学的糖化で、自然界に多く存在する有機酸を使う方が環境にやさしいのではないか

 

実験試料は、身近な草木から作ることを目標にしているので、学校の校庭で採取したキク科のセンダングサとタカサブロウ、イネ科のススキとエノコログサを使用しました。このうち、センダングサとタカサブロウは茎や葉が比較的やわらかいもの、ススキとエノコログサは茎や葉が固いものです。

 

まず、セルロースを硫酸で糖化しました。

 

手順はスライドの通りです。(6)で中和を行うのは、アルコール発酵を行う酵母が強酸の条件下で活動しにくくなってしまうことを防ぐためです。

 

ここで得られた糖化溶液について、ソモギー・ネルソン法で糖の定性定量分析を行いました。

 

同様の手順で有機酸でも糖化を行いました。今回使用したクエン酸・ギ酸・酢酸・シュウ酸は自然界にふつうに存在するものです。比較する無機酸とした塩酸と硫酸は、加水分解の論文などでよく使用されているものです。

 

結果です。まず、硫酸を使った際の植物の種類による糖化量を比較しました。

 

4種類すべてで糖を生産できること、そしてススキが糖化量が最も多いことがわかりました。これは、硬い葉のほうがセルロースを多く含み、糖化の結果多くの糖を生み出すからだと考えられます。

 

次に、酸の種類による糖化量の違いを調べた結果です。

 

有機酸ではシュウ酸が一番高く、硫酸や塩酸と同じくらいの量の糖を生成していますが、他の有機酸は低い値にとどまりました。

 

それぞれの酸のpHを測定したものがこちらです。先ほどの実験結果と対照すると、pHが低いもの、つまり強酸の方が多くの糖を生成していることがわかりました。これは、強酸のほうが効率的にセルロースの立体構造を破壊し、加水分解ができているからだと考えられます。

 

次に、生物的糖化について実験を行いました。使用したのは、微生物の持つ酵素・セルラーゼです。

 

ビーカーに試料を5g、米麹を2.5g入れて培養し、その後200mlの純水を入れました。純水・ペプトン・デンプンの組み合わせにより4つの培養条件を作りました。

 

条件1には純水のみ入れ、条件2には純水とペプトン、条件3には純水とバレイショデンプン、条件4には純水とペプトン、バレイショデンプンのすべてを入れました。なお、ペプトンは微生物の生育に必要な窒素源として、バレイショデンプンは炭素源として利用しました。

 

各条件での1日目と7日目の糖量は表のとおりです。

 

条件3を除き、糖量が減少したのは、微生物自身の消費によるものと考えられます。

 

条件3で減らなかったのはバレイショデンプンを先に消費したからだと考えらえます。

 

次に、糖化溶液をアルコール発酵させて、実際にエタノールが生成したかどうかを調べました。方法は図の通りです。

 

アルコール発酵の結果得られたものを、ガスクロマトフラフィを用いて分析しました。

 

ガスクロマトグラフィでは、カラムと呼ばれる小さい粒子の詰まった空間に気体を通すと、物質の種類ごとに決まった時間をかけてカラムから気体が出てきます。この時、標準試料との時間差が小さいほど、測定した物質は標準試料に近いと言えます。

 

化学的糖化によって得られた試料では、4種いずれの植物のものも、標準試料であるエタノールとの時間差は十分に小さかったので、エタノールが生成されたと考えられます。

 

微生物による糖化から得られた糖のアルコール発酵では、標準試料との差が大きかったため、エタノールは生成されなかったと見られます。

 

以上のことから、化学的糖化では硫酸により糖化に成功し、エタノールの生成が確認されたのに対し、生物的糖化では、微生物自身の消費などのために、得られた糖の量が少なすぎたため、アルコール発酵によるエタノール生成はできませんでした。

 

今後の研究として、微生物の培養条件の検討や、酵母の活用などについてもすでに検討を始めていますので、これらを通じて成功に近づけていきたいと考えています。

 

■研究を始めた理由・経緯は?

 

環境問題の解決につながる研究をしたいと考えていました。そこで、先輩が研究をしていたこのテーマを引き継ぐことでさらにデータを集めていこうと考え選びました。

 

■今回の研究にかかった時間はどのくらい?

 

1日あたり4~5時間を1年間実施。同様に先輩も行っていたため、通算すると2年間。

 

■今回の研究で苦労したことは?

 

分析結果の値がマイナスを取ってしまい、検量線がうまく引けないことがありました。また、実験のたびにガラス器具を多く使用するためその片づけに苦労しました。

 

■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?

 

セルロースの分解実験に用いた薬品では実験後の処理においても環境への負荷が小さくなるように、自然界にもある有機酸を使いました。さらに、微生物自体に分解をさせるなど環境への負荷を減らすように工夫をしました。発表では聞いてもらう人にわかりやすくするため声の大きさや話す速さに注意して行いました。

 

■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究

 

・「ヨシ群落を利用した湖沼の水質改善とヨシ等の有効利用技術(バイオマスエタノール等)に関する研究(第一報・第二報)」南部浩孝ほか (福井県衛生環境研究センター年報(第7巻・第8巻))

・「セルロース系バイオマスの粉砕処理と酵素糖化」川端浩二ほか(岡山県工業技術センター報告2010)

・「酵素の固定化および固定化した酵素の再利用適性」宮田直紀、藤島礼佳(『塗料の研究』No.152 Oct. 2010)

 

■今回の研究は今後も続けていきますか?

 

今回研究をしていて微生物に興味を持ったため、これからは微生物についての研究をしていきたいと考えています。

 

■ふだんの活動では何をしていますか?

 

科学研究部では「生物化学班」と「物理数学班」に分かれてそれぞれ研究をしています。生物化学班では昆虫に関する研究や水質浄化に関する研究などを行っています。「物理数学班」ではリニアモーターカーに関する研究や飛行機の翼に関する研究などを行っています。

 

■総文祭に参加して

 

私たちは2年生の11月に全国高等学校総合文化祭への出場が決まり、私を含めた5人で研究を続けてきました。今回の全国大会へ行くまでには実験の結果がきれいに出なかったり、研究班内での情報伝達がうまくいかなかったりといろいろな問題もありました。しかし、それらの問題を解決しながら進んでいくことで、問題解決能力を身につけることができました。また、発表の機会を増やし、経験を積んでいくことで自信や達成感を得ることもできました。この研究活動のおかげで高校生活がとても有意義なものとなりました。

 

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