2016ひろしま総文 自然科学部門

地元の名産品、焼酎から作る「酢」で過疎化の進む町を元気にしたい!

【化学】鹿児島県立福山高校科学研究部

■部員数

5人(2年生4人、3年生1人)

■答えてくれた人

米重大夢くん(3年)、永野優太くん(2年)、椎原達哉くん(2年)、山下恵実さん(2年)

 

焼酎から酢は作れるか 第2報

私たちの福山町が抱える課題が研究の動機

鹿児島県の福山町では少子高齢化、過疎化が大きな問題になっています。私たちの福山高校も、全校生徒130人の小さな学校です。

 

福山町の名産品はこの福山黒酢です。温暖な気候を生かした黒酢作りは江戸時代後期から行なわれており、学校の周りにも黒酢を作るための「あまん壺」がたくさん見られます。黒酢は過疎に悩む福山町の重要な産業であるとともに、貴重な観光資源にもなっています。

 

今回は、福山のもう一つの名産品である焼酎を利用して、新しい酢を作ることができないかという成功すれば世界初の研究を行っています。もし成功すれば町おこしや醸造業の活性化につながる可能性もあるのではないかという思いもあります。この研究は、多くの地元の企業などとも連携しています。

 

研究理解のために「酢に関する基礎知識」

今回の研究を知るための基礎知識を整理します。

 

酢は一般的に、醸造酒に酢酸菌を加えて酢酸発酵させることで生成します。

 

酢酸菌は膜を張って酢酸を作ります。この画像の水に浮かべたトイレットペーパーのような膜、これこそが酢酸菌膜です。これができれば酢の生成は成功ですが、2週間経つか破壊されると酢酸菌膜は沈んでしまい、失敗となります。

 

酢酸菌を培養し、酢酸を生成するには、そのための環境が整った培地が必要になります。本研究で使用する「基本培地」はこの図のような構成になっています。

 

酢酸菌は弱い菌であるため、雑菌対策が課題でした。

 

しかし酢自体に殺菌効果があります。そこで培地に酢を加え(これを「種酢」という)、濃度を1%にすることで産膜酵母以外の雑菌の繁殖を抑えることに成功しました。

 

産膜酵母とは、台所のヌメリの原因にもなる菌で、酢酸を消費すると同時に悪臭を放つ菌です。これについても、培地の酢の濃度を1.5%以上にすることで防げることがわかっています。

 

通常の培地に酢酸菌を入れると、酢酸が発生して酸度が上がります。しかし、酢酸の蒸発などによって酸度が低下し、長く放置すると産膜酵母が発生して悪臭を放つようになることがあります。

これを防ぐには、酸度が上がった時点でラップで密封し、適度に振動を加えることが必要です。

 

これは伝統的なつぼ酢作りで行われている、つぼを毎日かき混ぜる作業にヒントを得て考案しました。

 

本年度の研究「焼酎から新しい酢を作る」

 

ここからが今年度の研究です。プロセスはこの通りです。

1.前年度の研究を見直す

2.酒粕から、産業廃棄物である焼酎粕に変更する

3.種酢を福山黒酢に変更する

 

(1)最適な酸度はどの程度か

これまで、基本培地での種酢の濃度は1.0%が最適とされていましたが、これを検証するため、0.5%から2.5%まで、0.5%刻みに濃度を変えて実験をしました。

 

酸度の初期値が違うため、縦軸には酸度生成量をとりました。酸度生成量としては0.5%がもっとも良い結果を示しましたが、この濃度では雑菌が繁殖してしまったため、1.0%を最適値としました。 

(2)焼酎粕の最適値を調べる

現在では産業廃棄物となっている焼酎粕から、酢酸菌を培養できるのではないかと考えました。そこで、基本培地中の酒粕を、様々な量の焼酎粕に変えて実験を行いました。ここでは、大隈酒造さんに頂いた、液体の芋焼酎の焼酎粕を用いました。

 

酒粕と焼酎粕の大きな違いは、酒粕は固体状であるのに対し、焼酎粕は液体状であることです。組成はスライドに示すように、タンパク質、炭水化物、糖質が豊富なことが特徴です。 

焼酎粕を用いて行った酸度生成量のグラフです。

 

焼酎粕量が4ml以上では大差なく、蒸留水100mlに対して焼酎粕4mlで十分であることがわかります。この結果を用いて、以後の実験では、基本培地中の酒粕を4mlの焼酎に変えて実験を行いました。 

1年生の提案から生まれた新たな発見!

 

(3)種酢に使っていた醸造酢を福山黒酢に変えてみる

 

実はこれは当時の1年生の部員から出たアイデアで、これを聞いた時は目から鱗が落ちる思いでした。なぜこれまでの実験で用いなかったかというと、福山黒酢は通常の酢に比べて単位体積あたりの価格が10倍近く、高価だったからです。

 

なぜこれほど価格が違うのでしょうか。

 

醸造酢には、発酵時間に明確な規定がありません。一方で福山黒酢は、玄米を原料とし、温度管理がしやすい工場ではなく、露天に置かれたアマン壺という壺の中で平均して半年から1年、長いところでは5年をかけて発酵させます。江戸時代からの伝統的な製法を保っており、非常に手間がかかるのでどうしても高価になります。一般にアミノ酸などが豊富に含まれていると言われています。

 

種酢を福山黒酢としたもので実験を行いました。

 

培地の条件として、醸造酢か福山黒酢か、そして焼酎粕を有りにするか、なしにするかの計4通りで実験をしました。結果はスライドの通りです。

 

すると、福山黒酢であれば、本来栄養源であるはずの焼酎粕が「無くても」酸生成が可能であることがわかりました。これは醸造酢ではあり得なかったことです。 

そこで、福山黒酢と醸造酢の栄養分を実際に調べてみると、福山黒酢にあって醸造酢にないものは「タンパク質」だとわかりました。

 

このことから、「酸の先生にはグルコース濃度よりもタンパク質濃度が重要である」という仮説を立てて検証することにしました。

 

そこで、基本培地の焼酎粕の代わりに、たんぱく質としてポリペプトン0.14gのみを加えたもの、グルコース0.12gのみを加えたもの、何も加えないもので比較実験を行いました。

 

するとエタノールとポリペプトンのみで酸度が上昇し、酢酸菌の培養が可能であることがわかりました。 

そして最適なポリペプトンの濃度を探るため、基本培地のポリペプトンを0g~2gで変化させました。酸度生成量はほぼポリペプトン量に比例していることから、タンパク質のみで培養が可能であることが決定づけられました。 

ここで、種酢の最適な福山黒酢の濃度を考えます。

 

醸造酢の時と同様、0%~2.5%で0.5%刻みに濃度を変え、縦軸には酸度生成量をとりました。最大量は0.5%でしたが、雑菌の繁殖がありうるため、1.5%を最適としました。 

焼酎と焼酎粕から酢の生成に成功!

そしてついに、実際に焼酎から酢を作りました! 焼酎と焼酎粕から作った酢は、ツンとこないまろやかな味でした。また、焼酎と福山黒酢から作った酢は、黒酢風味の強い爽やかな味でした。 

こうして焼酎と焼酎粕から酢を作ることができました。これは今まで産業廃棄物として捨てられていた焼酎酢の新たな活路となる可能性を秘めています。また、焼酎と福山黒酢からも酢を作ることができました。この過程で、酢酸菌の培養を決定づけているのはタンパク質であることがわかりました。

 

今後は焼酎の銘柄や黒酢の種類による味の違いや、作成した酢の成分分析についても研究を進めたいと思います。また、酢酸菌が本当にエタノールとタンパク質だけで酢酸を生成できるのかについても、さらに詳細に検証したいと思っています。

 

■研究を始めた理由・経緯は?

 

顧問の先生から「日本酒は腐ると酸っぱくなり、酢のもとになる。なら焼酎から酢は作れるのか」と聞かれました。いろいろ考えた結果、「わからない」という決議になり、実際に研究をしてみることにしました。また、鹿児島県霧島市福山町は過疎化が深刻化しています。その福山町の名産品である黒酢と、鹿児島の名産品である焼酎から新しい酢を作れば、福山町の活性化になると思ったこともあり、研究を始めました。

 

■今回の研究にかかった時間はどのくらい?

 

始めたのは2年前、以来ずっと続けています。

 

■今回の研究で苦労したことは?

 

菌にも個体差があり、同じ結果からうまく出なかったことです。種菌を長く放置してしまい復活させるのに時間がかかったこともありました。部員が集まらない時などは2~3人で培地作りと測定など違う実験を同時進行して行ったため、実験器具の洗浄が多く出た点が大変でした。

 

■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?

 

昨年同様、地元の名産品をテーマにしたことです。研究の動機のスライドは複数のページに分け、文字を少なく画像を多めにしました。また、マイクではなく自分の声で発表し、聞いている人に疲れずに聞きやすいようにしました。思いもつかなかったことを大げさに表現し、笑いを入れました!

 

研究内容としては、酢酸菌の培養にはタンパク質濃度が重要だという文献に記されていないことを初めて発見した点です。

 

■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究

 

・鹿児島県工業技術センターの松永様のアドバイス

・『福山の黒酢 琥珀色の秘伝』蟹江松雄(農山漁村文化協会)

→この本を教科書のように使用しています。

 

■今回の研究は今後も続けていきますか?

 

再現性を確かめていき、特許を取得したいと思っています。いろいろな銘柄の焼酎で酢を作り、味の違いを確かめ、一番おいしい味になるものを見つけたいと思います。

 

■ふだんの活動では何をしていますか?

 

・10月以降は発表練習、昨年は科学実験教室にボランティア参加

・培地測定、培地づくり、結果のまとめ

・中学生たちに我が校を知ってもらうために、中3生を対象にした出前授業をしています。

 

■総文祭に参加して

 

今回は私にとっては2回目の総文祭で、昨年の悔しさを心に刻みながら大会への準備をしてきました。発表順が最後だったため、他校の発表をじっくりと見ることができましたが、周りの高校の発表や質問を聞いていると、自分たちは失敗するのではないかと思いました。

本番当日は、とても緊張しましたが、自分たちの研究・発表のスタイルでいつも通りやろうと思い、発表に挑みました。その結果、発表ではよかったものの、質疑で課題が残り、結果発表では上位に入賞することができず、昨年同様悔しさが残りました。私が3年生のため今年で終わりなので、この思いを後輩たちに引き継いでもらい、ぜひ上位入賞を目指してほしいと思いました。とてもいい経験で、内容としてもとても楽しい総文祭でした。(米重くん)

 

全国のトップクラスの同世代の人たちと交流したことで、現状の打開と未来への努力をしなければと強い焦りを覚えることができたので良い刺激になりました。(永野くん)

 

新しい発見があったりしたのでおもしろいと思いました。(山下さん)

 

今回私たち2年生は初めて全国に出場し、自分たちオリジナルのプレゼンを行いました。自信を持っていたので勝てると思っていましたが、実際には全国のレベルは高く、現実を見せつけられました。結局賞を逃してしまい、特に3年生の先輩にとっては悔しい結果になってしまいました。僕は、この全国に勝って先輩に思い出に残して卒業してもらいたかったのでショックでした。また、仲間のプレゼンを見て自分の力不足だった点も思い知りました。今大会での反省点を踏まえ、自らの反省点も含め、来年こそは良い形で終わって、自分たちの研究に誇りをもてるように、先輩の悔しい思いを背負って、来年の全国は頑張ります。(椎原くん)

 

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