2016ひろしま総文 自然科学部門

「副実像」研究に新たな展開! 生物の眼で副実像は見えるのか?

【ポスター(パネル)/物理】熊本県立宇土高校科学部物理班

左から 清水竜樹くん(3年)、小山結実くん(2年)、前田裕成くん(2年)、柳田悠太朗くん(2年)、堂上結衣さん(2年)、宮城あすかさん(2年)、清田大悟くん(3年)
左から 清水竜樹くん(3年)、小山結実くん(2年)、前田裕成くん(2年)、柳田悠太朗くん(2年)、堂上結衣さん(2年)、宮城あすかさん(2年)、清田大悟くん(3年)

■部員数

9人(うち1年生2人・2年生5人・3年生2人)

■答えてくれた人

清水竜樹くん(3年)

 

凸レンズに関する研究

研究発表で受けた質問から、新しい研究が始まった

私たちは、「副実像」の研究をしてきました。副実像とは、凸レンズに光を当てて適当な距離にスクリーンを置くと、光源の像が浮かび上がるのとともに、新たな2つの像がレンズの前後に現れることです。この現象を5年前に発見してから、その発生のメカニズムや性質について研究しています。 

副実像は凹レンズには出現せず、本来の実像とは異なる性質も見られます。光源をレンズの焦点距離の内側に置いても副実像は出現し、また、光源が光軸付近から外れても、レンズ面への入射角が臨界角を越えなければ出現します。この性質を生かすと「特別なゴースト」を再現することもできます。 

昨年度の研究では、凸レンズにおける副実像の出現範囲の特定と出現一の数式化に成功しました。そこで、今回は、さらに平凸レンズに出現する副実像の数式化に挑戦しました。さらに、この研究を発表した時に、「人間の眼に副実像は見えるのか」という質問を受けたことをきっかけに、人間の眼やレンズ眼の性質を持つ昆虫の単眼にも副実像が出現するのか、ということについても調べました。

 

ヒトや昆虫の眼でも副実像は見えるのか? ~ヒトは数式から、昆虫は実験で検証 

まず、「ヒトの眼でも副実像は見えるのか」ということついて調べました。ヒトの眼球の3D画像(理研)を入手して水晶体の厚みや曲率半径を算出したところ、水晶体は正確な球面ではないことがわかりました。 

オオスズメバチは額に3つの単眼を持っています。断面は凸レンズの形状で、物体の弁別能力はありませんが、光の感知器官として、光線を利用して自分の所在位置を確定する機能を持っていると言われています。また、トノサマバッタは正面に1つ、触覚の後ろに2つの単眼を持ち、形状は平凸レンズです。 

副実像が見えるかどうかについて、ヒトの眼については、3D画像をもとに計算しました。左の図のように、水晶体は球面ではないため、経常的に副実像は出現しにくいです。また、出現したとしても、副実像が網膜付近で結像しないため、ヒトの眼では副実像は見えないことがわかりました。 

次に昆虫の眼については、単眼をスライスして実際に計測しました。 

まず、文字を書いた紙の上に単眼を載せてレンズ眼であることを確認しました。次にレンズ部分にLED光源を入射させて、光源の動きと対照的な動きをする副実像(前方)をとらえることができました。

 

このことから、オオスズメバチの単眼は球面で、かつ透明性が比較的高いので、極小レンズにもかかわらず、反射光戦でも光を集められることがわかりました。 

数式でも計算結果が一致し、再現性の高さが示されました。 

平凸レンズが作る副実像の数式化にも挑戦!

トノサマバッタの単眼が平凸レンズであるので、平凸レンズが作る副実像の数式化も試みました。

 

下の2つのグラフは、平凸レンズにおける前方と後方に出現する副実像の出現位置です。導出した数式から得られた理論値をあてはめてみると、その差は誤差の範囲内であることがわかりました。 

このように、凸レンズで使った行列による近軸光線追跡を利用して、平凸レンズにおいても近似式が完成し、数式化に成功しました。 

まとめです。今回の一連の実験を通して、オオスズメバチの単眼には副実像が出現している証拠が得られました。また、オオスズメバチとトノサマバッタの単眼を切り出すことで、レンズの形を明らかにすることができました。

 

さらに、平凸レンズにおける薄肉モデルでの数式(近似式)が完成し、凸レンズ・平凸レンズによる副実像の公式がそろいました。今後は、複雑な厚肉モデルにおける副実像の出現位置の数式化を目指したいと考えています。

 

■研究を始めた理由・経緯は?

 

本校科学部は、凸レンズ付近に出現する本来の実像とは異なる2つの「副実像」の研究を続けています。その中で、専門家すら見落としてきていた「副実像」に興味を持ち、まだ残っている副実像の謎を解明し、副実像の出現位置を公式化することに、世界で初めて成功しました。その中で「人の眼にも副実像は出現するのか」という質問を受け、人の眼や昆虫の持つレンズ眼(単眼)も調べることにしました。

 

 

■今回の研究にかかった時間はどのくらい?

 

放課後、週2~3日(週5時間程)活動しています。副実像の研究は2011年度にスタートし、この1年間で、ヒトの眼と昆虫の眼、平凸レンズにおける副実像を調べました。

 

■今回の研究で苦労したことは?

 

副実像についての国内や海外の文献等でも見つかっておらず、すべて手探りで調べています。数式化するのに、大学でしか習わない行列を用いているため、手計算に1か月以上、数式の検証に1か月以上費やし、数式化までのゴールが見えなかったのはたいへんでした。また、昆虫の個体を収集するのに苦労しました。

 

■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?

 

副実像が昆虫の単眼にも出現したことから、単眼はきれいな球面のレンズでできていることがわかりました。副実像の数式化した式と、教科書にあるレンズの写像公式とを比較してみてほしいです。

 

■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究

 

・『ヘクト光学1-基礎と幾何光学-』Eugene Hecht著/尾崎義治・朝倉利光訳(丸善)

・「Lecture on Optics 光学 講義ノート」[第3章 幾何光学] 東京大学/黒田和男

   http://qopt.iis.u-tokyo.ac.jp/optics/

・「凸レンズがつくる実像を探る副実像の発見と解明」宇土高校科学部(日本物理學會誌68 2013.3月(27J-8))

 

■今回の研究は今後も続けていきますか?

 

今後は、厚肉レンズにおける出現位置を導出したいです。また、さまざまな種類の昆虫の単眼に副実像が出現するかを調べていきたいです。

 

■ふだんの活動では何をしていますか?

 

科学部の活動と並行しながら、班のメンバーそれぞれが違うテーマの課題研究にも取り組んでいます。

 

■総文祭に参加して

 

3年生の僕たちは、凸レンズの研究で3年連続で総文祭に参加することができました。今年はポスター部門に参加しましたが、発表4分という短時間の審査では、先輩の研究と自分たちの研究をうまく伝えることができず、少し悔やまれました。他校のポスターも興味深い発表が多く、他校と交流しながら内容を深く理解することができました。このような場で発表でき、貴重な経験となりました。

 

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