2016ひろしま総文 自然科学部門

最強生物と呼ばれるクマムシ、その肢のヒミツ

【生物】京都府立木津高校科学部クマムシ研究会

左から、三浦伊織くん(1年)、吉田美穂さん(1年)、永野莉乃さん(1年)
左から、三浦伊織くん(1年)、吉田美穂さん(1年)、永野莉乃さん(1年)

クマムシ/肢ポンプ仮説

ここ数年メディアで脚光を浴びるようになったクマムシですが・・・

木津高校科学部では8年前からクマムシについて研究しています。まず、クマムシについて説明します。

 

クマムシは4対の肢があり、爪は4~10本、頭部に1対の眼点があります。体全体は厚い皮、外皮で覆われています。

 

体内の球状の物体=体腔球は栄養貯蔵の働きをしていると言われています。クマムシの体腔は体液で満たされており、その体液中に体腔球が浮遊しています。体液の流動はこの体腔球の動きで把握できます。

 

クマムシは1回目の産卵までに4~5回脱皮します。この写真は脱皮殻の中で産卵している様子です。

 

クマムシの分類

クマムシは緩歩動物門に分類されています。さらに緩歩動物門は、3つの網に分けられます。

 

まず真クマムシ綱です。写真は本校で採れたオニクマムシとチョウメイムシです。透明感があり、体内が透けているので、体腔球の流動もよく観察ができます。

 

次に異クマムシ綱です。突起物が目立ち、不透明な外皮に覆われており、昆虫のようです。この画像は本校で採取したトゲクマムシです。

 

 

3つ目は中クマムシ綱です。標本はないようですが、真クマムシと異クマムシを足して2で割ったようなものらしいです。

 

そして、こちらは本校で採取したツメボソヤマクマムシ属の1種です。これまで見つかっているクマムシの中ではヨコヅナクマムシに似ています。

 

背中から直接産卵しています。クマムシ博士と言われる堀川大樹先生に鑑定していただいたところ、この産卵方法と共にDNA塩基配列も例がないそうです。

 

私たちは、今のところ『帝王クマムシ』と名付けています。この名付けは完全に独自のもので、一般には認められていません。名前の由来は、背中が開いて散乱しているので「帝王切開」からと、「ヨコヅナ」を意識して強そうな名前にしています。

 

クマムシが最強生物と言われる要因の一つとして、水がなくても生きていけるということがよく言われています。

 

これは乾燥状態のクマムシで、「樽(タン)」と呼ばれる形状になっています。

 

本研究「クマムシには循環系が本当にないのか?」

クマムシには循環系がなく、体液の流動は体表からの浸潤、拡散で起こると言われています。循環系とは、体液を決まった形で循環する心臓や血管などのシステムのことです。本当にクマムシには循環系が存在しないのでしょうか。

 

この写真に見える一つひとつの粒は体腔球で、体液中に浮遊しています。体液が循環するとこの粒も流動します。そして、肢の動きと体液の流動は連動していたのです。

 

そこで、仮説を立てました。「肢の動きは移動手段であると共に、循環器としても働いている」と。

 

クマムシには骨はなく、体内水圧により体形を維持しています。ビニール袋に水を入れたような状態です。どこかが縮むと、どこかが膨らむ。つまり縮んだ部位にあった体液は、別の部位に流動していきます。

 

そこで、大きめのビニール袋に水道水とプラスチック球を入れ、肢に見立てた突起を作り、まずは歩行のように左右に動かしました。

 

突起物の中のプラスチック球は動いていますが、本体のプラスチック球はあまり動いていませんでした。

 

次に、伸縮運動をさせてみました。プラスチック球が肢と本体の間を大きく流動しています。8本の足がすべて伸縮運動をしたとすれば大きな体液循環になるわけです。

 

これらのモデル実験から、体液が流動するには「肢の伸縮運動が重要である」ということがわかりました。

 

では、8本の肢が全て伸縮運動をしているのでしょうか。そこで、肢の運動を知るために筋肉構造を観察しました。

 

これはオニクマムシをカバーガラスでギリギリまで圧迫し、400倍で検鏡した画像です。黒線が肢の筋肉、白線が頭部、尾部を縦走する筋肉です。赤線が神経です。

 

そして、筋肉構造を参考に筋肉モデルを作成。仮称ですが、このモデルからクマムシを5ブロックに分け、頭部、前肢部、中肢部、後肢部、尾部としました。

 

 

これは模式化したものです。黒線が肢の筋肉、黄色い線が頭部・尾部縦走筋です。

 

肢の筋肉の起点は正中面上、つまり体の真ん中であるということです。

 

前肢、中肢、後肢の筋肉が全て同時に収縮したとすると、体液は内側に向かって流動します。

 

これが実際の肢の伸縮運動の様子で、(1)から(2)にかけて肢が縮んでいる様子がわかります。(2)から(3)にかけては伸びています。 

頭部、尾部間の筋肉は体全体に縦走しています。頭部、尾部間の縦走筋が全て同時に収縮したとすると、体液は中心辺りに向かって流動します。

 

左右と前後の伸縮運動をまとめて考えてみます。

 

例えば前肢、右側の筋肉が収縮したとすると、体液は内側に向かって流動します。伸びた場合は、また肢の内部に戻ろうとします。

 

また、頭部、尾部間の筋肉が収縮したとすると、体液は中心辺りに向かって流動します。伸びた場合は体全体に拡散していきます。

 

これは実際の尾部の伸縮運動の様子です。(1)から(3)にかけて尾肢が収縮している様子がうかがえます。

この上部の左側の写真と右側の写真を比べると、肢の伸縮度合いはそれぞれ違います。左は前肢、中肢、後肢ともに伸びた状態です。右は縮んでいます。とくに前肢がよく縮んでいます。

 

また、下の写真のように体全体を屈曲させたりもします。このようにして体液は体の隅々まで流動していくのです。

 

伸縮運動と体液流動の関係を探る

では、クマムシの伸縮運動を止めたら、はたして体液流動はなくなるでしょうか。

 

クマムシの活動状態を止める方法として最初に考えたのが、カバーガラスで背面から圧迫し動けなくする方法です。実際にやってみると、肢の運動は止まり、体腔球の流動も全体的な流れができていません。確かに体腔球の動きは止まりましたが、強く圧迫したことによるストレスの影響を否定できません。

 

そこで排泄時を考えました。

 

みなさん、想像してください。排泄時に手足をバタバタさせますか。しかし、排泄する瞬間映像はそう簡単に撮れるようなものではありません。

 

そこで、科学部が8年間蓄積したクマムシ映像の中から、排泄シーンを探しました。

便を排出しているとき、肢は止まり、体腔球の流動も止まっている状態です。そして、肢が激しく動くと共に体腔球も激しく流動し始めました。

 

なお、肢が循環器だとしても移動手段は肢以外にはありません。そこで肢の伸縮運動による移動方法を明確にしたいと思いました。そこで今回注目した大きなポイントは、爪の構造でした。

 

クマムシの後肢と尾部の爪の向きに注目してください。

 

尾肢の爪は、前・中・後肢の爪とは向きが逆だったのです。つまり、そもそも歩こうと思っても尾肢の爪が引っ掛かり、前には進まないということです。

 

 

下図の中の左上の写真は、クマムシを研究していると必ずといっていいほど見かける画像です。これは、足場がなくてオロオロしている状態であると最初は考えていました。

 

しかし、爪の向きを思い出してください。まず、尾肢を引っ掛け固定軸をつくり、前3対の肢で苔などをかき分け、餌などを探します。

 

移動する時には前3対の肢に重心を移し、固定軸の尾肢を外す。この繰り返しにより移動していくと考えられます。 

クマムシには循環系があるらしい?!

クマムシは緩歩動物と言われています。果たして本当に緩やかに歩いているのでしょうか。

 

答えとして私たちが行きついたのは、体液を循環するために肢や体や頭部が伸縮運動をしている様子もうかがえるということです。つまり、クマムシには循環系はないと言われていますが、巧妙で緻密な循環系が存在するのだと私たちは考えます。

 

■総文祭に参加して

 

今回のひろしま総文は、去年滋賀の総文祭で賞をいただいた先輩から引き継ぐ形で研究を続けています。私たちは1年ということもあり、自分たちで行った内容はまだありませんでした。今回の発表を通して、クマムシについてよりよく知ることができました。初めての総文祭でとても緊張しました。入賞はできませんでしたが、良い経験となりましたし、今後この研究を発展させていき、自分たちのデータも加えた発表ができるよう、そして次こそ結果を残すために、これからも頑張っていきたいと思います。

 

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