みやぎ総文2017 自然科学部門

化学の授業で学ぶ現象を徹底解明、製薬への応用も視野へ

【化学】大分県立大分上野丘高校 化学部

左から 高林諒明くん、麻生和希くん(2年)
左から 高林諒明くん、麻生和希くん(2年)

■部員数 41人(1年生11人・2年生20人・3年生10人)

 

水酸化鉄(Ⅲ)コロイドの研究

高校化学では、沸騰させた水に塩化鉄(Ⅲ)溶液を加えると、赤褐色の水酸化鉄(Ⅲ)コロイドを生成することを学びます。その加水分解の温度を変化させると、写真のように温度によって異なる色の溶液ができました。

 

この違いを調べる過程で溶液を希釈したところ、時間を置くと濃く変色し、またその度合いは低温ほど大きいことを発見しました。私たちはこの変色に着目し、そのメカニズムの解明を研究目的設定しました。

 

コロイド溶液の作成条件をさぐる

まず、熱を加えて形成する水酸化鉄(Ⅲ)コロイドについて、コロイド溶液の作成条件について調べました。50mlの蒸留水を一度沸騰させ、温度設定します。そしてスライドのような実験装置を用いて2mol/Lの塩化鉄(Ⅲ)溶液を1ml加えました。

 

生じる水酸化鉄(Ⅲ)コロイドの量に応じて溶液の色が変わります。凝析させると50度以上で溶液が濁り、高温ほど凝析量は多くなりました。そこで安定的にコロイドを作成できる70度以上を用いました。

 

また、全ての温度で未反応のFe3+が確認されました。この量を定量し、コロイドを構成するFe数を算出しました。

 

グラフにFeの構成比を示します。98度でも未反応のFeが多く存在し、コロイド溶液の主たる構成物質であることがわかりました。この未反応のFe3+が希釈による変色に関与していると予想しました。

 

コロイド形成には溶液のpHが関係する

そこで、塩化鉄(Ⅲ)溶液を希釈し、その経時変化を調べました。本研究では濃度2mol/Lに対する希釈率を用い、25度で行いました。希釈直後からの変化を見ると、写真のように次第に変色の度合いが増し、赤褐色の物質に変化していきました。

 

1000倍希釈溶液の変色の度合いを示す吸光度は上昇しました。また、導電率は上昇し、pHは低下しました。導電率の増加はイオンの増加を示し、pHの低下は水素イオンの増加によるためと考えました。つまり、水酸化鉄(Ⅲ)溶液の希釈だけでも図の反応式に従い、水酸化鉄(Ⅲ)コロイドが生成されると予想しました。

 

変色した希釈溶液にはチンダル現象が確認でき、凝析も見られました。予想通り、希釈によって水酸化鉄(Ⅲ)コロイドが形成されたことになりました。

 

さらにこの希釈によって生じるコロイドの収率を調べると、3日後には93%と高収率でコロイドを形成できることがわかりました。

 

コロイドを形成する希釈率の下限領域を探る

次に、水酸化鉄(Ⅲ)コロイドを形成する希釈率を求めました。

 

まずは、1000倍以上の希釈率からです。希釈率の高いものから変色が始まりました。その後希釈率の低い溶液も変色し、1000倍以上の希釈率ではコロイドを形成することを確認しました。

 

左から、1000倍、2000倍、3000倍、4000倍、5000倍。上から、希釈直後、2時間後、1日後

初期の吸光度の変化をまとめます。いずれも吸光度は増加していますが、希釈率が高いほど初期の反応速度が早いことがわかります。

 

次に、1000倍以下の希釈率でもコロイドは形成されるかを、導電率の変化を指標に調べました。結果、100~500倍の時に変化が見られ、80倍以下の時に変化は確認されませんでした。つまり80~100倍の領域に、変色を起こす下限領域があります。

 

コロイドを形成する希釈率を図にまとめました。1mol/Lで希釈率が半分の40~50倍になることも確認しました。この領域をFe3+濃度に換算すると0.025~0.020mol/Lに相当します。また、希釈直後のpHを調べると、pH2程度でコロイドが形成されることになります。希釈によるコロイド形成は溶液のpHに依存すると考えられます。

 

既存の方法で作成するより大きなコロイドができた

最後にこの水酸化鉄(Ⅲ)コロイドの粒径を調べました。熱、希釈それぞれによって形成されるコロイドの粒径を比較しました。ここで、コロイドを形成するFe数がほぼ等しい値を取るように調整しました。

 

この溶液を用いて、塩酸による溶解からコロイドの粒径を測りました。ここで、コロイドを構成するFe総数に対する、塩酸を加えることで溶出したFe3+数を溶解率(%)と定義します。結果は下図のようになりました。各条件での溶解率の差は粒径の違いによるものだと考えられます。

 

コロイドを構成するFe数を揃えているので溶解率の高い、熱を加えて作成したコロイドの方が表面積の総和が大きく、つまりコロイドの粒径が小さいことが予想されます。

 

また、溶解率の比は約3.5:1なので、これをコロイド表面積の総和の比と捉えると、粒径の比は逆比の1:3.5となり、約3.5倍の関係が推測されます。また、粒度分布測定から出した各条件の平均粒度は、溶解率から出した3.5倍の関係に近い値を示しました。

 

さらに、様々な条件でのコロイド平均粒径を調べた結果を図に示します。この結果から希釈で形成する水酸化鉄(Ⅲ)の特徴は、相対的に粒径が大きく、その変域が広いということがわかりました。

 

粒径が制御できれば、鉄剤への応用も

結論です。塩化鉄(Ⅲ)溶液は、希釈によってコロイドを形成し、変色します。希釈して形成したコロイドは比較的大きく、その変域も広いことがわかりました。

 

現在、鉄欠乏性貧血の治療にコロイド性鉄剤が投与されます。イオン性の鉄に比べ徐々に効果を表し、効果的だと言われます。この粒径を制御する方法は効果の発現時期を調整する選択肢となり、今後活用に期待がかかります。

 

■研究を始めた理由・経緯は?

 

学校の化学の授業で習った、失敗作といわれるコロイドは、通常のコロイドと何が違うのかを調べていく過程で、希釈溶液の変色を発見し、このメカニズムを研究し始めました。

 

■今回の研究にかかった時間はどのくらい?

 

1週間あたり8時間で6か月です。

 

■今回の研究で苦労したことは?

 

コロイド溶液中に含まれるFe3+の処理です。コロイドを作らない未反応のFe3+の量を求める作業がたいへんでした。キレート滴定をして求めるのですが、滴定の回数をかなり重ねたことと、その後の計算も煩雑で、これには苦労しました。

 

■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?

 

溶解率のグラフと考察(コロイド粒径比の推測)の部分です。

 

■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究

 

・「定量分析化学」 宇野文二他著(丸善)

・「薬学雑誌vol.96(1976)」(日本薬学会) 

 『水酸化鉄の解膠に関する研究 塩酸の解膠作用』 中垣正幸、田川美恵子

 

■今回の研究は今後も続けていきますか?

 

今回の研究を基に、コロイド粒径を制御することを目指したいと思います。

 

■ふだんの活動では何をしていますか?

 

基本的に火曜日、必要があれば他の曜日にも集まって研究をしています。また、年に1日、小学生を相手に化学の授業もしています。

 

■総文祭に参加して

 

大きな大会で発表したのは、初めてだったので緊張しましたが、練習通りの発表をすることができたので良かったと思います。最優秀賞を獲れなかったのは悔しかったですが、この悔しさを糧に今後も頑張っていきたいと思います。

 

※大分上野丘高校の発表は、化学部門の優秀賞を受賞しました。
※大分上野丘高校の発表は、化学部門の優秀賞を受賞しました。

みやぎ総文2017の他の発表をみる <みやぎ総文2017のページへ>

わくわくキャッチ!
今こそ学問の話をしよう
河合塾
ポスト3.11 変わる学問
キミのミライ発見
わかる!学問 環境・バイオの最前線
学問前線
学問の達人
14歳と17歳のガイド
社会人基礎力 育成の手引き
社会人基礎力の育成と評価