みやぎ総文2017 自然科学部門

従来の泡盛醸造用酵母に代わる新たな酵母、ついに発見!?

【ポスター/化学】昭和薬科大学附属高校 科学部

左から 中村紗彩さん(1年)、新城琉妃さん(1年)、 渡久地政泉くん(2年)
左から 中村紗彩さん(1年)、新城琉妃さん(1年)、 渡久地政泉くん(2年)

■部員数 4人(1年生3人・2年生1人)

■答えてくれた人 中村紗彩さん(1年)

 

花酵母の探索Ⅲ~アルコール発酵能の測定~

市販の泡盛はほとんど同じ酵母を使っている?

沖縄のお酒・泡盛をご存知でしょうか。泡盛をはじめとする焼酎や清酒は、麹菌と酵母という微生物の共同作業「発酵」によって造られます。

 

酵母は泡盛の風味に大きな影響を与えるので、自然界の花や果実から新たに純粋分離した酵母を用いて発酵させると、既存の醸造用酵母では出せない個性のある香りや味わいを醸(かも)しだすお酒となるため、泡盛醸造に適した新しい酵母を探索することは、沖縄の地域産業にとって非常に重要な課題です。現在、泡盛醸造に用いられている酵母は、泡盛醸造に適した酵母として選抜されたサッカロマイセス・セレビシエ(以下セレビシエ)に属する「泡盛101号酵母(以下101号酵母)」という酵母であり、ほとんどの酒造所が同じものを使っています。同じ酵母で造られるため、どうしても香りや風味が似てしまいます。そこで、私たちは、現在主流の101号酵母とは異なる産業上有用な泡盛用酵母を探索することを目的とし、2014年から研究に着手しました。

 

野生酵母の実用化のために酵母に要求される性質は、高温下でも十分増殖能力を有すること、泡盛のモロミは低pH(3.3~3.7)であるため耐酸性を持つこと、アルコール生産性が良好であること、製品に良い香味を付加することと挙げられます。そして、セレビシエである必要があります。

 

沖縄の花から酵母を探し出すあくなき挑戦

セレビシエは、人類が長くパン・お酒・味噌・醤油等の発酵に使用してきた種です。つまり、セレビシエは食経験があり、毒性がないので、極めて安全だと言えます。同じ種を使うと同じ味・香りになると思うかもしれませんが、そんなことはありません。種というレベルで言うと、私たち人間はホモ・サピエンスという種です。私たちが同じ種であっても、互いが大きく異なる個性を持っているのと同じように、サッカロマイセス・セレビシエという同じ名前の種であっても、株(人間でいえば個人)ごとに大きく性質が異なります。醸造に使える発酵力のあるセレビシエ株を自然界から探すのは容易ではありませんでした。

 

探し出す方法として、次の1~5の過程を踏みました。

 

1.酵母の単離

 

沖縄県内の花41種を分離源とし、それぞれの試料を麹汁培地に浸し、4~7日間集積培養を行いました。泡の発生があることを確認した後、集積培養液を滅菌水で103、104、105倍に希釈し、YPD寒天培地に塗抹しました。その後25℃で培養を行い、約2日後に形成されたコロニーの中からセレビシエのコロニーの特徴である乳白色・円~楕円形・光沢ありのコロニーをTTC下層培地に株分けし、候補株を選抜します。

 

2.TTC試験で菌株のコロニーが赤色になることを確める

 

TTC試験は実際に酒造場等で発酵に使われている清酒酵母の純度確認に用いられています。代謝が大きいほどこの反応はより進むため、エタノール生産性の低い酵母は白色やピンク色に染まりますが、エタノールを生産する酵母は赤く染まります。このことを利用して、候補株の選抜を行います。

 

 

3.顕微鏡で観察して、円か楕円の出芽酵母の形であることを確める

 

赤色呈色が見られた菌株の中から顕微鏡観察でセレビシエと大きさが近くセレビシエと同様の円~楕円形で出芽が認められたものを選抜します。

 

4.酵母のアルコール発酵力を確認する

 

選抜した株には、アルコール発酵試験としてYPD液体培地での培養を行い、日ごとのpHとエタノール濃度の測定を行います。アルコール発酵試験においては、最終的なエタノールの濃度が高いこととエタノール濃度が上昇する速度が重要です。最終的なエタノール濃度については、すべてのサンプルを酵素法で測定しました。また、エタノール濃度の上昇速度については、昨年までの研究でpHが低下する速度が速い菌株はエタノール濃度の上昇も速いという結果があったため、pHの低下速度が速い菌株について、日ごとのエタノール濃度を酵素法と分光光度計を用いた方法で測定します。

 

5.PCR法によって遺伝子を複製し、その植物の種を確定する

 

その後、エタノール濃度の上昇速度、 最終のエタノール濃度がともに101号酵母と同程度かそれ以上であった菌株の種名をPCR法と塩基配列解析により同定します。

 

3の顕微鏡観察をクリアした候補株9株をB株~J株と名付けて、アルコール発酵試験を行いました。するとJ株が、101号酵母と同様のpH低下速度とアルコール発酵速度を示しました。

 

以上の過程を経て選び抜かれた候補株(=J株)をPCR法と塩基配列解析により同定したところ、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)であり、分離源はリュウキュウボタンヅルの花でした。

 

アルコール発酵能も申し分なし。さらに従来型の酵母よりも優れた点も!

候補株J株が泡盛醸造にどれほど適しているかを調べるために、アルコール発酵試験における高温耐性とpH耐性を従来使われてきた101号酵母と比較しました。温度を30℃、35℃、40℃の3種類、pHを6.0、3.5、4.0の3種類の組み合わせで実験を行いました。結果をグラフで示します。

※クリックすると拡大します

 

左上と右下のグラフに着目すると、温度が40℃の時、すべてのpHにおいてJ株ではエタノール生産性が高いのに対し、101号酵母では全くないことがわかります。また、左上のグラフから、pH6.0の場合、温度が30℃でも35℃でもJ株は101号酵母よりもエタノールの生産性・発酵速度のいずれにおいても優れていることがわかりました。

 

さらに、4つのグラフのすべてを通じて、J株の発酵はpHの影響をほとんど受けないことがわかりました。

 

以上の結果から、J株には、現在実際に使われている101号酵母と同等のエタノール生産性があり、さらに高温耐性・pH耐性があると考えられます。高温耐性があるということは、発酵槽の冷却コストや蒸留コストを減らすことつながることも期待できます。

 

このJ株が、実際の泡盛製造にどのように影響するのかを調べるために、泡盛作成および、その香気成分の測定を依頼し、101号酵母と比較しました。

 

結果は図の通り、101号酵母とほぼ同等のエタノール生産能が確認されました。

 

続いて、香気成分を調べました。

 

泡盛に特徴的な香気成分であるイソブチルアルコール、イソアミルアルコールの量は101号酵母に比して少ないことがわかりました。

 

しかし、これによって逆にエステル香が際立ち、よりフルーティーな酒質になりました。つまり、従来の泡盛とは異なる風味を醸し出しており、実際の新たな泡盛開発に使えることが示唆されました。

 

以上よりJ株は、高温耐性を持ち、蒸留後のエタノール濃度は従来の酵母を用いたときと遜色なく同濃度であり、香りは101号酵母と異なる風味を醸し出せることから、J株は新たな泡盛を造り出すことができ、泡盛の酒質の多様化が期待できると言えます。

 

■研究を始めた理由・経緯は?

 

泡盛工場を見学した際に、泡盛製造の大きな課題の1つは、商品のバリエーションを増やすことであると学びました。現在、泡盛製造に用いられている酵母は、泡盛製造に適した酵母として選抜された「泡盛101号酵母(以下101号酵母)」であり、サッカロマイセス・セレビシエ(以下セルビシエ)に分類されます。ほとんどの酒造所が同じ101号酵母を使っているため、泡盛の風味が似ています。本研究は、風味の大きく異なる泡盛を造る等の泡盛の価値向上に寄与するテーマとして、泡盛製造に使うことのできる新しい酵母を探索することを目的としています。2014年からの継続研究であり、セルビシエを得るために選抜方法(スクリーニング方法)の工夫やエタノール濃度の定量法の精度向上を目的として研究を行いました。

 

■今回の研究にかかった時間はどのくらい?

 

2014年の6月ごろから始めて、放課後や休日を利用して週に20時間程度です。

 

■今回の研究で苦労したことは?

 

研究では、野生の花をサンプリングし、酵母を培養して評価をしますが、無数の酵母の中からセレビシエだけを選抜することは大変難しく、繰り返し実験を行いました。目的の候補株が見つけられなくて落胆することもありましたが、次こそセレビシエが取れるはずと励ましながら実験を続け、経験を無駄にせず、小さな発見や新しい手法を見出すことに努めてきました。ノーベル賞を受賞した大村智先生の名言にある「やったことは大体失敗する。そのうち5、6、7回やっているうち、びっくりするくらいうまくいく。それを味わうと失敗が怖くなくなる。それが研究の楽しさ」を実感しています。

 

■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?

 

101号酵母はpHの低下の仕方とエタノール濃度の上昇の仕方が特徴的なので、今回スクリーニングの際に、候補株のpHの低下の仕方だけでなくエタノール濃度の上昇の仕方を見るという工夫をしました。その結果、より有用な候補株を選抜できることがわかり、今回J株の単離に成功しました。また酵母の発酵生産過程はストレス環境であり、細胞は高濃度エタノール、高温、低pH、高糖度など多様なストレスに曝されています。高温下における発酵試験を行い、J株のアルコール発酵能を評価したところ、101号酵母と比べ、高温耐性を持つことが確認できました。この熱に強いという個性は、発酵微生物にとって極めて有用です。

 

 

■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究

 

酵母の分離法に関する参考文献は以下の3つです。

・『酵母からのチャレンジ「応用酵母学」』田村學造、秋山裕一、野白喜久雄、小泉武夫(技報堂出版)

・『花等から分離した酵母の特性と焼酎・泡盛の製造』数岡孝幸(講演資料)

・『新たな泡盛用酵母の探索に関する調査』比嘉賢一、玉村隆子、望月 智代(沖縄県工業技術センター研究報告第14号)

酵素法については、

『応用微生物学実験 実験書』(京都大学 2004)を参考にしました。

 

■今回の研究は今後も続けていきますか?

 

野生で希少であるセレビシエを単離するため、スクリーニング法とエタノール定量法の工夫を2年間取り組み、101号酵母とは異なる菌株を選抜できました。この候補株(J株)は101号酵母に比べ、高温耐性を持ち、泡盛蒸留後のエタノール濃度も同程度であったので、実用可能な酵母であると考えています。J株は101号酵母と比べて発酵速度が速く、高温耐性を持つため、泡盛醸造時に発酵速度の速さは水やエネルギーの削減となり、高温耐性は発酵槽の冷却コストを減らすことも期待されます。泡盛醸造において、発酵微生物は様々なストレスに曝されます。泡盛醸造時の醪モロミ発酵段階での低pH (3.3~3.7)ストレスや高アルコール濃度ストレス、原料米の糖化に伴う高糖濃度・高浸透圧ストレスがあり、これらのストレスへのJ株の抵抗性と応答について評価するため、低pH、高アルコール濃度、高糖濃度(高浸透圧)条件におけるアルコール発酵試験や増殖試験を行います。また、J株の造る香気成分についてさらに詳細に分析していきます。

 

違うテーマの研究をするとしたら、今回の研究で得た知識や技術などを活かせるような研究をしたいと考えています。高温というストレスに耐性を持つ微生物は、他のストレスにも強いことが期待されます。塩ストレス・浸透圧ストレスに強ければ、味噌や醤油の醸造への応用が、高糖濃度ストレスに強ければ、製パンへの応用が期待されます。これらの醸造において酵母が造る香りや各種ストレスに対する応答を研究してみたいと思っています。

 

■ふだんの活動では何をしていますか?

 

科学の甲子園や化学グランプリなどの各種グランプリに向けて、勉強会や実験の練習をしています。中高一貫校なので、中学生と一緒に実験をすることもあります。今年は、3年に一度の文化祭を開催される年でしたので、科学部の演目として、液体窒素を用いて室内実験ショーを行いました。また野外会場でダンスをする高校生の演出効果を担当し、液体窒素を用いた空気砲で大量の白煙を発生させました。さらにピンポン玉花火を打ち上げるために、ポリバケツに約800個のピンポン玉を入れ、起爆剤としてペットボトルに液体窒素を注ぎ、ふたを閉め、結果を見守りました。数分後、ピンポン玉が飛んで広がり、美しい花火のようになりました。

 

■総文祭に参加して

 

全国高文祭では、各県の代表校の生徒が集い、日頃の研究成果を発表するとともに、全国の生徒たちと発表を通して、様々な分野の研究に触れることができ、とても有意義な時間を過ごすことができました。私たちは大会に向けて、ポスターのレイアウトやデータの見せ方に工夫し、発表練習も大分頑張って臨みましたが、ポスター発表の特徴である対話をしながら、研究の魅力を伝えるまでには到達できませんでした。今後の実験を通して、実験手法を理解し、発表で活かせるよう努めていきます。また他校の生徒から、文献やデータの整理、検証を大切にして研究を進めているという話を聞き、研究に対する姿勢や継続することの大切さを再認識しました。

 

石巻・女川の巡検研修では、東日本大震災での出来事や復興にむけての活動等のお話を伺いました。実際に被害にあった町は現在さら地になっていて、自然の偉大さと恐ろしさを感じました。また、津波のメカニズムの講義で学んだことをもとに、将来津波が起きたとき何ができるかを考え、行動したいと思います。

 

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