第83回情報処理学会 第3回中高生情報学研究コンテスト

新型コロナウイルス感染症の中で考えた!  学校という環境の中での感染症の流行と対策のための数理モデル

チーム名:理数科数学情報班

猪狩友太郎くん,石井沙季さん,刈屋瑛嗣くん,佐藤航貴くん(秋田県立秋田高校2年)

 

 

学校の感染症流行の可視化

新型コロナウイルス感染症が流行する中、学校は感染拡大の温床となりうるが実状に即した感染症対策は確立されていないと考えた。そこで、学校における具体的な数値目標を伴う対策を提案することとした。

 

研究の方法としては、SEIRモデルを基本に用いた。学校の実状の反映のため、接触人数については校内の生徒・教員から回答を得た。秋田高校では急速に感染が拡大し、生徒・職員の97%が感染する。終息のためには人との接触71.5%減、89%以上の人口への有効な感染症対策の実施が必要である。また、可視化のためにセル・オートマトン法によるモデル、格子型モデルを利用した。一回の接触による感染可能性の変化は流行の様子に大きく作用した。

 

本研究を通し、感染拡大の防止のために必要な数値目標を定めることができたが、それは生徒・職員に大幅な行動の見直しを要求するものであった。今後は学校特有の事象や人-人の空隙等を反映させよりリアルなモデル構築を目指したい。

 

※クリックすると拡大します。

 

■今回発表した研究を始めた理由や経緯を教えてください。

 

COVID-19のもたらす新型コロナウイルス感染症は世界中で猛威を振るい、我が国もその例に漏れなません。一時的な感染者数の減少、低め横ばいは見られるものの、クラスターの発生や2次感染の確認は後を絶たず、終息とは言えない状況にあります。

 

新型コロナウイルス感染症の流行においては、集団感染や無症状/軽症者による2次感染の拡大が特に危惧されており、現在では、社会通念的にいわゆる「三つの密」を避けること、人と人との距離を取り、必要なときにはマスク等を着用するなどの対策が唱えられています。これらに加え、人間の意識改革も含めた多方面からの対策を練ることが喫緊の課題です。

 

学校機関においては、2020年3月2日からの一斉休校を皮切りに、再開後は学校行事の中止や延期、授業や部活動の活動内容の調整、時間差登校等が図られ、また日常的に取り組むべきものとされた手指消毒やマスク着用の啓発など感染症拡大抑止のための策が講じられていきました。しかしながら、生徒や教員が公共交通機関等も介しながら、各地と学校とを毎日往来し、会話を通したコミュニケーションが活発に行われ、時に何百人もの人が一つの建造物に密集する学校という場は、感染症拡大のキーポイントであり、科学的根拠に基づいて学校に特化した対策を考案していく必要があると感じました。

 

その対策の提案のために、感染症流行の定量化および予測は大きな意味を持つと考えられます。感染症流行の定量化は1927年W. O. KermackとA. G. McKendricによる論文で提案された単純なモデル(後述のSIRモデルの原型である) に端を発し、以後季節性インフルエンザやHIV感染症等、あらゆる感染性の疾病に対しSIRモデルを拡張した数理モデルによってシミュレーションが行われています。そこで、我々は、学校に焦点をあて、これら感染症の流行とその対策について数理モデルを用いて研究を行っていくことにしました。

 

■今回の研究にかかった時間はどのくらいですか。

 

1年です。

 

■今回の研究ではどんなことに苦労しましたか。

 

プログラムを組んでうまく動作しないことが多々あり、根本から見直すなど多くの労力を必要としました。

 

■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点を教えてください。

 

SEIRモデルのパラメータ設定の「1人が毎日感染可能性のある接触をする人数」は、特に着目してほしいです。学校の実状を反映するため、秋田高校の生徒教員を対象としてWEBアンケートをおこなって得たものです。

 

また、セル・オートマトン法によるモデルでは、ポスターに示したようなモデルを考えついたことが一番のポイントでした。もちろんそれを形にするのはまた違う苦労がありましたが。

 

 

■今後「こんなものを作ってみたい!」「こんな研究をしてみたい」と思うことを教えてください。

 

一つの目的である、学校現場にあわせたシミュレーションを行って具体的数値目標を設定することはできましたが、学校における様々の特有の事象に対応させることは困難でした。本研究では、重症者・死亡者を考慮せず、接触人数などシミュレーションの根幹の部分のみを反映させた形になっています。

 

例えば、部活動等は学校での活動の大きな要素であり、そこにおける行動の状況は感染症の流布にも影響を及ぼすとも考えられます。今回用いた格子型モデルは、人の移動や空隙を設定できるものですから、設定の方法を検討してより具体的なシチュエーションのモデル化を試みる予定です。さらには、SEIRモデルなど感染の状況を予測する数理モデルを用いて考察するだけでなく、統計資料から各パラメータを推定したり、人の配置を踏まえた解析をしたりして、より実際に即した形でシミュレーションを行いたいと思います。

 

まだ確認されてから間もないCOVID-19による新型コロナウイルス感染症に関する研究は新しい情報の更新が続いており、本研究で用いた数値も今後見直される可能性が非常に大きいものと思われます。特に、1回の接触で感染する確率や、回復から再感染までの期間については、憶測の域を出ない部分もあります。最新の臨床研究や統計を注視しつつ数値の吟味をし、今後も研究をアップデートさせていきたいと考えています。

 

第83回情報処理学会全国大会中高生情報学研究コンテスト ポスター発表より

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