第84回情報処理学会全国大会 第4回中高生情報学研究コンテスト

眠りの質の向上を目指して~5年間の「眠りの研究」をアプリ開発につなぐ

チーム名:一瀬輝日

 

一瀬輝日くん(福岡大学附属大濠高校 2年)

 

NERUKOWA~学生の睡眠状況を可視化するアプリの構築~

5年前から始めた睡眠研究では大学生209名、高校生152名他を対象に質問紙法を実施してきたが、経時的変化が探れない横断的調査の限界を痛感し、長期的ログの収集・分析を可能にするアプリを開発しようと考えた。質問紙調査で盛り込んだ項目は「睡眠尺度」「エンゲージメント」「バーンアウト」「生活時間」だが、毎朝記入してもらうという特性上、アプリにすべての質問を含めるのは難しいため、データで特に睡眠との相関が高かった項目だけを加えることにした。α版を友達や親戚に試してもらい、得たフィードバックを元に再度修正してβ版を作成した。

 

開発当初は記録・表示の機能を第一に考えていたが、α版使用後の感想では、画面表示の見やすさ、操作性の良さ、通知機能、ランキングやご褒美機能など、UIやUXに関する要望や指摘もかなり多く、ユーザに継続的に使用してもらう上でUI,UXが想像以上に大切であることを実感する結果が得られた。

 

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■今回発表した研究を始めた理由や経緯を教えてください。

 

小学生時代、日中に意識がぼーっと他に向いてしまうことがあり、この現象と眠気との間に何か関係があるのではという素朴な疑問をずっと抱いていました。

 

この現象を何とか解明したいという強い想いから、中学1年の冬休みに「睡眠研究」を始めました。研究は5年間に及び、そこで得られた結果や反省点を基に、今回発表した「NERUKOWA」というアプリの開発に至りました。5年間の経緯を簡潔にお話したいと思います。

 

中1の冬に、まず手始めとして自分と父を被験者にして、睡眠調査を開始しました。最初はライフ顕微鏡、アクチグラフ、Fitbitなどの活動量計と質問紙法を併用し、長期に渡って個人を観察する縦断調査を実施しました。

 

この時、様々な興味深い結果が得られたのですが、中でも印象に残ったのは、日中の眠気が、必ずしも睡眠の長さや質と相関があるとは言えず、同じ日の学校生活の中でも、教科の興味のある無しで眠気の現れ方に差が出ていた、という結果でした。また、音楽の歌の試験などを控えている前日の夜には睡眠の波形が不安定になり、終わった日の夜には安定した波形に戻るなど数々の面白い現象が観察されました。

 

しかし、研究の方向性が果たしてこのままで良いのかどうか迷いがあったため、睡眠研究のトップランナーの先生に思い切って質問してみることにしました。すると有難いことに「被験者をもっと増やしなさい」との貴重なご助言をいただき、そこから横断調査に切り替えることにしました。ただし、活動量計を人数分用意する予算が取れなかったので、質問紙法のみを使用することにしました。

 

調査では学校の協力を得て、自分の高校の同級生152名と系列の大学の学生209名に調査を実施することができました。質問紙には「睡眠尺度」「熱意」「疲労感」「一日の活動時間」の項目に関する計60の質問を盛り込みました。ここでもまた、「眠気」や「ぼーっとする」という現象は、単に睡眠の長さや質のみでは説明できず、学校生活や仕事への熱意、疲労感と相互に関係していることなどが結果から明らかとなりました。これらの結果を論文にまとめ、「第65回日本学生科学賞 福岡県地方審査」に提出したところ最優秀賞を受賞することができました。

 

これらの質問紙法を使った調査を通して、ある課題が残りました。それは、単発の調査では経時的変化が探れないという横断調査の限界です。そこから長期的ログの収集・分析を可能にするにはどうしたら良いか悩み続けた末に、僕はアプリ開発を思いつきました。それが今回の研究内容です。

 

質問紙調査で盛り込んだ項目は、「睡眠尺度」「エンゲージメント」「バーンアウト」「生活時間」でしたが、毎朝記入してもらうという特性上、アプリにすべての質問を含めるのは難しいため、データで特に睡眠との相関が高かった項目だけを加えることにしました。α版を友達や親戚に試してもらい、得たフィードバックを元に再度修正してβ版を作成しました。以上が研究の経緯です。

 

 

■今回の研究にかかった時間はどのくらいですか。

 

「睡眠研究」自体は中学1年から高校2年の5年がかりですが、今回のアプリ開発にかかった時間は構想も含め、約10か月です。

 

 

■今回の研究ではどんなことに苦労しましたか。

 

今回の開発にあたり、一度にiOS、Android OS、Web下で動作するアプリ開発ができるFlutterを初めて使用することにしましたが、JavaScript、Swiftに比べて、想像以上に環境構築に手間取り、苦労しました。さらには自分が使用していたPCがM1Macで、Flutterで対応していない部分があったため、試行錯誤が必要でした。

 

また、アプリに盛り込む内容に関しては、これまでの研究結果をもとに、質問項目を選定したり、分かりやすい表記にするといった点で苦労しました。今回の開発を通して、以前よりだいぶユーザ目線で物事を考えられるようになったのではないかと思います。

 

 

■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点を教えてください。

 

今回開発したアプリ「NERUKOWA」では、ユーザの「睡眠型診断」と「毎日の睡眠状態記録」ができます。まず、「睡眠型診断」は約20の質問に答えることにより、5段階の睡眠型のどれにあたるか診断されます。「毎日の睡眠状態記録」に関しては、「毎日の睡眠状態記録」を行うことによって、ユーザの睡眠のリズム,睡眠の質,睡眠の量を日ごとの変化を含めて知ることができます。

 

また、テスト中の機能として表情検出があります。これは、FirebaseのMLキットを用いてストレス度計測ができるというものです。今回のアプリ作成を通して、念願の長期ログの調査が可能になり,かつ今まで紙ベースで長時間かかっていた調査が一回当たり30秒で終了できるようになりました。これらが特に注目していただきたい点です。

 

 

■今後「こんなものを作ってみたい!」「こんな研究をしてみたい」と思うことがあれば教えてください。

 

5年間継続してきた「睡眠研究」をここでやめることなく、これからも継続、発展させていきたいです。また、今回開発したNERUKOWAをさらに改善、改良していくことが目下の目標です。

 

今後の課題としては、睡眠環境改善につながるための具体的機能、スマホやウェアラブル端末から得られるデータを用いる計測機能の追加や使用拡大のための改善を行っていきたいと考えています。

 

同時に、α版使用後の感想の中に、画面表示の見やすさ、操作性の良さ、通知機能、ランキングやご褒美機能など、UIやUXに関する要望や指摘もかなり多かったので、ユーザに継続的に使用してもらうためにも、今後より良いUI,UXの改善を目指して開発、研究を進めていきたいです。

 

第84回情報処理学会全国大会中高生情報学研究コンテスト ポスター発表より

※一瀬輝日さんの研究は、中高生研究賞奨励賞を受賞しました。

 

 

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