From the Hub of Asia ~シンガポールから考えた高校・大学の学び

村田幸優くん シンガポール国立大学(National University of Singapore:NUS)

第5回 高校生のシンガポール視察合宿をアテンド[前編]

シンガポールの夜景
シンガポールの夜景

海外を知るためには、まずは現地に足を運ぶこと

「多様な軸で大学を判断するのが大事」と何度かこの連載で書いてきたものの、そもそも多様な軸とは何でしょうか。当たり前だと思っていたことも、意外と比較の軸となることに気づいたこの半年。こうして記事を書きながらも、やはり大事なのは、中高生に実際に足を運んでもらうことだなと感じていました。

 

そこで冬休み、母校灘高校の先生に連絡し、現役高校生のためのシンガポール訪問合宿を企画しました。結論から述べると、「これ、高校の真ん中くらいで俺も知っときたかった.....!!」と何度も感じる、実りある合宿になりました。

 

今回の連載では、

(1)合宿の訪問内容(一部)

(2)合宿を終えての参加者座談会

(3)参加高校生へのインタビュー の3編に渡って、合宿で見たこと・感じたことをお伝えします。

 

僕の同級生や先輩も合宿に合流し、今回はこのメンバーで回ることに。

 

左から、張くん、高島くん、矢倉くん、村田くん、柳津くん

高校生のうちにこそ知っておきたい、「日本の外」の教育事情

訪問先を決める時にテーマとして意識したことがあります。まず、母校の高校生に、国の社会状況や経済局面によって、教育機関(特に国立大学)の役割は影響を受けるのではという視点を提供すること。そして、その多様な国外の選択肢を知った時に、今まで描いていた進路が自分にとってベストだと言えるのかを、問い直すきっかけにすることです。

 

ざっくりしたスケジュールはこんな感じです。

 

1日目は国立博物館やナイトサファリなど観光をメインに回る。

2日目は学部卒業後の進路について新たな視点をできればと、メガベンチャー代表のGrab本社訪問、そしてシンガポール国立大学(以下NUS)で研究と学生の教育にあたっている若手研究者による、日本と海外の大学教育事情の裏話を聞く。

 

そして3日目は、シンガポールの都市再開発庁を訪問後、投資の分野で働く母校OBの方々

から、仕事や教育面で日本とシンガポールを比較する座談会を行いました。 

 

3日目の都市開発庁でのレクチャー
3日目の都市開発庁でのレクチャー

[訪問先でお話を聞きました]

東南アジアを代表するユニコーン企業(※)Grabの本社

~ビジネスの速度はまさに「クレイジー」

(1)合宿の訪問内容

 

Grabはシンガポール発の、東南アジアを中心にタクシー配車アプリを運営するメガベンチャー企業です。Uberの東南アジア特化版といったイメージで、街中でライドシェアされており、日本からソフトバンクも投資するなど注目を集めています。Tech系ベンチャーを目指す学生の競争が世界的に過熱する今、学生や新しい会社が求めるもの感じられればと、今回の訪問先としました。

 

※ユニコーン企業:非上場で時価総額10億ドル超のベンチャー企業のこと。

 

今回の案内と座談会に応じて頂いたJienさんは、中国本土出身の若手職員。The Harvard Graduate School of Design を卒業後、デザイン事務所を経て現在Grab でデザインリサーチャーの仕事をしています。

 

東南アジア全体を手がけていることもあり、企業の成長速度があまりにクレイジーです。仕事の進め方に関しても、以前の職場ではデザイン担当としてデザインの仕事だけをこなしていましたが、ここではアプリのデザインのみならず、ユーザーのリサーチからフィードバックまで一貫して行えるので、やりがいが全然違います。

 

シンガポールの強みは、政府との連携が早いことですね。Grabの運転手に対応した、新しい免許制度がすぐにできたのには驚きました。また東南アジアに事業を展開する中では、ドライバーとなる方々に、スマートフォンの使い方や、gmailのアドレスの取得の仕方を教えるところから始めています。技能や雇用機会の提供という意味では、一企業といえども社会貢献につながっているのでは、と感じながら働けるのは、幸せなことですね。

 

帰り際、Tinderというマッチングサービスとの提携を打ち出す社内広告が目に止まりました。その止まらない勢いが、今のシンガポールを象徴しているようで、印象的でした。

 

NUSの研究者に日本と海外の大学の違いを聞く

~学生の研究は、国にとっての投資対象か?

川内さん
川内さん

今回の案内と座談会に応じていただいた川内見作さんは、NUS Smart Systems Institute に所属する若手研究職員です。日本を代表するユーザーインターフェースの研究者の暦本純一先生が率いる東京大学大学院学際情報学府 暦本研究室の出身で、研究室には川内さんの元で研究を進める日本人研究者の姿も見られました。

 

 

NUSの研究室は人種のるつぼで、自分の研究室もシンガポール人は30人中2人だけです。研究はクオリティを相当求められたり、研究分野の選択と集中が激しいと感じたりする一方で、採択さえされれば、もらえる予算は潤沢です。手続きも日本と比べて簡易かつ柔軟で、英米の大学に類似しています。

 

海外と日本の大学院の環境の多くの違いは、「研究者が社会の中でどういう役割を求められているのか」の違いに起因していると思います。例えば海外では、学生が学ぶことは「国にとっての投資」なので、学生は基本的に奨学金をもらえます。たとえ借金をしても、それを将来返せるポジションが社会の中にある。日本では、学生に強いる金銭負担がやはりまだ大きいと思います

 

日本では、学部の勉強を深めるためや経験を積むために修士課程を取る人がいますが、欧米やシンガポールの大学では、そもそも修士とは「博士前期課程」を示しており、研究者になる以外の目的で来る人は少ないです。卒業後日本で就職するなら、日本の企業はあまり専門性を要求しないこともあって、日本の大学院に進み就職先と繋がりを作る方が賢いと思います。個人的には、本気で専門分野の勉強をするなら海外かなと思います。

 

 

自分が何をしたいかによって、どこで学ぶかを考えておくことも必要

シンガポールが成長市場を持つアジアの側面だけでなく、研究者への投資に積極的な英米の側面も持つことが感じられた訪問となりました。

 

学部卒業後の話というと、中高時代の自分が聞いたらまだ先の話に思えていたと思います。けれど例えば、「学問が好きでどこまでも突き詰めたい」であったり、「新しく何かを作り続けられる環境が好きです」であったり、性格によって実は、近い将来日本以外の環境の方が肌に合う人も、一定数いるのではと思います。15歳くらいの時に、たまたまでも日本の外の環境(あるいはその具体的な情報)を知る機会があると、選択肢が広がる可能性も大きいだろうなと感じています。

 

次回の記事はもっと踏み込んだ振り返り、合宿を終えての参加者座談会の様子をお伝えします。

 

連載つづく・・・

村田幸優(ゆきひろ)くん:東京大学教養学部からの交換留学で、シンガポール国立大学(National University of Singapore:NUS)に留学中。高校2年生の時、模擬国連大会の日本代表として国際大会に出場。中高時代はワンダーフォーゲル部に所属して各地の山を渡り歩く。料理の腕前は誰もが認めるところ。

 

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