世界へ”FLY”する東大生

~入学して即休学 世界の幼児教育を取材する旅へ

登阪亮哉くん(東京大学)

第31回 発展途上国の子どもたちに、実践を通した学びの機会を与えるEQLの試み  ~マレーシアの事例紹介 その1

 

マレーシアでは、ハーバード教育大学院を卒業されて、現在はマレーシアの政府系ファンドで教育プログラムの運営に携わっているNur Azizさんにインタビューしました。

 

登阪)現在はどのようなことをされていますか。

 

Nur Azizさん)マレーシアで、UNICEFとハーバード教育大学院の共同プログラムであるEQL(Equity, Quality and Leadership in Education)と呼ばれる教育プログラムの運営に携わっています。また、マレーシア政府と協力している様々な教育機関に、プログラム作成や人材育成の面でアドバイスを行っています。

 

登阪)EQLとは、具体的にどのような教育プログラムですか。

 

Nur Azizさん)特に発展途上国の子どもたちに対して、PBL(Project Based Learning)、すなわち実践を通した学びの機会を、繰り返し・たくさん与えることによって、独立心や課題解決力などの能力を育もうとしています。子どもが実践する「プロジェクト(※)」によって、リーダーシップ・チームマネジメント・問題の定義・細分化・リソースの確保などの様々な能力が身に付きます。

 

今までの、特にアジアの教育では学問的能力を伸ばすごとに主眼が置かれていましたが、今後は先述のような「21世紀型スキル」と呼ばれる能力がより重要になってきます。

 

※ここで言う「プロジェクト」とは、例えば第16回の記事で出てきたような「Social Justiceを表現するための絵を描く」といったプロジェクトです。これを通して、Social Justiceについて学んだり、友達と意見を交換したりという試行錯誤の中で表現方法を磨いたりと、様々な能力を伸ばすことができます。

 

 

登阪)プログラムの強みを教えてください。

 

Nur Azizさん)従来の教育手法は、幼稚園から大学まで20年間教室の中で指導を行った上で、子どもたちを社会に送り出すという形が主流でした。しかし、21世紀型スキルを伸ばす上では、先生による指導と、社会での実践的な学びを繰り返す方がより効果的であることがわかってきたため、私たちはそういった手法を採用しています。

 

登阪)そういった教育を行う上での先生の役割は何ですか。

 

Nur Azizさん)先生はただ教科を教える存在ではありません。クラスのリーダーになり、子どもたちを教室の外に連れ出して、学びの機会を提供することが求められます。すなわち、リーダーシップを発揮し、学びをデザインすることが先生の役割です。

 

阪)どうすればそのような先生を育てることができますか。

 

Nur Azizさん)先生になる前のレクチャーだけでなく、先生になった後のフィードバックがとても大切です。そうして実際に子どもたちを指導していく中で、先生自身も成長していきます。

 

そして、その際に大切なのは、先生同士で教え合うことです。互いの指導方法について指摘し合うことで、弱点を補い合いつつ、互いの良い点を吸収することができます。

また、違う学校同士でも教え合うと、互いの視野が広がってより良い指導ができるようになります。全く思いつかなかった指導方法が身に付くこともあります。

 

登阪)21世紀型スキルの成長はどのように測りますか。

 

Nur Azizさん)それはとても難しい問いです。結論としては、まだ誰も測り方を見いだせていません。少なくとも、学習の達成度をペーパーテストで測るように、システマチックにはできません。リーダーシップやコミュニケーション能力を定量的に測ることは、その能力の性質上とても困難ですから。

 

しかし、アプローチがないわけではありません。例えば、リーダーシップを発揮している人とそうでない人を比較して、様々な観点で統計を取るというのは一つの手段ではあります。現在も研究が進んでいる分野です。

 

以上で前半のインタビューは終わりです。

それを踏まえて、特に注目すべき点を2点挙げます。

 

(1)PBLの反復

Nur Azizさんにお聞きしたお話の中で最も刺激的だったのは、「PBLを繰り返し行う」という概念でした。

 

日本では最近「アクティブラーニング」という名前で、実践的な活動の中で知識を得ていく教育手法が注目され始めています。それを単発ではなく、繰り返し行いながら、毎回フィードバックを行うことで、より大きな成長を促そうとしているようです。また、伸ばす能力についても「21世紀型スキル」に注目していて、人材育成に対するより先進的な意識を感じられました。

 

(2)先生同士の教え合い

Nurさんは、先生同士の教え合いの必要性を強く主張していました。

 

特に、単に教科だけを教えるのではなく多様な能力を伸ばすことを考えると、先生自身がリーダーシップや問題解決力など、経験を通して学ばなければいけない能力を身に付ける必要があります。しかし、教室の中で自分の目が届いていなかった部分など、自己反省だけでは気づくことが難しい部分もあります。そのため、経験から得られる成長を最大化するためには、第三者からのフィードバックは不可欠であると感じました。

 

 

次回は、今回の内容を踏まえ、幼児教育に必要なことや教育プログラムの作成について伺います。

 

つづく

第32回 子どもを共に育てるチームとして、学校と親が協力することの意味 ~マレーシアの事例紹介 その2

 

※東京大学初年次長期自主活動プログラム(FLY Program)
http://www.c.u-tokyo.ac.jp/info/academics/zenki/fly/

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