青い光をオスと勘違い? 小さなカニの行動の秘密を探る


【生物/ポスター部門】宮崎県立宮崎大宮高等学校 生物部

左から 中村眞美さん(3年)、河野咲菜さん(2年)
左から 中村眞美さん(3年)、河野咲菜さん(2年)

◆部員数 11人(うち1年生2人・2年生5人・3年生4人)


■研究内容「白色のカニと青色の光~ハクセンシオマネキの行動と光の波長II~」

私たちは、宮崎県加江田川河口干潟に生息するハクセンシオマネキというカニの保護を目的に、その生態を研究しています。ハクセンシオマネキは、体長1~2cmの小さなカニです。ハクセンシオマネキに青色レーザーポインターを照射すると、その光を追いかけます。これを青色追尾行動と呼びます。


私たちはなぜハクセンシオマネキが青色追尾行動をするのかを調べました。その結果、ハクセンシオマネキが青色追尾行動をするのは、青色の光を同種のオスだと認識しているからだということがわかりました。

 

ハクセンシオマネキは、成長過程でオスだけが片方のはさみが大きくなり、大きなはさみを振るウェービングという行動をします。ウェービングの一つに求愛シグナルがあり、それを見たメスはオスを追尾し、オスの巣穴に入り交尾します。


昨年、私たちは、ハクセンシオマネキに青色レーザー光を照射すると青色光を追尾することを発見し、これがハクセンシオマネキ特有の行動であることをも明らかにしました。さらに、暗室で紫外線ライトを照射すると、甲羅は青色光を反射しました。


私たちは、ハクセンシオマネキが甲羅から反射される青色光を同種の個体と認識している可能性を考え、青色追尾行動が何を意味するのか調べました。

[実験と結果]
はじめに、ハクセンシオマネキの青色追尾行動と日照時間・気温の関係を調べましたが、青色追尾行動は日照時間・気温の影響を受けていないことが示されました。

以下、様々な実験を行いました。

1. 7色の模型に対する反応距離の比較

ハクセンシオマネキが7色の模型(一辺1cmの立方体)に対してウェービングを行った距離を測定しました。青と紫に対しては白よりも遠い距離で求愛することがわかりました。

2.紫外線ライトを用いた模型の比較

暗室内で実験しました。白、青、紫の模型は紫外線、反射光を強く反射しました。模型の励起光(※)は影響しないことがわかりました。
※蛍光体などの物質に励起[=量子力学で、原子や分子が外から エネルギーを与えられ、もとのエネルギーの低い安定した状態からエネルギーの高い状態へと移ること]を引き起こす光の総称

 

3.酸化チタン(IV)の平均反応距離


酸化チタン(IV)を塗った模型をハクセンシオマネキに接近させ、個体がウォービングを行った距離を測定しました。酸化チタン(IV)模型と白色模型に対する反応距離に差はなく、紫外線は行動に影響を与えていないといえます。

4.レーザー光の照射実験


ハクセンシオマネキに赤・緑・青色のレーザーポインターを照射し、行動の変化をビデオカメラで撮影しました。すると、赤外線を含む緑色光には反応せず、青色の光を追尾する行動が見られました。これにより、赤色光、緑色光、赤外線には反応せず、青色光に反応していることがわかりました。


また、加江田川河口干潟に生息する他種のカニがレーザー光に反応するかを確認したところ、どの種も赤・緑・青いずれのレーザー光に反応しませんでした。

5.ハクセンシオマネキの反射光の観察

暗室でハクセンシオマネキに紫外線ライトを照射し、反射する可視光を撮影しました。白色の個体は青色光を反射することがわかりました。

6.時期による反応個体数の変化

個体を識別し、巣穴から出たら周囲に青色光を照射して、その際の体色を記録しました。反応個体数の割合は繁殖期の約1カ月前から徐々に増加し、繁殖期には約45%で安定しました。一方、ハクセンシオマネキの体の色は繁殖期に黒色から白色に変化します。この過程と、反応個体数の割合が増加する過程は一致します。

7.青色追尾行動の性差

 

繁殖期以前はオス・メスの青色追尾行動の反応個体数の割合に差はありませんが、繁殖期はメスの方が反応個体数の割合が高くなっています。このことから、メスは青色レーザー光をオスと誤認していると考えられます。

8.オスに対する青色光照射実験と反応個体数の割合


オスは、青色光に対して侵入抑止シグナル(自分の縄張りに入って来た同種のオスに対するウェービング行動)を示すことがわかりました。青色レーザー光に対して反応したオス44%のうち、64%が侵入抑止シグナルをしたことから、ハクセンシオマネキのオスは青色レーザー光を同種のオスと認識しているのではないかと示唆されます。

これらのことから、青色レーザー光は、白色に変化したオスの甲羅から反射される青色光と似ているのではないか、と推測されます。そのため、メスは追尾行動、オスは侵入抑止シグナルを行ったのではないかと考えられます。つまり、繁殖期に入ったハクセンシオマネキは、周囲の個体の白色の甲羅から反射される青色光を同種の個体として認識し、繁殖行動や闘争行動を行うのではないか、ということです。このことは、ハクセンシオマネキの体色が黒色から白色に変化する理由を解き明かす手掛かりになるかもしれないと考えられます。

■研究を始めた理由・経緯は?

・宮崎大宮高校生物部では、数年前からハクセンシオマネキの生態について研究しています。今回の研究も、先輩たちの研究を引き継ぐ形で、自分たちなりの観点でハクセンシオマネキについてさらに深く研究しました。(中村さん)
・ハクセンシオマネキは絶滅危惧種にも指定されている希少なカニです。その生態をくわしく調べることで、生息しやすい環境を知り、保護に役立てたいと思い、研究しています。(河野さん)

■今回の研究にかかった時間はどのくらい?

平成23年度からハクセンシオマネキについて研究を始めました。初めの頃は縄張りの研究をしていたのですが、平成25年からハクセンシオマネキの甲羅の色が白色になる理由について研究を始めて今年が3年目です。
月曜~金曜日の週5日の部活で、1日2時間~3時間ほど活動を行いました。(河野さん)
夏の野外観察は休日を使って、朝10時くらいから午後4時くらいまで行いました。(中村さん)

■今回の研究で苦労したことは?


・ハクセンシオマネキは夏に繁殖期に入り、私たちはその期間に上記にある野外観察をおこないましたが、夏の干潟は暑さが尋常ではなく、ハクセンシオマネキに影響しないように黒の長袖・長ズボン・麦わら帽子といった服装だったので、汗をかきながら実験しました。(中村さん)
・干潟に観察に行くので、夏の日ざしと暑さには苦労しました。また、観察に行けるのは、
(1)大潮または中潮、(2)干潟が干出しているとき、(3)昼間、(4)雨が降っていないとき、(5)増水していないとき、(6)学校行事と重ならないとき、といった条件が揃ったときなので、年に3回から8回程度です。台風でなかなか観察に行けないこともあり、大変でした。(河野さん)

■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?


・「時期による反応個体数の割合の変化」のグラフで、繁殖期に行動が活発になっている様子が顕著に現れている点に注目して欲しいです。(中村さん)
・473個体というデータ量と1つの実験を様々な点から見て考察しているところです。またポスター発表ということで、見やすいポスターとぬいぐるみを使ってわかりやすい発表を心がけました。ポスターにiPadを埋め込んで動画も見られるように工夫しました。(河野さん)

■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究


・「Studies on the differentiation of handedness in the fiddler crab,Ucalrcutea」Takao Yamaguchi、Yasuhisa Henmi,2001
・「For whom the male waves: Four types of crab waving display and their audience in the fiddler  crab,Ucalacutea」Muramatsu D.2011-a Journal of Ethology 29:3-8
・「The function of the four types of waving display in  Ucalacutea: Effects of audience ,sand-structure, and  body size」Muramatsu D.2011-b Journal of Ethology 117:408-415
・「白色のカニは何色が好き?~ハクセンシオマネキの行動と光の波長から~」JSEC2013 投稿論文 竹之前槙太郎、日野裕太、梶野梨央、中村眞美、日野遥、渡辺大雅、藺牟田猛、富山ひなの、河野碧奈美
・気象庁ホームページ http://www.data.jma.go.jp
 
■次はどのようなことを目指していきますか?

・ハクセンシオマネキが、同種の個体の雌雄をどうやって識別しているかについて研究していきたいです。(中村さん)
・現在研究を続けています。もっとハクセンシオマネキの生態を解明し、また総文でポスター発表をできるようにがんばります。(河野さん)

■ふだんの活動では何をしていますか?

・活動全体を通して研究しています。実験計画を立てるところから始め、実験し、論文を書いて自分たちの研究をまとめています。(中村さん)
・ハクセンシオマネキの研究に全精力を注いでいます!(河野さん)

■総文祭に参加して


・日本全国から集まった高校生たちと交流することができ、またレベルの高い研究を見ることができて良かったです。先生方や生徒たちからの質問も、今後の研究に役立つものばかりでした。本当に貴重な経験になりました。(中村さん)
・初めて、全国高総文のポスター発表を経験し、今後につながる経験になりました。2日間を通じて、たくさんの方々にハクセンシオマネキについて知ってもらうことができ、また研究のアドバイスや新たな課題も教えていただき、本当によかったです。この経験をまた次に生かして、さらにいい研究ができるようがんばります。(河野さん)

※宮崎大宮高校の発表は、ポスター発表部門の奨励賞を受賞しました。

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