石灰岩の蛍光に影響するものは何?

 

【地学】滋賀県立米原高等学校 地学部

左から西澤江里さん(2年)、近藤凌平くん(2年)
左から西澤江里さん(2年)、近藤凌平くん(2年)

◆部員数 21人(うち1年生7人・2年生8人・3年生6人)
◆書いてくれた人 西澤江里さん(2年)


■研究内容「滋賀県東部の石灰岩について」

私たちは、滋賀県内で採取した石灰岩や方解石に紫外線を照射した際の蛍光に注目し、研究を行いました。


蛍光とは、鉱物に紫外線などを照射した際、そのエネルギーを受けて鉱物が発する光のことです。私たちは本研究で、蛍光を強く発する石灰石の分布と、蛍光の原因について調査しました。蛍光の特徴と石灰岩の蛍光の分布を調べるために研究(1)を、蛍光の原因を調べるために研究(2)~(5)を行いました。


研究(1) 滋賀県東部の石灰岩の分布、蛍光色の調査
仮説:滋賀県東部の石灰岩は地域によって異なる蛍光を発する。

研究(1)では、それぞれの地域の露頭で採取した石灰岩を水でよく洗って乾燥させ、暗室でブラックライトを照射して写真を撮影し、色見本を用いて蛍光を確認しました。
結果、滋賀県東部の石灰岩からは、赤・白から淡黄・緑の三種類の蛍光を確認することができました。これらの結果をルートマップにまとめました。霊仙山周辺では、ほとんどの地域で赤色の蛍光が見られたことがわかります。


次に、赤色の蛍光の強度についての調査結果をルートマップにまとめました。


この調査から、地層にマグマの貫入があったことがわかっている地域では赤色が強くなっていると判明しました。


研究(2) 微量元素の含有量の測定
仮説:蛍光色の違いは微量元素の含有量の違いに由来している。赤色の蛍光はMn(マンガン)元素によるもの。

研究(2)では石灰岩に含まれる成分の分析を行いました。


分析のために、石灰岩を粉状に砕き、濃硝酸を加えて溶かしました。それを3時間加熱した後、吸引濾過して希釈し、溶液を作りました。


92個の石灰岩の分析を行った結果、Mn(マンガン)の量は赤色の蛍光の強度に影響していませんでした。しかし、Sr(ストロンチウム)/Ca(カルシウム)比の値が大きいほど、赤色の蛍光が強くなることがわかりました。

研究(3) 石灰岩の発する蛍光のスペクトルの分析
仮説:蛍光色の違いは、複数の波長の異なる蛍光の加法混色の影響である。

石灰岩に220nmの波長の紫外線を照射したときの蛍光スペクトルの強度を、蛍光分光光度計を用いて調査したのが下の図です。縦軸が強度、横軸が波長です。すると、全ての石がほぼ同じパターンを示すことがわかりました。

一例として、白と赤の蛍光の典型的なサンプルを抽出し、蛍光スペクトルを表したものが下のグラフになります。特定の波長でピークが見られ、蛍光色の異なる原因がわかるかと考えていましたが、実際には二つはほとんど同じ波形となりました。

研究(4) 石灰岩中の別の鉱物
仮説:方解石以外の含有鉱物が蛍光に影響している。

採取した石灰岩でプレパラートを作成し、方解石以外の鉱物の含有量や、有孔虫などの微化石の有無を確認しました。


その結果、石英を含む石灰岩が存在することがわかりました。これらの蛍光スペクトルを求めたのが下のグラフです。灰山を除いてほぼ同じ結果となりました。

研究(5) 緑色の蛍光を発する原因
仮説:緑色の蛍光はヒカリゴケなどの生物による。

仮説を検証するため、以下の処理を行いました。
・たわしで強くこすり洗う
・蛍光を発する面をガスバーナーで焼く
・0.1mol/Lの希塩酸に浸す
・0.1mol/Lの水酸化ナトリウムに浸す


その結果、全ての処理において、処理の前後で蛍光の色や強さの違いは見られませんでした。そこで、プレパラートを作成して断面を観察してみると、黄褐色の鉱物が層状になっていることがわかりました。

以上の研究からわかったことをまとめます。


まず、滋賀県東部の石灰岩の蛍光は赤色か白色で、古生代の石灰岩は赤色、鍾乳石や新しい時代の方解石脈の石灰岩は白色でした。また、マグマの貫入があった地域の石灰岩は赤色が強いです。そして、赤色の強さは、Sr/Ca比が大きいほど強くなることがわかりました。また、緑色の蛍光の原因は、鍾乳洞内にできる水酸燐灰石であると考えられます。

今後は、蛍光の正確な強度を測定することを中心に、異なる波長での蛍光分析や、別のイオンや元素に関する調査、結晶構造の分析などを行いたいと考えています。

 

■研究を始めた理由・経緯は?

先輩が蛍光鉱物について調べている中で、石灰岩が蛍光を発することを知りました。石灰岩や方解石が蛍光を発することを知る以前から、霊仙山周辺に化石採集に行ったときなどに見ていたことで1番身近だったため、滋賀県東部の石灰岩や方解石などについて調べることにしました。

■今回の研究にかかった時間はどのくらい?

2013年に始めて、ほぼ毎日の活動で2年間かかりました

■今回の研究で苦労したことは?

何度も山に行き調査したことです。時期によってはヒルやヘビ、スズメバチなどが出るのでたいへんでした。また、石灰岩のチップつくり、プレパラートつくり、写真撮影などもたいへんでした。

■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?

地域による蛍光色の違いとその蛍光の違いをまとめたルートマップです。できるだけ分かりやすく皆さんに見ていただきたかったので、このような形でまとめました。

■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究は?

・「可視光照射による蛍光鉱物の発光」河野俊夫、多賀優、山下信彦「地学研究」
・「群馬県上野村不二穴・生犬穴・仏穴より燐酸塩鉱物の発見」鹿島愛彦 日本洞窟学会 季刊第11巻
・『分析化学実技シリーズ 機器分析編1 吸光・蛍光分析』共立出版
・『図解入門 よくわかる最新 分析化学の基本と仕組み』秀和システム

■次はどのようなことを目指していきますか?

今回の研究は続けていきたいです。今後は、地点によっての蛍光の強さの違いをもう少し細かく見ていくことと、他の波長を照射した時の蛍光スペクトルを調べていくことをやってみたいです。

■ふだんの活動では何をしていますか?

毎日朝晴れた日は太陽を撮影しています。放課後は毎日データと向き合っています。また、休日は山へ行き次の研究の調査も行うなど、ほとんど休みもなく活動をしています。

■総文祭に参加して

各県で一番になった学校の発表を聞け、さらにそのレベルの高い場の中で、自分たちがやってきたことを発表できたことはとても嬉しく、かつ楽しかったです。緊張はしましたが、自分たちの力を出し切ることができてよかったです。

※米原高校は、地学部門の優秀賞を受賞しました。

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