犯罪捜査にも応用されるルミノール反応。その発光をより長く・より強く!

【化学】熊本県立濟々黌高等学校 化学部

◆部員数 5人(うち1年3人、2年1人、3年1人)
 

■研究内容 「水中蛍 ~ルミノール反応~」

ルミノール反応は、酸化還元反応の一種で、化学発光に分類されます。


反応式は、下図のように表されます。酸化還元反応における酸化剤が過酸化水素水(H2O2)、還元剤がルミノール溶液ですが、この反応を助ける物質(=酸化補助剤 ※1)として、一般的にヘキサシアニド鉄(III)酸カリウム(K3[Fe(CN)6])が使われます。

 

※1 ルミノール反応における金属錯イオンは、通常触媒としての働きをすることを知られていますが、本研究で用いた金属化合物の中には、酸化剤の役割を果たすものも含まれるため、「酸化補助剤」という用語を用いることにします。

ルミノール反応は、青く美しい光を発しますが、実際にやってみると発光は弱く、持続時間もごくわずかです。そこで、発光時間をより長く、そしてより強く発光させる条件を調べるために実験を行いました。


[仮説1]酸化補助剤にヘキサシアニド鉄(III)酸カリウム以外の金属イオンを用いると、発光の様子が変わるのではないか。


文献を調べると、鉄以外に銅、コバルト、ニッケルの金属イオンも酸化補助剤となることがわかりました。そこで、これらをルミノール溶液に滴下して発光の様子を観察しました。下図は、左からFeCl3(鉄)、CuSO4(銅)、CoCl3(コバルト)、NiSO4(ニッケル)の水溶液=酸化補助剤です。

しかし、下図に示すように結果は思わしくありませんでした。コバルト(左下)はよく光っているように見えますが、これはカメラのフラッシュのようなほんの一瞬の発光なので、目標とした「長く光る」には当てはまりませんでした。つまり、金属イオンを変えるだけでは、発光の様子を大きく変化させることはできないことがわかりました。

[仮説2](ヘキサシアニド鉄(III)酸カリウムの構造が錯イオンであることから)他の金属イオンも錯イオンにすれば、発光の様子を変化させることができるのではないか。

錯イオンは、図のように中心の金属イオンに「配位子」と呼ばれる分子やイオンが配位結合してできたイオンです。


実験では、ルミノールを3種類の塩基(Na2CO3、NH3、NaOH)の水溶液に溶かし、過酸化水素水を加えました。そして、仮説1で用いた鉄、銅、コバルト、ニッケルの4つの金属イオンの水溶液にそれぞれ配位子としてNH3、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)、TEA(トリエタノールアミン)を加えて錯イオン化したものを作り、それぞれ1.0、0.5、0.1、0.01mol/Lの4つの濃度のものを準備しました。そして、金属イオン4種、塩基3種、配位子3種のすべての組み合わせについて、発光の状態を観察しました。

実験の結果をまとめるにあたって、以下の3つの観点を指標として、各1点で採点し、評価しました。
 1.沈殿・気体のどちらも発生しない
 2.発光が強い
 3.発光が長い


1の観点を加えたのは、沈殿や気体が発生してしまうということは、その錯イオンが酸化補助剤として機能していないことになるからです。また、鉄とニッケルは全体を通して評価が低かったので、結果のまとめからは割愛しました。


以下、特徴的な結果が得られた銅とコバルトについて結果をまとめます。


銅は、どの条件でも比較的評価が高いものが目につきましたが、その中で塩基にNH3、配位子にNH3を用いた場合(下図で、赤枠で囲んだ部分)で、金属イオンの濃度が濃いもの(1.0mol/L:左上の表)と薄いもの(0.01mol/L:右下の表)について、発光の状態を調べました。

すると、濃度の高いものでは、発光は長くて強かった半面、気体が激しく発生し、黒い物質が水面にたまって見栄えが悪くなりました。


一方、濃度が低い場合は非常に明るく発光し長持ちしますが、気体や黒色物質の生成はほとんどなく、美しい反応が見られました。


これらから、銅イオンは低濃度の方が発光現象には好都合であることがわかりました。

これに対して、コバルトは塩基・配位子・金属イオン濃度の「相性」が顕著に出る形となりました。

金属イオン濃度が0.5mol/Lで塩基がNH3の場合、配位子がNH3の時は音をたてて気体が発生し、徐々に拡散しながら発光する状態でしたが(スライド上)、配位子をTEAにすると、黒色の物質は生成するものの、発光は配位子がNH3の時よりさらに強くなりました(スライド下)。


さらに、金属イオン濃度が0.1mol/Lで塩基がNaOH、配位子がTEAの時は、気体や黒色物質の生成がないため、反応中・反応後を通して長い時間に渡って美しい発光を見ることができました。


コバルトは、金属イオンの濃度によって発光自体の強さには差はありませんが、濃度が高い時には反応を見にくくする気体や黒色物質の生成が多いため、結果的に長く強い発光を得るためには低濃度の方が好条件であることがわかりました。

ここまでの実験で、局部的に強い発光があっても、それが拡散してしまうことによって発光が弱くなったり、持続時間が短くなったりすることがわかりました。そこで、陽イオン交換樹脂を使って樹脂表面で錯イオンを形成させ、錯イオンの拡散を防ぐことで、強く長い発光反応を起こすことを考えました。

 

[仮説3]陽イオン交換樹脂に金属イオンを吸着させることで、発光の拡散を防ぐことができる。


下図に示す条件で陽イオン交換樹脂の表面で錯イオンを作り、発光反応を観察しました。
その結果、発光の状態は、溶液全体が光るものと樹脂が光るものに分かれました。

樹脂は光らず、溶液全体が光る現象は、コバルトに多く見られました。これを模式図で表すと、樹脂に金属イオンが吸着している状態のものに配位子を滴下しても、そこで安定した錯イオンにはなれず、樹脂表面から金属イオンがはがれてしまったと見られます。そのため、樹脂は光らず、溶液全体が光ることになったと考えられます。

樹脂表面が発光する現象は、銅に多く見られました。この場合は、樹脂表面に金属イオンが吸着した状態のものに配位子を滴下すると、そこで安定して錯イオンができたので、樹脂自体が光ったと考えられます。


以上のことから、安定したルミノール反応を引き起こす条件として、次のことが導かれます。


・酸化補助剤は錯イオンにした方が発光がよい。
・金属イオン、配位子、塩基には相性がある。
 →相性の良い例:

  CuSO4(金属イオン)とNH3(塩基、配位子)
      CoCl2(金属イオン)とTEA(配位子)
・金属イオンの濃度による発光の強さ自体には大きな差はない。
・銅やコバルトは低濃度の方が好条件である。
 →反応の見えをじゃまする気体や黒色物質の生成を防ぐことができる。
・発光の拡散を防ぐために陽イオン交換樹脂を用いることができるが、金属イオンの樹脂への吸着度合いによって、樹脂が発光するものと、溶液全体が発光するものに分かれる。

今後も研究を継続し、仮説3の発光の拡散を防ぐ方法をさらに探ってみたいと思います。

■研究を始めた理由・経緯は?

昨年の文化祭にルミノール反応の実験を行った際、私たちが予想していたよりも反応の様子が思わしくなかったため、理想の反応に近付けたいと思い本研究に至りました。

■今回の研究にかかった時間はどのくらい?

昨年(2014年)の秋(10月頃)から今年の2月までで一度休止しています。活動は、平日3~4時間、休日は1日中実験していました。

■今回の研究で苦労したことは?

暗所でないと反応の様子を確認できないため、暗所の確保が大変でした。また、2人で研究していたため、データが増えていくにつれて負担も大きくなりました。

■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?

自分たちが得たデータを分かりやすいように纏めていくことです。また今回は結果の数値化まで至らなかったため、得たデータを、文献を参考にしつつ理論値などと照らし合わせながら、考察に出来る限り根拠をもたせようと心掛けました。

■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究は?


・「ルミノールとルシゲニンの科学発光の機構と反応条件」 慶應義塾大学日吉紀要No48(2010)
・『改訂6版 分析化学便覧』日本分析化学会(丸善出版)
・『改訂2版化学便覧基礎編』日本分析化学会(丸善出版)
・『スクエア最新図説化学』佐野博敏、花房昭静(第一学習社)

■次はどのようなことを目指していきますか?

今後は、画像処理等を利用して、発光の度合を定量化することを目指していきます。また用いるものを変えて、発行がどう変化するかも引き続き研究していきたいです。

■ふだんの活動では何をしていますか?

気になった実験があれば、好きなときに化学室に来て活動日以外でも実験しています。活動日は化学の勉強をしたり、実験をしながら、化学に対する知識を蓄えています。

■総文祭に参加して

全国の研究大会から選び抜かれた精鋭たちが集まっていたというだけあって、発表を拝聴し、日頃の化学に対する空腹感が一気に満たされるのを感じました。自分なんてまだまだヒヨコだなあ、と思いつつ、知識への欲求も生まれ、大変有意義な2日間だったと思います。全てを理解できたわけではなく、悔しいところもありましたが、これからの活動に今経験を活かすことができるのではないかと感じました。


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