川の水を使って太陽光発電の効率を上げられないか?
~メガソーラーの弱点克服に挑む

【物理】福島県立会津学鳳高等学校 SSH探究部

左から 山本純くん、佐藤尚也くん(3年)
左から 山本純くん、佐藤尚也くん(3年)

◆部員数 39人(うち1年生15人・2年生12人・3年生12人)
◆書いてくれた人 佐藤尚也くん(3年)


■研究内容「メガソーラー発電の発電効率向上の研究」

私は近年話題になっている再生可能エネルギーの発電効率に関して、2つの問題点に着目しました。1つ目は、太陽光発電は熱を持つと発電効率が著しく悪くなること。もう1つは有効落差の少ない水資源は水力発電に使えないこと。つまり日本は水資源に恵まれているものの、有効活用されていない水資源も多々あるということです。


この2点を結び付けてある仮説を立てました。すなわち、川沿いにメガソーラー発電所を建設し、パネルの裏面に川の水を流せば、パネルの温度上昇を防ぎ、発電効率を上げることができるのではないかということです。

 

この仮説を立証するためにいくつかの実験を行いました。

 

●実験1 パネルの最大出力の温度依存性調査

この実験では太陽光パネルの温度が上がると実際に発電効率が下がるのかを調べました。実験方法として、5Wの単結晶パネル温度を恒温水槽により35、50、70℃にし、ハロゲン電球を当てつつ異なる抵抗を繋げることによってパネルの電流電圧特性を調べました。

 

またハロゲン光を当てることによってパネル温度が上昇してしまうため、定めた温度よりも1℃程度低い状態からはじめ、定めた温度になった瞬間の値を記録しました。結果はグラフに示すとおりです。

また電力は電圧×電流で求められるので先ほどの実験で得られたデータを滑らかな曲線として、曲線上の点を通りX軸に平行な線とY軸に平行な線が作る長方形の面積の最大値を最大出力としました。

得られた各温度の最大出力をグラフに描くと比例の関係であり、その係数が負であることがわかりました。これより、パネル温度が上昇すると発電効率が落ちることがわかりました。

●実験2 水流に当てたパネルの表面温度、電圧の変化の調査

この実験では水流にパネルの片面をさらしたときにパネルの表面温度は本当に下がるのか、またそれにはどれだけの水流を要するのかを調べました。実験方法として、プラスチックタッパーの蓋に穴をあけてパネルを埋め込み、タッパー内に異なる水流量を流し計測しました。

 

結果、パネルの表面温度が一定になったのは、水流量が、

8.33 ✕ 10-5㎥/s

の時のみでした。

またこのとき開放電圧(電流が流れていない状態の電圧)も一定となりました。

これまでの結果を踏まえて、実際のメガソーラー発電所に必要な水流量を実験2から求めてみました。実験2に使用したパネルは5Wなので、実際の1MWの20万分の1。つまり1MWのメガソーラーパネルを一定温度にするための必要流量は、

8.33 ✕ 10-5 の20万倍 = 16.7㎥/s

であると推測できます。

 

ここで実験1から、70℃の場合と水流を流した後の温度である35℃では、発電力が7.7%向上していることもわかります。一般的なメガソーラーの一年間の発電量が1000kWh/年であるので、7.7%の向上は77kWh/年の発電量の増加を意味します。


これによってソーラーパネルの裏側に水流を流すことにより発電効率が向上することが確かめられました。


さらに、実験値を、理論値と比較することにしました。もし熱交換が瞬時に行われ、かつパネルの温度上昇にエネルギーが使われないと仮定すると、「太陽がパネルに与えるエネルギー=水の温度上昇に使われるエネルギー」となります。


ここで、太陽がパネルに与えるエネルギーはQ=WSで求められます(ただしWは太陽が単位面積あたりに与えるエネルギー量、Sはパネルの面積)。一方、水の温度上昇に使われるエネルギーはQ=ρVcΔTで求められます(ここでρは水の密度、Vは水量、cは水の比熱、ΔTは温度上昇)。


ΔTを5℃として二つの式をVに関して解くと、1秒当たりの水の体積Vは、

2.83 × 10-6 ㎥/s

となりました。したがって、理論値は実験値を大幅に下回ったことから、水流量はさらに減らせる可能性があることがわかりました。

 

今回の研究により、5W単結晶型太陽光パネルの裏面に、8.33 ✕ 10-5㎥/sの水量を流すことによって、真夏の環境下でもパネルの温度を川の水温にまで下げることができることが判明しました。必要な水流量は、理論上まだ減らせる可能性があります。また実験で求めた水流量を1MWに単純換算すると16.7㎥/sとなります。このとき発電効率は7.7%向上し家庭用電力に換算すると23軒分に相当します。

今後は建設予定のメガソーラーの付近にある川の水流量などを調べ、この計画に実現性があるのか検証していこうと思います。そこで水質とパネルの耐久性調査、採算性などの計算もしていきたいです。

■研究を始めた理由・経緯は?

2011年の東日本大震災により、再生可能エネルギーに注目が集まり、メガソーラーの建設が多くされるようになりました。しかし、現在最も普及している単結晶型の太陽光パネルは、温度が上昇すると発電効率が落ちます。一方、水力発電は落差と水量がある場所でないと発電に向いておらず、発電効率が良く採算性がよい地域や場所は、すでに多くが開発されています。この二つを組み合わせて、メガソーラーの温度上昇を抑え発電効率を向上させることができるのではないかと考え、研究を始めました。

■今回の研究にかかった時間はどのくらい?

高校2年生の5月頃から10月頃までこの研究を続け、普段は週3回、1日に2時間ほど行いました。夏休みの間は1日4時間を20日程度行いました。

■今回の研究で苦労したことは?

実験を一度するのに半日ほどかかったことです。試行錯誤をしながら実験を行ったので、実験の途中に問題点が生じて変更が何度かあったことや、光の当て方や、電球の種類など何がよいかなどの予備実験もあり、実験にとても時間がかかりました。
  
■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?

予想をして実験をしましたが、最終的に予想通りにとてもきれいなデータが出たことです。実験環境の工夫に多くの時間を割き、試行錯誤をしたこと結果だと自信を持っています。

■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究は?

[1]『太陽電池のしくみ』京極一樹 (株)アスキーメディアワークス
[2]『トコトンやさしい太陽電池の本』近藤道雄(産業技術総合研究所太陽光発電研究センター)
[3]環境省「阿賀野川」 (2014年8月参照)
https://www.env.go.jp/council/09water/y090-23/mat02_2-5.pdf

■次はどのようなことを目指していきますか?

自然エネルギーをより多く回収することを目標に研究を続けていきたいと思います。今後も水の当方や流し方など工夫をして必要な水流量を減らしていき、実際に適用できるようにしたいと考えています。

■ふだんの活動では何をしていますか?

それぞれの班に分かれ各自が自分の研究を行っています。またFSC(福島サイエンススクールコミュニティー)による理科のセミナーに参加したり、本校主導で行う分野の垣根を越えた科学実験講座など行ったりしています。

■総文祭に参加して

自分たちの発表を全国の科学好きに伝えることができたことを嬉しく感じています。それと同時に他の学校の発表を聞き、様々な視点から展開されている研究内容に触れることができ、とても良い経験ができました。今後この経験を大学進学後に生かしていきたいと思います!!

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