メトロノームの動きに魅せられて 

――同期現象の数理モデル化に挑む!

【物理/ポスター部門】茨城県立土浦第一高等学校 物理実験部

左から、石川真智くん(2年)、岡澤拓史くん(3年)、今村洋介くん(3年)、今智哉くん(2年)
左から、石川真智くん(2年)、岡澤拓史くん(3年)、今村洋介くん(3年)、今智哉くん(2年)

◆部員数12人(うち1年生5人・2年生5人・3年生2人)
◆書いてくれた人 今村洋介くん(3年)、岡澤拓史くん(3年)


■研究内容「振り子の同期現象はなぜ起こるのか~非線形リズムの世界を探る~」

私たちは「一直線上を自由に動く台の上に、同じテンポの複数のメトロノームをのせてばらばらに動かすと、メトロノームが互いに力を及ぼし合い時間がたつと全ての動きが一致する」という同期現象、あるいは引き込み現象とよばれる不思議な現象について研究をしてきました。

別の先行研究で撮影された動画がこちらです。
https://www.youtube.com/watch?v=JWToUATLGzs


私たちが着目したのはこれが単振り子においても発生するのか、ということです。そこで、実験に加えて、「運動方程式」とよばれる高校物理の式を利用して現象を数式で表現し(「数理モデル化」といいます)、さらにコンピューターを利用した数値シミュレーションによる解析も行いました。その結果、メトロノームでは同期現象は発生する一方で単振り子では発生しないことなど、様々な結果が導かれました。

 

1.同期現象の実験と結果

3個の単振り子を取り付けた台を筒の上に乗せた実験装置で実験を行いました。ですが、同期現象が起こるはず!という予想が外れて位相が一致する現象は見られませんでした。


続いてメトロノームの実験では、筒の上に台を置いた「直線型」に加え、四隅を糸につないで浮かせた台を使った「直交型」、円の接線方向に置いた「円形型」の3種類の実験を行いました。いずれの場合でも、同期現象が起こりました。

2.同期現象の数理モデル化

台と単振り子には運動方程式を適用しました。


メトロノームには回転運動方程式を適用しました。

3.シミュレーションの結果と考察

n=3(振り子3個)で実験と共通の初期値を設定して、Excelでシミュレーションを行い、その結果をグラフに出力しました。3つのグラフが一致している・していないという違いからもわかる通り、単振り子では同期現象は発生せず、メトロノームでは同期現象が発生するという結果がシミュレーションでも示されています。

[単振り子についての考察]
慣性力は振幅を変えるための力として作用します。そのため振幅は常に変化し続ける一方、位相は変化しません。実験では減衰もするため、振り子は最終的に台が動かなくなる安定的な動きに収束するのではないかと考えられます。

[メトロノームについての考察]
メトロノームはゼンマイの力で振幅が常に一定となるよう作用するため、慣性力は振幅を変えるよりも位相を変化させるための力となり、ある時点ですべてのメトロノームの位相が完全に一致すると考えられます。円形型の同期も、板の中央に軸があると考えれば、直線運動が回転運動に変わっただけだとみなせます。直交型の場合、直交したメトロノームは力を互いに及ぼさずに独立した動きをするはず、という予想に反して同期が発生しました。ここから同期の原因は、板と垂直な方向の振動にあるのではないかと考えています。

メトロノームのシミュレーションでは、同期現象が起こることが確認できました。モデルも実際の現象に近いものになっています。今後は実験とモデルを一致させて、さらなる解析をすることを主眼に置いて研究を進めたいと思います。また、2次元方向の同期現象もモデル化し、シミュレーションに組み入れていきたいと思います。

■研究を始めた理由・経緯は?

昨年度は「振り子集団の描く模様の解析」というテーマで研究を進め、いばらき総文にも出場しました。総文祭終了に新しいテーマ選択をすることになり、最初は“Stick Bomb”と呼ばれる弾けるドミノの研究を行いました。


ところがこの解析がうまくいかなかったため、悩んだ末に「振り子の同期現象」へと研究テーマの変更を行いました。これは振り子集団の研究を進めていく中で知った現象で、「振り子」という関連性もあるため、ひょっとしたらうまくいくのではと考えました。

■今回の研究にかかった時間はどのくらい?

1日当たり2~3時間で1週間に2日程度の活動を、ちょうど1年間行ってきました。ただ、11月に行われた総文祭予選大会の直前は、週末に研究を家に持ち帰って、1日中研究をすることも多々ありました。

■今回の研究で苦労したことは?

まず、同期現象は単振り子で起こるのではないかと考えて研究を始めましたが、この仮説が実は間違いだったということに気付くのに時間がかかりました。そこから、時間的制約がある中でメトロノームも含めた研究に慌てて移り、続いて数理モデル化・数値シミュレーションをしました。ところが、ここでも想定していたような結果が出てこない!実験結果と整合するグラフが現れるまでは、モデルの修正やシミュレーション方法の見直しを何度も行い、場所を選ばずノートでも教室の黒板でも(あの有名なドラマのように)数式を書きまくっていく日々が続きました(笑)。

■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?


まずは動画をみて同期現象の面白さを感じてください!!


また、メトロノームの同期現象そのものは非常に有名で、大学院などでも研究がなされている場合が多いようです。ですが、そのほとんどが大学レベルの数学を駆使した非常に難解なものです。そこで私たち物理実験部では、高校物理の守備範囲である「運動方程式」を主に使用することで研究を進めました。高校生でも理解できる範囲で、ハイレベルな理論が導けたと考えています。

■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究は?

・『社会を変える驚きの数学』合原一幸 編纂(ウェッジ選書 32 地球学シリーズ)
・「メトロノームの運動方程式」 久保雄輝(龍谷大学理工学部数理情報学科卒業論文)
http://www.math.ryukoku.ac.jp/~tsutomu/undergraduate/2010/10_kubo.pdf

■次はどのようなことを目指していきますか?

物理実験部として、今のところ研究は続けていく予定です。同期現象という性質がやっと研究で明らかになってきたので、今後は様々な条件を変えた実験・シミュレーションを行い、同期現象が発生する条件を見出していきたい!と考えています。

■ふだんの活動では何をしていますか?

春から秋にかけては研究発表会に加えて、つくば市の研究所の一般公開に参加したり、「青少年のための科学の祭典」といった一般向けの対外発信のイベントの準備で忙しくなります。この機会を利用して、ちびっ子たちに科学の面白さを伝えていくわけです!
冬の時期には部員で物理を教え合うほか、数学や物理の話題で盛り上がることも多いです。

■総文祭に参加して

全国大会の空気をもう一度吸いたい―――昨年出場した「いばらき総文」から1年がたち、やっとこの願いをかなえることができました。今年はポスター発表で出場しましたが、いざ会場についてみると昨年にも増してハイレベルな研究が並び、圧倒されそうな勢いでした。それでも「直接物理の面白さを相手に伝えたい!」という思いがあったため、実験を聞き手の目の前で行って視覚・聴覚に訴えるプレゼンテーションを行いました。これが功を奏したのか、多くの人たちがメトロノームの動きに引き込まれていったようでした。

今回もこのような刺激的な場で発表ができたことは非常に嬉しかったです。さらに文化庁長官賞を受賞でき、本当にやりきった気持ちでいっぱいになりました!その一方で「このメダルの重みに、物理実験部の3年間が詰まっているのか…。」と感慨深くもなってしまいました。

私たち3年生としては総文祭が物理実験部の最後のイベントだったので、この自然科学という世界から一旦身を引くのが名残り惜しいです。ですが、これで終わりではありません。総文祭で学んだこと――研究のプロセス、論文・ポスター作製、何よりも観客を引き込むプレゼンテーションのやり方――は物理実験部の先に待ち受けているであろう、大学などでの研究発表に絶対に生きてくると信じています。

この高校3年間、好奇心を忘れず、研究を進められてきたことに感謝したいです!!


※土浦第一高校の発表は、ポスター部門の文化庁長官賞を受賞しました。

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