南海トラフ地震による津波地層を発見したのは、誰にも負けない集中力と体力!

【地学/ポスター部門】 静岡県立磐田南高等学校 地学部地震気象班

 左から、宮平駿太くん(1年)、村木拓斗くん、藤原弘平くん(2年)
左から、宮平駿太くん(1年)、村木拓斗くん、藤原弘平くん(2年)

◆部員数 22人(うち1年生3人・2年生8人・3年生11人)
◆書いてくれた人 村木拓斗くん(2年)


■研究内容「静岡県太田川河口で発見された歴史地震による津波堆積物の特徴と遡上範囲の推定」

私たちは静岡県太田川河口付近の工事現場で、津波堆積物と考えられる砂層を発見しました。この砂層は津波起源の可能性もありますが、洪水起源の可能性もあります。そこでこの2つのうちのどちらであるか調べることを、この研究の目的としました。

研究にあたって、私たちは砂層をイベント堆積物と名づけ仮説を立てました。

[仮説1.イベント堆積物は津波堆積物である]
堆積物中の砂の粒度組成と鉱物組成、ざくろ石の化学組成と色組成を調査しました。

イベント堆積物を過去に研究した3つの津波堆積物、遠州灘海兵砂、古浜堤砂堆積物と比較した結果、石英、長石を多く含んでおり、ざくろ石などの重鉱物が含まれていることがわかりました。しかし、太田川河床砂、古太田川河川堆積物は、岩片を多く含んでおり、ざくろ石は含まれていないという点で異なっています。よって、イベント堆積物は津波堆積物であることがわかりました。

砂の粒度組成と鉱物組成
砂の粒度組成と鉱物組成

それでは、この津波を引き起こした歴史地震はいつのものでしょうか。


それを調べるために津波堆積物付近で発見された火山灰を調べました。その結果、838年の神津島・天上山の火山灰であることがわかりました。また、木片の放射性炭素14法年代測定値も調べました。


この2つの結果を南海トラフ沿いの歴史地震の年表と照合した結果、887年の仁和地震の津波堆積物であることがわかりました。

[仮説2.津波遡上範囲は太田川河口を中心に同心円上に広がる]
次に私たちは津波の遡上範囲を推定しました。
調査方法は簡易ボーリング調査による柱状図の作成です。

白い線で示したのが仁和地震の津波遡上範囲です。このことから同心円上ではないことがわかり、仮説とは異なる結果となりました。

津波遡上範囲図
津波遡上範囲図

その理由を調べるために、遺跡分布図、地形分類図などを総合して古地理図を作成しました。このことから南側にせり出した陸地の部分があることがわかりました。これは津波遡上範囲図とよく対応しています。さらに古浜堤の北側にラグーンがあったことがわかりました。

古地理図の作成
古地理図の作成

そこで、古浜堤の海側とラグーン側の堆積物の違いについて調べました。ラグーン側では岩片を多く含んでおり、細粒で分布の山が2つあることがわかりました。これは、ラグーン内に侵入した津波が岩片を多く含む泥を巻き上げて堆積したためと考えられます。

さらに古地理図を検討して、私たちは津波堆積モデルを作成しました。


これらのことから、結論として
・イベント堆積物は887年の仁和地震の津波堆積物である。
・津波堆積物は太田川河口を中心とした同心円上ではない。
ということが導かれました。

永長地震と明応地震の津波堆積物の間にも同様の特徴を示す砂層が存在し、これは正平地震(1361年)による津波堆積物の可能性が高いと考えられます。今後は、この地層についても同様の検討を行って、南海トラフに沿う太田川低地の歴史地震の繰り返しを地学的に証明したいと考えています。



■研究を始めた理由・経緯は?

2011年に発生した東北地方太平洋沖地震の津波をきっかけに、私たちでも南海トラフに沿う津波の痕跡を見つけられるのではないかと思い、野外調査を行いました。この結果、白鳳地震(684年)、永長(1096年)、明応(1498年)地震の津波堆積物を発見しました。昨年度は、白鳳地震と永長地震の津波堆積物の間に新たに津波堆積物と思われる砂層を発見したため、今年はその砂層の研究を行おうと考えました。

■今回の研究にかかった時間はどのくらい?

2011年に上記の動機から研究を開始し、昨年度にイベント堆積物を発見しました。したがって、今年で5年目の継続研究です。活動はほぼ毎日行い、1日3時間ほど活動しています。

■今回の研究で苦労したことは?

砂の鉱物組成では、1サンプルについて最低200個の鉱物を長時間顕微鏡で見続けて鉱物の種類を鑑定するため、集中力と忍耐力が必要でした。また、簡易ボーリング調査では、人力で鉄パイプを深度3mまで掘削するために、大変な力作業で苦労しました。

■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?

この研究では、様々な調査をして得た津波堆積物の鉱物組成や粒度組成、柱状図などの膨大な量のデータを蓄積しました。そのデータは、私たちが苦労して得たこの研究を象徴するものなので、ぜひ見てほしいです。

■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究は?

・「太田川の砂礫層は津波堆積物か?-歴史地震による津波堆積物の認定と遡上範囲の推定-」中村祐哉ほか,2014(第39回日本学生科学賞応募論文) 
・「静岡県磐田市の元島遺跡とその周辺で見られる2枚の歴史津波堆積物,(演旨)」藤原治・青島晃・北村晃寿・佐藤善輝・小野映介・谷川晃一朗・篠原和大,2012.地球惑星科学関連学会合同大会予稿集,2012, MIS25-09.
・「新版 砕屑物の研究法」公文富士夫,1998, (地学団体研究会)399pp.
・「文化財地図Ⅱ」静岡県埋蔵文化財研究所,1989.
・「伊豆諸島,神津島天上山と新島向山の噴火活動」杉原重夫,福岡孝昭, 大川原竜一,2001.
・「静岡県西部湖西市における遠州灘沿岸低地の津波堆積物調査」高田圭太ほか(活断層・古地震研究報告,No.2,235-243,)2002.
・「西南日本の古生代―第三紀砂岩中の砕屑性ザクロ石」寺岡易司,2003, 地質調査所研究報告,4,71-192.
・「新編火山灰アトラス」町田洋・新井房夫,2003,134-135,pp336,東京大学出版会

■次はどのようなことを目指していきますか?

今までに研究した津波堆積物は別々の柱状図に作成していました。そこで次は、それらが一つにまとまっていて見られ、砂の粒度・鉱物組成の変化がよりわかりやすい柱状図を作成したいです。また、年代の推定の際に使用した火山灰についても、これから詳しく調査していきたいです。


さらに地震に関連しては、地下水の水位や水温を観測して、地震予知の研究も行いたいと考えています。

■ふだんの活動では何をしていますか?

データ集めや論文の作成、資料の整理などを行っています。また、私たちは地学部の地震気象班というグループに所属しているため、気象観測も行っています。

■総文祭に参加して

今回の総文祭は、私たち2年生にとって初めての全国大会でした。これまでの大会では先輩が発表していたので、審査員の先生方の前での発表はとても緊張しました。発表では、自分たちの力不足を痛感させられました。また、他校の生徒に対する発表も回数が多く、かなり大変でした。しかし、とても貴重な経験でためになりました。発表以外では生徒交流会や巡検などで他校の生徒と交流できたのがよかったです。


★磐田南高校地学部地質班は、地学部門の研究発表で最優秀賞を受賞しました。

 ■発表タイトル「遠州灘鮫島海岸で発見されたガーネットサンドの研究~特に磁鉄鉱の起源について~」

◆書いてくれた人 川井陸くん(2年)

左から顧問の青島晃先生、藤原弘平くん(2年)、前田裕貴くん(2年)、川井陸くん(2年)、宮平駿太くん(1年)、橋本恵一くん(1年)、山田翔梧くん(1年)、村木拓斗くん(2年)
左から顧問の青島晃先生、藤原弘平くん(2年)、前田裕貴くん(2年)、川井陸くん(2年)、宮平駿太くん(1年)、橋本恵一くん(1年)、山田翔梧くん(1年)、村木拓斗くん(2年)

■研究内容
私たちは遠州灘鮫島海岸の砂に含まれる磁鉄鉱について、その分布を砂浜→沖→天竜川河口→天竜川上流の順に辿っていきました。そして、磁鉄鉱が母岩の風化によって取り出されてから海に流れ込み、鮫島海岸に堆積するまでの過程を明らかにしました。以下に今回判明した運搬堆積過程の概略を示します。

(1)天竜川上流の三波川帯・御荷鉾帯のかんらん岩に水が加わって蛇紋岩化して蛇紋岩が形成される.その時,かんらん石と水の化学反応により磁鉄鉱が形成される.
(2)この蛇紋岩が風化・侵食されて磁鉄鉱が取り出され、天竜川に供給される。
(3)天竜川河口から流出した磁鉄鉱は沿岸流のはたらきで東に移動しながら堆積する。
(4)ストーム(=台風や高潮など)が襲来すると、海底の磁鉄鉱は波浪により海浜に打ち揚げられる。
[用語]
・「三波川帯・御荷鉾帯」
 →ウィキペディア参照
 →「地質と地形2」参照
・「蛇紋岩」→ウィキペディア参照


■研究を始めた理由・経緯は?

私たちは2011年に、遠州灘鮫島海岸において、ガーネットや磁鉄鉱を多く含む砂を発見し、それを「ガーネットサンド」と命名して研究を重ねてきました。昨年度までの研究で、ガーネットの起源は天竜川上流の花崗岩であることを明らかにしましたが,多量に含まれる磁鉄鉱の起源は明らかになっていませんでした。そこで、今年は磁鉄鉱の起源及び運搬堆積過程を解明して、鮫島海岸の砂の由来に関する研究を完成させようと考えました。

■今回の研究にかかった時間はどのくらい?


2005年に遠州灘海岸の砂に注目して、風紋の研究をスタートさせました。2011年にガーネットサンドを発見し、この研究を今年まで続けています。したがって11年間の継続研究です。ほぼ毎日、1日3時間ほど活動しています。

■今回の研究で苦労したことは?

磁鉄鉱を含む砂の動きを調べるために、私たちは毎月1回、学校から自転車で30分かけて海岸の微地形の測量を行います。また、砂浜で人が入れる大きさの穴を掘り、地層を見るトレンチ調査も行いました。長距離の移動や継続した観測が必要で、体力と忍耐力が試されました。

■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?

地域に根ざした研究テーマに着目して、研究の地道さ、泥臭さでは誰にも負けない自信があります。しかしその積み重ねこそが、この地球を理解する最も有効な手段であることを知っていただきたいと思います。Think globally,Act locally!

■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究は?

・砂の起源や重鉱物(=磁鉄鉱とガーネット)の濃集に関する昨年度までの本校の研究成果
・斎藤正次,1952,5万分の1地質図幅「三河大野」,通産省地質調査所
・斎藤正次・磯見博,5万分の1地質図幅「秋葉山」,通産省地質調査所
・『日本の地質4中部地方Ⅰ』植村武・山田哲雄,1988, 共立出版
・『日本の地質4中部地方Ⅱ』山下昇・絈野義夫・糸魚川淳二,1988,共立出版
・『偏光顕微鏡と岩石鉱物第2版』黒田吉益・諏訪兼位,1983,共立出版
・『日本地方地質誌4中部地方』日本地質学会2006,朝倉書店
・『三波川帯』秀敬,1977,広島大学出版研究会
・『フィールドワーク静岡の地学』鮫島輝彦ほか,1978,静岡県出版文化会
・独立行政法人産業技術総合研究所のシームレス地質図 ダウンロードページ

■次はどのようなことを目指していきますか?

現在鮫島海岸には、海岸侵食防止のための防潮堤が設置されており、その周辺では砂の動きが大きく変えられています。しかしそれが本当に砂浜の縮小の防止の役に立っているのかどうかは、はっきりとは分かりません。そこで今後は、私たちの十八番である測量と、ドローンや巨大カイトによる空撮を用いて、防潮堤が及ぼしている具体的な影響を明らかにしたいと考えています。

■ふだんの活動では何をしていますか?

日常的には、持ち帰ったデータの処理や論文の製作を行っています。最近は凧のテスト飛行と器具の改良が加わりました。また、地学部には地質班の他3つの班があるので、他班の実験の手伝いなどもしています。

■総文祭に参加して

ここまでは、先輩方の努力によって「連れて来てもらった」状態でした。そのため、全国大会で実際にステージに立って発表するのはおろか、スライド発表をすること自体が初めてで、とても緊張しました。しかし、いざステージに立って発表を始めると、とても楽しかったです。一つ経験を積めたので、それを活かして、来年は自分たちが今の1年生をここまで連れて行ってあげたいと思いました。

 

また、普通なら会わないような遠くの学校の生徒と交流できたのもいい思い出です。これからも、積極的に大会に参加して、交流を深めていきたいです。

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