オオサンショウウオの傷病の治癒(再生)を6年間かけて研究


【生物/ポスター部門】高川学園高等学校 科学部[山口県] 

左から 冷泉きららさん、野村舞穂さん、垰本萌さん(2年)
左から 冷泉きららさん、野村舞穂さん、垰本萌さん(2年)

◆部員数 20人(うち1年生5人・2年生5人・3年生10人)

◆書いてくれた人 野村舞穂さん(2年)
 

■研究内容「山口県のオオサンショウウオの生態(3)」

007年、山口県岩国市の錦川水系において生息を確認されたオオサンショウウオ。私たちは、このオオサンショウウオにマイクロチップを挿入し、2015年3月までに154頭の個体識別を行いました。
 
2012年度より、私たちの学校は、科学技術推進機構(JST)の「中高生の科学部推進プロジェクト」に参加し、研究に取り組みました。捕獲した175例のうち、15頭で四肢や指・眼球の欠損部位が再生していたことがわかり、この現象を学会で発表したところ、この現象がイモリ科アカハライモリやピパ科アフリカツメガエルで知られている再生芽による組織の再生と似ているものの、オオサンショウウオ科ではこれまで知られていなかった新しい知見であることがわかりました。

そこで、傷病の状態を外傷、咬傷、肢欠損、指欠損、指肥大、眼欠損、線虫痕の7項目に分類し、診察を行いました。

 

すると、成体127頭(健康体81・傷病体46)のうち15頭において治癒が確認できました。健康体は上流域に多く、傷病体は下流域に多いことがわかりました。


約28kmの流域で調べましたが、治癒が確認できたのは2か所の個体群だけで、もっとも多いのが堰堤の直下でした。個体の年齢は全長に比例すると仮定し、相対的に推定しました。

事例(1) 全長660mmの個体。眼球が白濁して欠損しましたが、約9カ月後には黒色の眼球が出現。また、左後肢の指が肉塊状に変化していたが、指が分離し伸長も確認しました。


事例(2) 全長945mmの個体。右眼が白濁し欠損していた大型個体は、3年後には眼の周辺の肉が盛り上がってきたものの、眼球の再生は見られず、現在もこの状態です。


事例(3) 全長730mmの個体。指腹の傷は治癒し、欠損した指が伸長。その後、漬け針で首部を切断し瀕死状態で保護されました、11日めに針を吐出し、首に皮膚が現れ、今も生存しています。


全長660mm程度の2個体。1個体は尺骨・橈骨(いずれも四肢動物の前肢を構成する骨)で切断した前肢が3年たっても再生していません。別の個体は腕骨部の切断ですが、肉塊は動きました。このことから、肢部の再生は腕骨が境界と推察できます。



治癒(再生)能力と年齢の関係を見るために、傷病が治癒していた15頭について全長を比較しました。体表面の傷病である外傷・咬傷・線虫痕・指欠損・指肥大は全長522〜810mmのすべてで治癒(再生)していましたが、肢欠損・眼球欠損の再生は、全長660mmよりも若齢の個体でのみ確認できました。つまり、器官の再生には年齢が関与するものと考えられます。

外傷の治癒と組織・器官の・骨格の再生は異なります。さらに慎重な検証が必要と考えられます。また、再生するのは2個体群に限られます。水質や微生物などの環境との相関性について研究を進めていきたいです。

 

■研究を始めた理由・経緯は?

もともと高川学園の科学部は継続してオオサンショウウオの研究を行ってきました。そして、調査をしていくうちに新しい発見があったので、それを発表テーマにしました。

■今回の研究にかかった時間はどのくらい?

2007年から約6年間継続して研究を続けています。普段は学校が終わった放課後の4時から7時ぐらいまでやっていますが、月に1回の調査は、土日の1泊2日で、夜の8時から12時ぐらいまで川で調査しています。

■今回の研究で苦労したことは?

今回の研究で自分が特に苦労したところは過去のデータ整理です。6年間分のデータを片っ端から調べていきました。175頭分の個体識別表を見比べていく作業は苦労しました。

■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?

みなさんには見えない部分の工夫ですが、夜間調査で計測したオオサンショウウオ1頭1頭に個体識別表というものを作成したのですが、その個体識別表の記録するデータの事についてです。実際のオオサンショウウオの欠損部位などを写真に撮り、マイクロチップなどでどの個体かの区別をつけられるようにしました。

■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究は?

[1]「イモリは再生時に如何にして発生時計を巻き戻すか?」 千葉親文(TXテクノロジー・ショーケース 生命科学)
[2] 有尾目3種における器官再生の相関性」河村梨央・他(2014 第6回坊ちゃん科学賞.東京理科大学)
[3]「新生物図表」(浜島書店)[幹細胞とその利用.幹細胞と再生.pp208-209]

■次はどのようなことを目指していきますか?

オオサンショウウオの再生というテーマはいったん終了し、なぜ再生がおこるかを川の水質や河川の構造、川の水体系という視点からまた研究をスタートさせたいと思っています。

■ふだんの活動では何をしていますか?

カエルやイモリなどの生物の飼育や、夏休みには小学生、中学生を対象に自由研究のお手伝いなどもしています。また、高川学園は中高一貫校なので、中学生の科学部員は植物や魚の研究も行っています。

■総文祭に参加して

他校の生徒さんや審査員の先生方とお話しすることができ、今回の研究の欠点やもっとこうしたほうがいいのではないかというアドバイスをもらうことができました。また、自分の研究に対する姿勢を見直すことができました。全国で賞をとりたいという同じ目標を持った仲間とも出会うことができ、研究や将来の科学についてお話しすることができました。

私たちはポスター発表で人との距離が近く、とても緊張しましたが、その分聞き手と対等に話すことができ、会話感覚でお互いの話を聞きあえました。

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