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第2回

【本】村上龍『希望の国のエクソダス』


古市 憲寿 (東京大学大学院総合文化研究科院生、有限会社ゼント執行役)

 

10年以上変わらない、この国の希望


家から少し離れた高校には、バスと電車を乗り継いで通っていた。毎日往復で二時間くらいの通学時間にはよく本を読んでいた。この『希望の国のエクソダス』を読んだのは、高校一年生の秋くらいだったと思う。


学校にも慣れてきて、ちょうど文化祭も終わった頃。代わり映えのしない毎日に飽き飽きしていた。そんな当時の僕にこの小説は、退屈な日常からの「出口」を垣間見せてくれるものだった。


メインのあらすじはシンプル。中学生80万人たちが、いきなり学校を辞めて、自分たちでビジネスを始めてしまうという話だ。次第に彼らは経済や政治に影響を与えるくらいの大きな存在になっていく。そしてついには、自分たちの「国」を作ろうとする。


本が出版された2000年。この頃の日本は、不思議な雰囲気に包まれていた。1991年のバブル崩壊以降断続的に続く不景気。1997年には山一証券など大企業が倒産、他の企業でもリストラの嵐が吹いていた。


「どうやら日本という国は、今までとは違う国になってしまうのではないか」

そんな風に、一部の人たちが気づきかけていた。その時代の空気と親和性があったのか、この本は発売当初から大きな話題を呼んだ。


10年以上前の小説だけど、本の内容はほとんど古びていない。円の没落、ネット上のハッカー、地方再生、少子高齢化といった本書のモチーフは、今でも連日のようにメディアを賑わせている。そして何より「インターネットを通じた抵抗運動」というのは、2011年のアラブ革命以降、ジャーナリストたちがしきりに語りたがる話題の一つだ。


それは、作者の先見の明はもちろんだけど、日本社会の「変わらなさ」をも示している。この国は10年以上、同じようなところを、うろうろして、問題を先送りしてきた。

 

今度こそ、日本社会は変わるのだろうか。その「出口」のヒントが、この小説には隠されている。そしてその「出口」は、若い世代が感じる変わらない日常に対する閉塞感に対するヒントでもある。

 

 

プロフィール

古市 憲寿(ふるいち のりとし)

東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学専攻博士課程在籍、有限会社ゼント執行役

 

1985年生まれ。現代日本の若者像を若者自身の立場から研究する社会学者として大学界からもメディアからも注目を集める。主な著書に『絶望の国の幸福な若者たち』(講談社)など。NHK「ニッポンのジレンマ」などテレビ出演も多い。


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