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第3回

【映画】「腑抜けども、悲しみの愛を見せろ」


古市 憲寿 (東京大学大学院総合文化研究科院生、有限会社ゼント執行役)

 

自分だけは特別だって思いたい

 

「やっぱりここは、自分のいるべきではない場所とつくづく思います。みんなどうしようもなく低いレベルで満足している人ばかりです。目の前のくだらない生活に追われるばかりで、夢とか理想とか本当に大切なことを全く理解できない人たち」

 

「腑抜けども、悲しみの愛を見せろ」の主人公、和合澄伽の、劇中の言葉だ。彼女は家族の反対を押し切って上京、東京で女優をしていたが、傲慢な性格が災いして、事務所との契約も打ち切りになってしまう。そして今は実家に戻り田舎暮らしを続けている。

 

彼女はわずかな望みをかけて、東京の映画監督に自分をアピールする手紙を書く。そこでは、いかに自分が「特別な人間」であって、周りの人々とは「違う」のかということを書き綴った。


私は特別だ。人とは違う。いつか誰かに評価されるはずだ---

小説家の辻村美月がよく題材にするような、こういった妄想というのは、おそらく多くの人が一度は抱くものだろう。だけど、多くの人は普通、そんな妄想を忘れて、もしくは現実と折り合いをつけながら、大人になっていく。

 

この作品に出てくる人々は、みんなどこか「おかしい」。人が死んでも変わらずに日常を送れる女。姉の生態をホラーマンガのネタにする妹。

 

作中では、いくつかの大きな事件が起こる。だけど、そんな事件を経ても、人々の生活や性格はほとんど変わらない。ちょっとくらいショックを受けるかも知れないが、またすぐに元の生活に戻ってしまう。


この描写は、とても示唆的だ。人っていうのは、中々変わらないのかも知れない。

オーディションのシーンで主人公は、こんなことを言われる。「才能ないなら才能ないなりに努力したほうがいいわよ」。

 

だけど結局、主人公は変わることができなかった。つまりそれは、努力ができるかどうかを含めて、人は変わることができない、ってことなのかも知れない。そういう残酷なことを、この映画を観ながら考えていた。

 

 

プロフィール

古市 憲寿(ふるいち のりとし)

東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学専攻博士課程在籍、有限会社ゼント執行役

 

1985年生まれ。現代日本の若者像を若者自身の立場から研究する社会学者として大学界からもメディアからも注目を集める。主な著書に『絶望の国の幸福な若者たち』(講談社)など。NHK「ニッポンのジレンマ」などテレビ出演も多い。


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